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痴漢ラブストーリー
私は痴漢に遭っている。毎日、部活が終わって、下校の途中、同じ電車、同じ時間で。
だけど、私は、その人を訴えようとは思わない。思えば小さい頃から男女と言われてきた私。そんな私にも、魅力を感じてくれる人がいる。それがとても嬉しかったから。
今日痴漢にあったら、私は、彼に告白しようと思っていた。たとえ下心からでもいい。私を好きになってくれた人に……。
傾く夕日。揺れる電車。汗ばむジャージ。いつもの光景の中、私は王子様を今か今かと待ちわびる。……来た。お尻に手の感触。いつもの触り方。私は勇気を振り絞った。
「あの、私……! あなたのことが!」
「えっ!? き、君は……」
王子様は一瞬、驚いて――こう言った。
「女じゃないか! 冗談じゃない、俺はホモなんだ! 糞、騙しやがって! 女の尻なんて誰が好き好んで触るか! 訴えてやる!」
私は訴えられた。そして普通に勝った。