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電話
女性が一人、マンションに住んでいた。この春上京したての新社会人だ。
だが彼女は今、人間関係でも、金銭面でもなく、別のことに頭を抱えていた。
無言電話、だ。自宅の固定電話に、かなりの頻度でかかってくる。いつも同じ番号。気味が悪くてしょうがない。これが、都会。彼女は早くも、心を折られかけていた……。
一方、とある田舎。高齢の女性が、不釣り合いな携帯電話を一生懸命に操作していた。
「ばあさん、また電話かい」
「あら。いいじゃないですか、あなた」
「一日中触ってるじゃないか。だいたいお前、あの子に携帯買ったって言ったのか?」
「まだですよ。びっくりさせたいの」
「へえ、まあいいや。で、つながったのか」
「いえ、この辺は電波が悪いらしくて、出てはくれるんだけど声が聞こえないの。ああ、早くあの子と話がしたいわ。もう一度、かけてみましょ……」