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階層都市シリーズ

階層都市

作者: 鰰家

 軽い酩酊感に似たようなモノを感じながら夜の街を疾走する。

 いやもうこの際、夜の街の闇に失踪していいのではないか?、と息を切らしながら考える青年。

 秋物の薄いコートはところどころ汚れている。


 ほんの5分前。

 青年は麻薬の取引のために仲間二人と取引場所に来ていた。場所は廃ビルが密集している二階、人が全く通りもせず来ないので取引にはうってつけの場所である。

 この麻薬を無事に売りさばけば、当分の間衣食住に困ることはなかった大金が手に入る。そう思うと笑みが止まらなくなった。

 しかし、約束の時間になって現れたのは全く予期せぬ来訪者。

 宗教被れの修道服に身を包んだ神父が血まみれになった取引相手を引きずり回していた。

 数時の瞬き、マズルフラッシュと共に仲間の一人の眉間を鉛の銃弾が貫いていた。

 暴力的な音楽が耳の鼓膜を振るわした、と同時に仲間の一人の決定的な死は確定となる。

 反撃しようと腰の銃に手を伸ばした時には生き残った仲間のもう一人の脚を打ち抜かれていた。

 今度こそ相手の持っている銃を視認する。

 中折れ式のリボルバーのように見えたが、無駄な弾を消費せずいとも簡単に仲間を撃破したことから、この神父と自分との間に広がる隔絶を体験する。

 仲間には悪いが自分の命を優先させて貰う。

 そうして5分間の逃避行に思考を繰り返す。

この麻薬を仲間が持っていなかったことが幸いだ。

 このまま逃げおおせたなら麻薬は別のヤツに売りさばくとしよう、ビルとビルが密集しているおかげでビル間の隙間が狭い。容易に飛び越えた滑空中に、つんざくような発砲音。

 右脚の脹ら脛を打ち抜かれて、悲鳴にならない声を青年は上げる。

 着地地点でのたうち回り苦しむ、歯を食いしばりながら逃げようと無事な左脚に力を込めると左足の太股を今度は打ち抜かれた。

 両足から血と体温と力が抜けていく。動悸が今までに刻んだことのないビートをたたき込む。危機から感じるエンドルフィンやらドーパミンが思考を甘辛く麻痺させる。

 脚をひきずりながら振り向くと、冷たい鉄の顎が突きつけられる。

「せめて、祈るといい」

 そこで青年の意識は永遠に暗転する。


 ***


 とある都市。

 北には標高2000mクラスの山々が連なる山脈。

 南には世界で一番の海洋面積があるとされる大海。

 海と山の幸が同時に採れるのである、立地条件は良い土地である。

 そこには階層分けされたと言ってもいいほど東と西で貧富の差があった。

 西の貧民街。

 中央の密集街。

 東の高級街。

 こうも綺麗に世のカースト制をまるごと、同じ都市にぶち込んだのも珍しい。

 誰かは言った。

 そうこの都市の名前は「階層都市」なのだと。


 密集街と貧民街の境界線。

 金網によってかつて仕切られていた境界は貧民街の住人によって取り払われた。

 今ではかつての面影として食い破られたような痕がある金網しか残っていない。

 これより向こうには行くな、と言われていたことを少女はあわてて思い出した。

 秋が近づいているというのに清楚なイメージを連想させる白いワンピースに身を包んだ少女は金網から離れた。

 少女は金網に近づいた時に持っていたタッパーを少し握りしめていたことには気づいていない。

 少女は横目に金網を見ながら目的地にへと急ぐ。

「いそがなきゃ……」

 目的地の教会である十字架はとっくに見えていた。アスファルトの剥がれかけの地面を踏みしめながら少女は走る。 

教会の前に立ち、少女は辺りを見渡す。

 寂しげな街の片隅に残念な気持ちを胸に秘めながら、少女は教会の中に入ると等間隔に並べられた祈りの際に使う長い木製の椅子の最前列で大きないびきをかきながら寝ている人影に寄り添う。

「神父さーんっ、起きてー?」

 神父は声につられて起きあがった。

 修道服に身を包んだ神父の胸には読みかけの聖書が俯せに開いたままだったので、起きあがった際に床に落としてしまう。

「神父さんっ、聖書落としちゃだめなんだよ?」

「………ああ、君か」

 床に落ちた聖書を大事に抱えている少女を神父は一瞥してからそう言った。

 眠気のせいで頭が回らない神父は時刻を確かめる。既に正午を超えて、おやつの時間にさしかかろうとしていた。

「君も暇だねぇ」

 この教会の教会としての役割はほとんど形骸化している。

 祈りに来る人がいないので、本棚にある予備の聖書はただ日焼けするだけの書物。

 手入れをされていないステンドグラスや主の像は何処か煤や埃に汚れていた。

 そんな教会にいつも来るのだから、この少女は暇なんだろうと神父は思った。

「神父さんには負けるけどね」

 皮肉をこめて、言われた気がする。

 

 この少女の年齢だと学校に通うはずなのだが密集街に住んでいても学校に通えない子はいる。

 彼女の家庭は母子家庭なので決して裕福だとは言えない。

 むしろ、日々の生活を続けることで精一杯なのである。

 それを憂い神父は一度、学費くらいなら援助する、と申し出をした。

 申し出をこの幼い彼女は断った。なぜ断ったのか、その理由を未だに神父は聞けずにいた。

 そこまで介入する必要はないと判断したから、だ。

 必要としていないなら無理にするのは押しつけがましい。

 少女本人の意志を尊重する。

 

「神父さん、また香水臭いよー?」 

 鼻を押さえながら少女は可愛らしげに顔を少しゆがめる。

 その台詞に神父は眉をひそめてから、自分の修道服を掴んで臭いを嗅ぐと柑橘類系の香りが鼻腔に突き刺さり、嗅覚を刺激する。

 さも当然のような顔で神父は首をかしげる。

「そうだろうか?」

「そうだよ」

 少女が神父の傍に寄る。

 修道服をつかんで、自らの鼻に寄せて臭いを嗅ぐ。さきほどと同じ解答をする。

「やっぱり、臭いよ」

 ニコニコ、と自分が正しかった正当性を得てから笑顔を浮かべる少女。

 神父はこめかみを二度、人差し指でトンットンッ、と小突いてからため息をつく。

「次からは別のヤツにするよ」

 その答えに納得を得なかった少女は頬を膨らませ(不機嫌の意を浮かべ)て、首を横に振る。

「そうじゃなくて、さ」

 彼女はタッパーを力を込めて掴む。

「つけてなかった頃の神父さんの本来の臭いが良いの」

 少女の笑顔で小首をかしげて純粋な瞳を向けられる。

 神父はますます困惑といった表情で困っている。

 気に入ってるんだけどな、とまた香ってくるコロンの臭いをかいで彼はそう思った。

 少女ははっと思い出したようにタッパーを見つめて蓋をあけると、香ばしい良い香りがたつ。

「実はね、今日クッキーを焼いたの」

 無骨で不格好ながらも、それは「クッキー」だった。

 タッパーにおさめられているクッキーの中には焼きすぎて焦げているモノもある。

 神父はそのタッパーの中から一番マシだと思われるクッキーを選別する。

 以前、少女が焼いたクッキーは調味料の配分を間違えたのか酷い味だった。

 その場は全部自分が食い、彼女を騙すような形で申し訳ないのがやるせないが偽りの感想を伝えた。

 今回はどうか、口の中にクッキーを放り込む。

 サクッと口の中で固形物を噛みしめる。

 舌触りが伝える、味覚の結果は意外なモノだった為に目を丸くした。

「美味しい…」

「ほんとっ!?」

 嬉々として目の前の彼女は手を合わせて、その場で可愛らしく跳ねた。

 ああ、こうした少女の顔が一番似合うな、と考えながら二枚目のクッキーに手をつけた。


 少女と話しながらクッキーを全て平らげる頃には橙の光がステンドグラスと反射して別の全く新しい色を示し、良い味を出していた。

 気づけば夕方だった。いくら夕方といえど、この「階層都市」である。

 素直に安全ということはできない。。

 少女を家の近くまで見送り、帰路にたつと教会の前で一人の女性が立っていた。

 前髪の両眼にかかる髪をうっとうしそうにしている切れ目は人に威圧を与え、彼女との距離を置くだろう。

 神父と同じ修道服を着ていて、背中にかかる長い髪。

 ふくよかな大人の女性らしい胸にはクロスのペンダントが下げられている。

 神父は女性をその場にいないモノと扱い素通りした。

 教会の戸を開け中に入る背中に罵声が刺さる。

「待て、この少女趣味ロリコン野郎」

 全く真偽のない嫌みをふっかけられた。

 神父は憎々しげに振り返ると、見た人全てが不快な気分になるような厭らしい笑みを女性―――シスターは浮かべていた。

「間違ってないだろう?」

 的を的確に得ているだろ、と言いたげな顔でシスターは言った。

「……用件は?」

 この女の話に付き合っていては面倒くさいとシスターとの今までの経験で察する。

 少女趣味ロリコンと言われたことに否定も肯定もせずに、シスターがここに来た用事を聞いて話を逸らす。

 自分の意図は丸見えだったが、シスターは長話をするつもりはなかったようだ。

 変わらない厭な笑みを浮かべてつぶやく。

「夜のお仕事です」


 ***


 シスターと神父は教会ではなく、近くのビルの一室で話していた。

 外は既に夜になりつつあり、世界は闇に包まれている。

 貧民街よりなため、外の歩道は基本的に真っ暗である。

 実は神父がいる教会は教会をカモフラージュしているだけ。

 神父の雇い主である代行屋の事務所でもある。

 代行屋。

 本人に代わり行うことから、代行屋と神父は呼んでいる。

 シスターもそれを気に入って、今は代行屋で通っている。

 殺人から人捜しまで幅広く、色んな依頼を請け負い、実行する。


「昨日の麻薬取引の妨害」

 神父はシスターの言葉から先日片づけた依頼を再確認する。

 貧民街の頂点でもある、ある「組織」からの依頼である。末端組織の破落戸ゴロツキが海外から寄せた麻薬を地元の売人に売り、小遣い稼ぎをしようとしたから始末してほしいという依頼。麻薬の流れを管理したい「組織」としては目につく癌だったらしい。

 売人と破落戸、仲間の二人の素人もいいところの四人を始末するだけの簡単な仕事だった。

 その記憶を頭の中で反復しながらシスターの話に耳を傾ける。

「売人、覚えてるぅ?」

「売人?」

 正直をいうと破落戸のようなチンピラよりも、あのビルの二階で暇を潰していた売人の方がよく覚えていた。

 なので、シスターの話に頷く。

「売人が他の組織の人間だったので、ちょっと面倒くさいことに」

「面倒?」

 それはねー、と伸ばしてシスターが勿体つける。

「小さい組織が報復しに来るそうです」

 彼女がその台詞を言ってから数秒後。

 神父とシスターが話していた外の玄関にへと続く部屋では、玄関の扉が銃の乱射と共に壊され、人の脚音が飛んできた。

 明確な意志をもって組織が報復しに来た。


 ***


 組織の報復をしに来たと思われる男達が殺害の意志でやってきているのは軽機関銃、サブマシンガンの銃弾の往来でハッキリしている。

 チラリと見えた男達の清潔には見えない服を見る辺り貧民街の出身というのは目に見えて分かった。

 というか、そもそも一般人が帯銃しているわけがない。

「これ、どうするんですか」

 部屋にあった大きいソファを塹壕に飛び交う銃弾の嵐を見て神父はシスターに問いかける。彼は修道服に隠されて見えないが、服の内にある胸のホルスターにある愛銃に手をかける。

 スコフィールドと呼ばれている系列の中折れ式の回転式拳銃リボルバー

 撃鉄の近くにあるバレルスイッチを入れると、銃身が解放されて頭を垂れるように形を変える。六発の弾が納めるべき、弾倉の内部を確認できる。

 六発全てが埋まっていることを認識し終えると、銃を発砲できるようにセットし直す。

 シスターも銃を構えた。昔のとある帝国で使われ軍用拳銃だったモーゼルと呼ばれる拳銃だとか。

 時々、突撃こそが有終の美だと勘違いした馬鹿が部屋の奥へと特攻してくる。

 ソファという塹壕から少しだけ顔を出し、胸を正確に打ち抜くと塹壕に戻る。

 ジリ貧もいいところである。

「あのさ」

「はい?」

「提案があるんだけど」

 こんな状況でもシスターはニタニタと笑いながら人差し指を上に向け、宙で円を描く。

 組織の人間の弾はよく用意されてるのか、銃弾の暴風雨が部屋の中を蜂の巣にしている。

「何ですか?」

「窓から逃げよう」

「は?」

 部屋に一つしかない窓は塹壕を越えた向こう側、今まさに銃弾の中にさらされている。

 その提案はつまり銃弾の中に自ら飛び込むということ。

 そんなことができるわけない、と考えていると銃弾の雨が止む。

 変だな、と勘ぐっていると目の前にいくつものパイナップルに似た緑色の無機質なモノが転がってきた。

 ゴロゴロ、と地面に転がるそれの名前を自分はよく知っている。

 手榴弾である。

 体の芯が一気に冷えていくのがわかった。

 分かっているからこそ、体は動いていた。

 シスターは既に窓に向かって走った。

 気づいたら窓にへと神父はシスターと一緒に走っていた。

窓を突き破ると同時に背中に熱い衝撃波がビルの一室を破壊で蹂躙していた。


 ***


「やっぱり頭叩くのが一番」

 と言うとシスターは神父を置いて何処かへ走っていった。

 必然神父も同じところにいることはできない、それに隠れ家であるビルの部屋がばれた時点で教会に帰ることも不可能だろう。それに密集街でも貧民街にとても近い場所だから発砲できたのだ。

 このまま密集街に逃げても一般人が危ない。

 今回は自分が巻き起こしたツケを他の人まで被る必要はない。

 そのため戦いの舞台は貧民街に及ぶ。金網をまたいで神父は貧民街を走り抜けていく。背後から近づいてくる軍団の足音は止まない。十数人が軽機関銃を持っていることはビルの戦闘で分かっている。

 まともに戦っては駄目だ、と神父は奇襲で一人ずつ潰していくことにした。

 まだまだ貧民街の浅いところに自分はいるし、大体の地理なら把握していると神父は自負している。

 貧民街といってもこっちの方がビルが多いので、密集街よりも貧民街の方がよっぽど密集街という名前がよく似合っていると思う。

 すぐ逃げれるように、ビルとビルの隙間から身を乗り出すようにする。

 待ち伏せして、集団がビルの曲がり角を曲がったところに銃弾を撃ち込む。

 二手に分かれたのか人数が減っていたが、それでも六発全ての銃弾を撃ち尽くす。

 脚や腕、体を押さえて4人くらいがその場でうずくまる。残り2発は外してしまった。残りの組織の人間がこちらにサブマシンガンの銃弾を撃ちまくる。すぐに身を引いて、ヒットアンドアウェイで走りだす。

 弾倉の空になった弾を排夾して、新しい弾をスピードリローダーという素早く弾の補給ができる道具で弾倉に弾を込める。

 隙間から出ると二手に分かれた内の少数人数、3人の男と出くわす。

 突然出てきた宿敵を前に男はギョッとし、体を硬直させてどうすべき脳は判断できていても、体が動かない。

 先頭にいた一番近い男の腹に掌底を肝臓にたたき込む。

 貧民街の出身の多くは酒をよく飲酒しているし、正しい食生活を送っているとは思えない。

「かふっ、ぐっ」

 男は飲酒によって発生した肝臓病によって弱っていた肝臓への一撃の痛みによって白目を剥いて、痛みを訴える。

「撃て、撃てぇぇぇぇっ!」

 白目をむいている男の首を掴み、相手に向けて反転させると神父は男を盾にする。

 ただでさえ弱っていた痛みに男は銃弾の痛みから意識を失う。

 残りの男二人は仲間を撃ってしまったことから動揺し、サブマシンガンから引き金を離した。銃弾の運動エネルギーは人間の体一人を壁にするだけで止まる。人体の壁というものは銃弾に対して有効であり活用できるレベルである。

 ただし、銃によっては威力があるものや打ち続けられる事による破損によっていつまでも壁としては優位ではない。

 至近距離なため残りの二人に弾を正確に撃つことは容易い。

 二人の腹に風穴を開け、その場に倒れた。

 三人の男が倒れている一面は血の池で広がってた。

「………はぁ」

 血の池の上で神父はうんざりするように二発の空薬莢をその場に捨てた。


 ***


 徐々に数を減らしていく仲間の数から男は恐怖していた。

 仲間を殺されたから報復したかったのは本心だった。

 代行屋とかいうぶさけた輩に舐められていたのがもっと嫌だったのが、本当のところの感想だったのかもしれない。仲間を殺した男と、その雇い主の女へ色々としてヤるつもりだった。

 ところが、いざ殺しの宴へ繰り出してみたら十五人いた仲間のほとんどは一人、二人と負傷に負傷を重ねて退陣していく。

 頭に問い合わせて、もう止めようと言っても必ず復讐を果たせとしか言わない。

 当然かもしれない。たった二人に組織の面子はほとんど潰されていく。既に組織の復讐ではなく見栄にへと目的が下位互換する。

 絶対に、復讐を果たす。とは言ってもこの男の組織に対する忠誠心もそこまで高くない。

 命惜しさ、自分の身可愛さに男は逃げていくが月明かりの中で修道服に身を包んだ男を視野に入れた瞬間、背筋が凍り付いた。

男にとって銃を構えている暇は無かった。

 神父にとって銃を撃っている暇は有り余るほどだった。

 身体を打ち貫く痛みが増えていく。

 一発目、右脚の太股に。

 二発目、利き腕の右掌に。

 三発目、左脚の足の甲に。

 こうして最後の一人となった男は叫ぶ。

「てめぇ、のせいで……くそがっ」

 怨嗟と呪詛の視線を神父に男は向ける。

 腹の奥からこみ上げる怒りと恨みが言葉にはならず感情の渦となって孕む。

 ギリギリ、と歯を食いしばっていく。

「よくも俺の仲間を殺して……」

 神父に向けられる怨嗟を神父はうるさい蠅のように簡単に払う。

 眉間に押し当てられた人を殺すための道具の顎は後は引き金を引くことで男の命を奪える。

 神父は躊躇いもなく引き金を引き絞ると、一発の銃声と共に一人の男に引導を渡した。


 ***


 貧民街のとある小さな組織のアジトである地下の一室。

 そこで組織の頭目である男は豪華な部屋の中で目を見開いて、部下に起こった状況を受け止めきれずに驚愕していた。

「全滅……だと?」

 遠隔通話していた仲間からの定期連絡もなく、いくら呼びかけても返事は返ってこない。

 音信不通となった鉄の塊に苛々をぶつけ、地面に投げつけた。

 こうなれば腕利きの「地下」の高額な殺し屋を雇ってでも必ず代行屋を潰すと決意する。

 そうと決まれば善は急げである。

 殺し屋を雇うために金を用意しなければ、と金庫の中から金を取り出そうとする。

 金を出して、近くの受話器に手をかける。

 電話をしようと番号を押しても、ひたすらに電話は無音を徹底する。

 何も伝えないし、伝わらない。

 仕方がないので移動しようと、自らの部屋から出ようとすると。

 上で爆発音が聞こえたと思ったらガラガラと地盤が崩れて瓦礫と共に頭目の頭上を襲った。ぐしゃり、と生々しい音が聞こえた。

 小さな組織のアジトは爆発と共に崩れ去った。


 ***


 名前を知らない男が放った怨恨の言葉を思い出す。

「……よくも、か」

 引き金を引いた神父の指にはまだ命を奪った感触が確かに残っている。

 神父はこの世界にどれほど長くいたか分かっている。あそこで殺さなければ、さらに恨みをもっていつの日か彼は復讐の鬼となりて襲いかかるだろう。

 殺すときにはキッチリ殺す。

 殺意を向けてきた相手には必ず死を与える。

 立ちはだかる敵には弾丸を持って殺さなければならない。

 この業界で生き残ってきた。

 もう自分には戦いの道しか残っていない。何十、百と殺してきた自分には他の道は残っていない。残せるわけがないし、残せたこともない。人を殺し続けることでしか、今まで人を殺してきた自分に正当性と一貫性を持つことができないからだ。過去も殺した、ならば今も未来も殺し続ける。

 それは変わらないことだし、変えるつもりはない。

 そうして神父は自分を保ち続けたのだ。

彼はこれからも、殺し続けるであろう。

 この階層都市で。


 ***


 神父はかいた汗を風呂とシャワーで洗い流して、肌着と下着を着る。

 袖に服を通してから、硝煙臭い自分に一番気に入っている柑橘類のきつい香水をふりかけた。

 今着ている修道服とはいうものの、自分はこの服を着たまま死ぬことを決めている。

 だから、この服は自分にとって死に装束なのだろう。

 ホルスターに銃を入れ、スピードローダーに弾をセットし、予備の弾を持つ。

 既に朝を迎えている空からそろそろ暁が顔を出そうとしている。

 ベッドよりも教会の最前列の方が寝やすい。

 今日も少女は来るのだろうか?、と考える。

 少女とのつながりが堅気との唯一のつながりなのではないかと思考してから、自分には無縁だった再認識する。

 自分にはそんなものはいらないのだ、と。

 神父は背中に朝日の日差しを受けながら教会の扉を開き、最も前の列にある木製の長椅子に座るとベッドで寝そべるようにゴツゴツした感触を背中に受ける。

 ステンドグラスから差し込む朝の光は眠ろうとしていた神父にとって邪魔にしかならない。

 神父は仰向けになって寝ようとしている自らの顔に聖書を開いて乗せる。

 そのまま眠りについた。

 こうして神父の一日は終わる。

たまに小説をかかないと自分のかき方を忘れてしまう

なので、定期的にかかないといけないと思ってはいるのですが…

期間が空いてしまうのですよね

地下迷宮の方も連載したいのですが、まだ短編止まりです

期間が空いてしまうので完結できるか不安ですので連載できないのが悩み


この話も迷宮と同じで名前は書いておりません

あくまで「神父」や「シスター」です

いつ登場人物の名前を決める日が来るのでしょうかね


では失礼します


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