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瞬間湯沸器
あるところに、雲を作ることの出来る不思議な象がいました。悲しい話、辛い話。そんな“湿っぽい”ことをその大きな耳へと話すと、象がそれを雲にして、鼻から空へ飛ばし、その代わり、話した人の気分はすっかり晴れるのでした。象は皆の人気者でした。
ところがある時、急に象が体調を崩しました。人々は一生懸命世話をしましたが、象は日に日に弱っていき、ついに、死んでしまいました。それからというもの、天気の悪い日が多くなりました。空には常に雲があって、そしてたまに、涙のような雨を降らしました。そして、雨に打たれた人々は、なぜだか、とても悲しい気分になるのでした。
それからどうなったかは分かりません。ただ、水を入れると蒸気を出す道具……所謂“瞬間湯沸器”は、当時の人々が、象を想って作ったのではないかと言われています。だから、もしかしたら、あなたの家の湯沸機にも、象の印が書いてあるかも知れませんね。