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エーギルの正体が人ではない事を知って数日は窓辺に彼が来ても決して窓を開けようとしなかった。

が、先に根負けしたのはソフィリアの方だった。

エーギルがいったい無視され続けてもどれほどの日通い続けたのかはお互い数えるのがバカらしくなってしまっただから覚えてない、というのは後々彼をからかう彼女の口癖になる。




窓を開けた日の事を忘れはしないだろう。

彼はいつもただ窓辺で彼女を眺めているだけだった。ソフィリアがそれを気にならないわけがなかったが、それでもエーギルの静かで穏やかな瞳を見れば決心は鈍らなかった。


窓を開けてはだめだわ、そう、だめなのよ。


しかしその日はコツンと窓を軽く叩く音で裁縫をしていた手元から目を離して、音のする方を見上げた。

やはり、思った通り彼がいて、あわてて下を向いた。

あくまでも裁縫に夢中になっているふりを続けていると、またコツンと音がする。


だめよ、ソフィリア絶対窓を開けないって決めたんだから。絶対にだめ。


コツンと水晶をはめ込んだ窓を叩く音は次第に二度三度と間隔が短くなっていった。

コツン…コツンコツン、コツコツコツ…コツン、コツコツコツコツコツコツコツコツ…



もうだめ!我慢の限界!文句の一言でも言わないと気が済まない!

顔を思いっきりしかめて窓の外の男を見上げた。

精度が高いと言っても水晶の窓では涙を浮かべた瞳が映す景色のように淀んで歪んで滲んで見える。それでも彼女が怒って睨みつけているのは彼にだってわかったはずだ。

それでも、彼は心の底から嬉しそうに…単純に彼女の視線がやっとこちらに向いたことへの喜びでその顔に笑みを浮かべた。




…ああ、負けた。

屈託のない笑みに、自分に注がれる慈愛を無視する事をやめた。

窓を開けると無口な彼の方から口を開いた。

「もう二度と話を聞かせてくれないのかとおもった」

「私はそのつもりだったわ」

突っ立っているだけの彼が珍しく男らしく太く骨ばった手をちょっと伸ばして、手の甲を天にかざした。

チュ、チュピチュピ、ツクツクツク、チュピチュチュチュピ、ツツツ

小鳥がこぞって彼の指先や手の甲や肩にとまってさえずった。

息を止めてそれをみていたソフィリアにエーギルは申し訳なさそうに、でもやはり嬉しさに声を弾ませて言う。

「今日はどうやったらこちらを向いてくれるか考えて考えて会いに来た」

それではまんまと彼の策略にはまったということか。

「…窓を叩いてたのは…この子たち?」

「ああそうだ」

指先や手の甲でなかむつまじくお互いをつつき合う小鳥に彼女は見惚れた。こんなに近くて小鳥を見たのははじめてだ。

「どうしてこんなに近くに来てくれるの?あなたの頼みなら聞いてくれるの?」

「そうだな…頑固な娘が窓を開けてくれなくて困っていると言ったら頼みを聞いてくれた」

「がん…っ!?頑固ですって!?」

「私が何日も通ってもいっかな窓を開けてもくれないし口もきいてくれない、というのをひとことでまとめると他に言いようがあるのか?」

たしかに頑固というか強情というかそういう言い方しかできないかもしれない。にしてもだ、何か他に言いようを変えてくれたっていいじゃないか。

「でも、とても賢く淑やかで花のような女性で自分はソフィリアに会えないと辛くて耐えられないと言ったら『それは恋だ』『ぞっこんだ』『惚れたんだね』と冷やかしてきた、ソフィリアこ奴らはいったいどういう意味の言葉をしゃべっているんだ?」

一度に複数の驚きに襲われると頭が真っ白になるくせに彼の言葉だけは耳から流れ込んでくるのだから手に負えない。

言葉を続けられないソフィリアを見て少し拗ねたように肩や手や腕で好き勝手さえずっている小鳥たちをじとっと睨んで「お前たちの言っていることを鵜呑みにした我がばかだった」とつぶやく。

「エーギル…あなたってとってもあざとくてずるいわ」

「?」

小鳥たちまで彼と仲良く首をかしげている。

今度こそ本当に、自分はこの男に敵わないことを思い知った。



「エーギル、あなたがずっとそこに立っていると私見上げてなくちゃいけなくて、長くおしゃべりしてると首が痛くなっちゃうわ」

「話を聞かせてくれるのか?」

弾ませた声がどれだけ嬉しいかを言葉に出さずともソフィリアに伝わった。

頷くと彼女の髪が跳ねて肩からするりと落ちた。日の光に毛先がきらめいてきれいだ。

「あなたのための椅子があるととても嬉しい」

体を勢いよく動かしたせいでとまっていた小鳥たちが一斉に逃げ去ってしまった。

「いますぐ買ってくる」



子どもがそのまま大きくなったような彼が自分よりひとまわりどころか1万倍年が離れていることを知って驚くのは、彼が椅子を抱えて帰ってきたすぐ後の事

連日投下

海神の話は思ったよりも長くなりそうです…いや、でも書きたいから、書きたいから書くんだ

ソフィリアがトリシアに似ているかどうかはちょっと分かりかねますが、海神の口調が偉そうでないのは、まだ若いからです(笑)


今回も読んでくださってありがとうございます!

次話も乞うご期待☆

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