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戦闘員始めました  作者: ねむりくろぬこ
一章 戦闘員のすゝめ
4/11

怪人

「一先ず、団長以外はみんな無事だな?」


『…………』


「あー、新人以外は俺が、こういう時のために次期団長に指名されていたのは知っているな?」


 声を発するものは誰一人いなかった。


「団長は、こういう時が来ることを予想していた。元貴族だしな。今回団長を連れ去ることを指示したのは恐らく王族だ。家出したときに貴族体制の一部をめちゃくちゃに壊したらしいからな。最悪の場合、団長は処刑されてしまうだろう」


 俺は息を飲んだ。


「だが団長は、俺にこう命令した。『私一人のためにお前らが危険な目にあう必要はない。私を助けるためだけに、仲間たちを危険に晒すようなことがないようにしてくれ』だそうだ。俺はあくまで団長の意志を尊重しようと思う」


 そう言って、戦闘員197番は戦闘服を脱ぎ捨てた。

 現れたのは丈夫そうな革鎧で包まれたがっちりと鍛え上げられた肉体。

 それはつい先日まで良く見かけた、冒険者が好む服だった。


 口元を歪め、獰猛に笑う先輩。

 背中からゆっくりと、身の丈ほどもある大剣を取り出し、それを軽々と振り回した。


「文句があるなら俺をぶっ倒してから言ってくれ」


 文句なら全員があるだろう。

 それを怪人となった元戦闘員197番は、圧倒的な力でねじ伏せようとしている。

 誰もがやりたくない汚れ役を引き受けてくれたのだ。


 しばらく誰一人として動かない静寂の時間が流れる。

 戦闘員197番先輩の見せた覚悟の大きさだけじゃない。

 立っているのもつらいほどの高濃度の魔力の塊を、直接叩き付けられているのだ。


「団長を助けたい」


 いつの間にか、俺の口からはそんな言葉が漏れ出していた。


「ほぉ……」


 先輩の鋭い視線が俺を射抜く。

 俺はそれを無視して、盾を高く掲げた。


「短い期間しか一緒にいなかったけど、俺は団長に惹かれたんだ! あの人の元でがんばって、一緒に世界を変えたいと思ったんだ! みんなだって同じ気持ちのはずだ! 先輩だって……」


 先輩は否定も肯定もしなかった。

 ただ、苦しそうにホームの出口に立ちふさがるだけ。


「……団長は恐らく、明日には正義の味方本部へと移される。その後に助け出すことは実質不可能。チャンスがあるとしたら、それは正義の味方第6支部に団長が拘留されている間のみ」


 透き通った声で誰かがそう言った。


「おい、余計なことを言うな! ……消えたし。とにかく、ここは通さ……」

「ヴィーッ!」


 戦闘員の一人が突然叫び、先輩へと突っ込んでいった。

 左目に涙がある下級戦闘員に手荒な扱いをするわけにもいかず、先輩は大剣を投げ捨てて応戦する。


『ヴィーッ!』


 最初に突っ込んでいった戦闘員に続いて、次々と突撃していく戦闘員たち。

 しかし、そこはさすが怪人といったところか。

 次々と襲いかかってくる戦闘員に対して一切怯む様子を見せなかった。


「ヴィーッ!」


 先輩が武器を捨てたので、俺も盾を置いて突撃していく。

 ステータスの高さに任せて先輩を押さえつけようとするが、全く捉えられない。

 それが精いっぱいだった。


 どんなに複数の人間で襲い掛かっても、戦闘員197番先輩を止めることはできなかった。

 何という素早さ。

 何という膂力。

 それはまさに怪人を名乗るにふさわしく……。


「その程度かッ!」


 怪人が一喝すると、複数の戦闘員が余波だけで吹っ飛んでいく。

 俺は何とか踏みとどまり、何度でも攻撃を仕掛ける。

 しかし、それもかろうじて指先が脇腹をかすめるだけで……。


「ひゃああ!?」

「……え?」


 変な声をあげた先輩が脇腹を抑えてうずくまる。

 ホーム全体の空気が完全に凍った。


「え? もしかして先輩……え?」

「うるさい! 何だというんだ! 何度も言うがここは……あひゃあ!? やめろ、その手の動きは反則だぞ!」

「…………」


 今度は腕をわきわき動かしただけで奇声をあげる先輩。

 俺はものすごく悪い顔をして、先輩に問いかけた。


「そこを通してくれないと、ここにいる全員でくすぐりますよ。先ぱーい……」



     *    *    *



 あの後5分はくすぐりに耐えた先輩だったが、失神寸前になったところでやっと折れてくれた。


「ただし、いきなり飛び出したりはしないこと。念入りな作戦を練って、誰も犠牲が出ないようにしてくれなくちゃ、団長に顔向けできないからな」


 涙でぐちょぐちょに濡れた顔を拭きながら、先輩はそう言った。


「団長を救出する班と、敵を誘導する班に分けましょう。俺が広場で敵を誘導します。幸い、防御力だけなら怪人にも劣らないという自負がある」

「無茶だ。一体何人正義の味方がいると思っている」


 鼻水を拭き終わった先輩がそう言った。

 反論しようと口を開きかけた俺を、手のひらを広げていさめる。


「俺も一緒に誘導するぜ」

「先輩……」


 赤くなった鼻でも恰好がつくんだから不思議だ。


「俺もだ」

「じゃあ俺も」

「俺だって」

「俺も俺も」

「お前ら……」


 次々と誘導班に立候補する仲間たち。


「私は救出班ね」

「こっちは少数精鋭で行った方がいいだろう。逃げ遅れたらあれだし」

「あたいもこっちに行かせてもらうよ」


 とんとん拍子に話が決まっていく。


「よし、お前ら。一番気の合うやつとPTを組め。これからフォーメーションの細部を詰めていく。出発は30分後だ。それまでに万全の態勢を整えるぞ!」


『ヴィーッ!』



     *    *    *



「あれが、正義の味方の本拠地なのか……」


 それはまさに巨大な城と表現するのが相応しい威容。

 その周囲をこれまた巨大な砦がぐるりと囲んでいる。


「まずは俺が第6支部の南門を破壊し、広場に敵を誘導する。ここまではいいな?」


 俺を含め戦闘員4人が、小さく頷く。

 ちなみに俺以外は全員上級戦闘員の中でも特に魔力量の高い怪人候補だった。

 まあ、魔力量は大体同じか少し上くらいだから問題ないだろう。


「行くぞ、お前ら!」


『ヴィーッ!』


 まずは先輩が大剣を大きく振りかぶった。


「メテオクラッシュ!」


 技名を発し、目の前にそびえたつ南門に大剣を叩き付けた。

 金属がひしゃげる嫌な感じの轟音が鳴り響く。

 数秒後、西門からも同じような音が聞こえた。


「よし……侵入に成功した! まずは俺らが様子を見るから、戦闘員62番と273番は連絡係としてここで待機していてくれ!」

「はい!」


 それが下級戦闘員の俺に与えられた仕事だった。

 本来なら後方に待機して万一の場合に備える班に配置されるところだった。

 文句は言えない。

 まあ必要なら命令は無視して助けにいくけど。


 そんな風に木陰から壊された門の中を見ていると、背後から剣が振り下ろされた。

 肩に痛みが走るが、幸い血が出るほどの威力ではなかったようだ。


「なっ……戦闘員62番先輩、どうしちゃったんですか!?」

「へへへ……だまされたなぁ、悪の組織どもめ!」


 距離を取った後に振り返ると、戦闘員に偽装していた正義の味方がゲスい笑い声をあげた。

 いつの間に入れ替わったんだ……。


「お前ら……俺達に手は出さないんじゃなかったのか!」

「どの口がそんなこと言うんだ? 俺らは本拠地に侵入し、門を破壊した不届きものを一網打尽にしようとしてるだけだぜぃ?」


「戦闘員273番、逃げろおおおおおお!」


 敵陣の奥から先輩の叫び声が聞こえたが、それはもう遅かった。

 右を左を見ても正義の味方がうじゃうじゃいやがる。

 背後を見ても同じだろう。

 俺は現実逃避気味に空を仰ぐと、そこには空中から俺に狙いを定めていた正義の味方の姿が。


 あれ? これ無理じゃね?


「うひゃあ!?」


 絶望に落とされた俺の足を何かが掴んだ。

 地面から突き出た腕が俺を奈落の底へと引きずりこもうとしていた。

 地面の裂け目から覗く赤い瞳がいやらしく笑う。


「ぎゃあああああ! 正義の味方こわいこわいもう許してー!」


 必死に逃げようとするが、どこにも逃げ場なんて存在しない。

 正義の味方どもは、どんどん包囲の輪を縮めて近づいてくる。


 ああ、もうダメかな。

 そんな風に諦めかけたときだった。遠くで何かが爆発する音が聞こえた。

 救出班のみんなが支部を破壊した音だろう。


 周囲を見渡せば、必死に包囲を崩そうとしている仲間たちの姿が見えた。

 そうだ。

 みんながボロボロになりながら戦っている。

 団長を助けるために、一生懸命がんばっている。

 俺はこのままでいいのか?


「いいわけ、ねーじゃんかよ」


 男なら、負けると分かっていても戦わねばならないときがあるらしい。

 今がそのときだ。


「ヴィーッ!」


 俺は叫んだ。

 都合よく覚醒できたりすることはないと思ったけど、そうすれば何かが変わる気がした。


 一番弱そうな正義の味方に掴みかかり、後ろへと投げ捨てる。

 一つ包囲を越えても、また新たな包囲が俺を待ち受ける。

 いいさ。

 全部抜けちまえば同じことだ。

 四方八方から襲い掛かってくる魔法の群れを避け、避けきれないものはむしろ当たりに行って道を作る。


 こんな時にだけ出しゃばってくるファンタジー要素が恨めしい。

 全身が焼けるように痛かったり冷たくなったり痺れたりで忙しいぜ。


「ヴィーッ!」


 俺は最後の力を振り絞り、前へと進んでいく。

 これでもある程度チート能力入ってるから魔法耐性が高いんだ。

 さすがにこの数に攻められるとひとたまりもねえけどな。


 なんだかやけに思考がはっきりしてやがる。

 だんだんと痛みも感じなくなってきた。

 いつの間にか魔法の嵐は止まっていて、再詠唱の準備に入っているようだ。

 これをもう一発やる気かよ。

 どんなリンチだ。


 何十人もの正義の味方が、杖をこちらに向け、詠唱を続けている。

 ひどく現実味がない光景だ。

 だって俺の腹からも剣が一本生えているし。

 とおもったらちゃんと痛い。

 どうやら近接型の正義の味方の一人が俺の腹を剣で突き刺したらしい。

 俺は地面に倒れ伏した。


「……クソッ」


 口の中にたまった血を吐きだす。

 それでもまだ不快な鉄の味は滲み出てくる。

 ああ、俺、ここで死ぬのかな。

 せめてこの世界の何かを変えてから死にたかったな。


 それと、元の世界に戻って母さんやばあちゃんにお礼が言いたいな。

 ばあちゃんが作ったロールキャベツが死ぬ前に食べたかった。

 あと納豆とか味噌汁とかお刺身とかも食べたい。

 そうだ、積読を崩すのも忘れてはならない。

 そして何より……ああ、ちくしょう。

 やり残したことばっかじゃねえか。


「死にたく、ない……」


 詠唱の声はもう聞こえない。

 近接型に任せとけば大丈夫だろうと判断したのだろう。

 魔力も無限じゃないからな。


 音が聞こえた。

 金属が擦れるような嫌な音だ。

 俺は迫りくる足音から、少しでも遠ざかろうと必死に這う。

 だんだんと体が冷えてくるような感覚がする。

 実際冷えているのかもしれない。


「みんなと一緒に……まだ、生きていてえよぉ……」


 昨日会ったばかりじゃねーか。

 もっとお前らのことを知りたい。

 みんな気のいい奴らばっかなんだ。

 ヴィーッヴィーッ言いながらバカやりたい。

 やっとこっちでもやりたいこと……大切なものができたんだ。

 それなのに死んじまうなんてあんまりじゃねーか。


「良く言った」


 会って二日と経っていないし、一日も離れていないのに妙に懐かしい声が聞こえ、清らかな水が俺を包んだ。

 服に染み込んできたが嫌な感じはしない。

 むしろ暖かくて心地良いくらい。


 敵地の中心で堂々と胸を張るその姿は、他ならぬ団長のものだった。

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