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コートジボワール
「ねえ。コートジボワールってさ、太ってる女性が好まれるらしいよ」
「……ダイエット、やめるか?」
男女が二人、居間で運動をしていた。テレビからは、地理歴史の特番が流れている。
「あっ、嘘。嘘だよ。今テレビで言ってただけだって。やめるなんて言ってないし」
「そうか。なら喋ってないで腹筋の続き」
「くぅ、怠惰よ、女の咎よ……っ、ふっ」
「気にしすぎだと思うがな。俺は今くらいの体型が一番好きだが」
「べ、別に、あんたにほめられても」
「耳赤いぞ」「う、うるさ……あ……」
ふと、彼女の視線が固まった。上気した頬。薄桃色の唇。体温が感じられる距離。
「……あのさ」「……どうした?」
彼女は一瞬ためらって、しかし、意を決したように、口を開いて――。
「平安時代ってさ」
「ダイエット、やめるか?」