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静かなる采配と、白き影


 ――ざわめきが、止まらない。


「やっぱりあいつらが――」

「兵糧庫の件だって……!」

「信用できるか!」


 里の空気は、再び荒れ始めていた。


 疑いは、火種になる。

 一度燃えれば、簡単には消えない。


 そして今――


 その火は、確実に広がりつつあった。



「ちがうって言ってるじゃん!!」


 ナナが声を張る。


「うちらじゃないって!」


「だが証拠がない!」


「そっちだってないでしょ!?」


 言い合い。


 止まらない。


 誰も止められない。



 ――そのとき。



「静まりなさい」



 たった一言。


 それだけで。


 空気が、凍りついた。



 音が消える。


 ざわめきが、完全に止まる。


 まるで、最初から存在しなかったかのように。



 人の間が、自然と開いた。


 そこを――


 一人の少女が、ゆっくりと歩いてくる。



 十二単。


 年若いはずのその姿。


 だが――


 誰一人として、軽くは見ない。



「……小町姫」


 誰かが、息を呑む。



 彼女は止まらない。


 騒ぎの中心へ。


 まっすぐに。



「争うなら、外でなさい」


 静かに言う。


「ここは、里です」



 反論は――出ない。


 出せない。



 小町は、ゆっくりと周囲を見渡した。


 疑い。怒り。恐怖。


 すべてを、見切る。



 そして。


 牡丹たちへ、視線が向く。



「……貴方たちが、“原因”ですね」



「……否定はしない」


 リオが静かに答える。


「だが、犯人ではない」



 小町の目が、わずかに細くなる。


 観察。


 測定。


 そして――判断。



「嘘はついていませんね」


「え、分かるの!?」


 ナナが食いつく。


「声と呼吸で」


「怖っ」



 小町は一歩、近づいた。


 その動きに、無駄はない。


 ほんの一瞬。


 袖の内側が、わずかに揺れる。



 ――小太刀。



 気づいたのは、リオだけだった。


 わずかに、視線が動く。



「ですが」


 小町は続ける。


「あなたたちは“異物”です」


「ぐっ……」



「この里に、存在しないものを持ち込んだ」


 兵糧庫の方へ、視線を向ける。


「結果が、あれです」



 沈黙。


 誰も否定できない。



「……じゃあ、どうすんの」


 ナナが、少しだけ睨む。


「追い出す?」



 小町は、首を横に振った。



「いいえ」



 一拍。



「使います」



「……は?」



「この状況」


 静かに言う。


「偶然にしては、出来すぎている」



 空気が、わずかに変わる。



「兵糧庫の爆発。殺人。そして疑心」


「すべてが、繋がっている」



 リオの目が、わずかに細くなる。



「……見えてるのか」


「ええ」



「“誰か”が、意図的に崩している」



 ナナが息を呑む。



「だからこそ」


 小町は断言する。


「外の力が必要です」



「……つまり?」



「あなたたちは」


 一歩、踏み込む。



「私の指揮下で動きなさい」



 命令。


 それは、提案ではない。



「断ったら?」


 ナナ。



「その場合」


 ほんのわずかに。


 袖の内側に指が触れる。



「排除も検討します」



「こわっ!?」



 だが。


 冗談ではない。


 空気が、それを示している。



 リオが、静かに息を吐いた。


「……いいだろう」


「ちょ、リオ!?」


「合理的だ」



 小町は、わずかにうなずく。



「決まりですね」



 そのとき。



 ――ぞくり。



 空気が、歪んだ。



 風が、止まる。


 音が消える。



 小町の目が、鋭く上を向いた。



(……いる)



 見えない。


 だが、確実に。



 “何か”がいる。



 遠く。


 森の奥。



 白が、揺れた。



 夜ではない。


 だが、その存在は――


 まるで月光のように、静かだった。



 ほどけた白い髪。


 血のように細い瞳。


 風もないのに、揺れる気配。



 それは、ただ立っていた。



 視線だけが――


 こちらを、見ている。



「……っ」


 小町の呼吸が、ほんのわずかに乱れる。


 だが、表情は崩さない。



(……格が違う)



 直感。


 経験ではない。


 本能。



(あれは――)



 敵。



 だが。


 同時に。



(まだ、動かない)



 次の瞬間。


 気配は、消えた。



「……今の、なに?」


 ナナが小さく呟く。


「……分からない」


 牡丹も首を振る。



 リオだけが、低く言った。


「……あれは、“来る側”だな」



 小町は、何も答えない。



 ただ。


 静かに、決断する。



「――動きます」



 全員が、彼女を見る。



「これ以上、崩させません」



 その声は、小さい。


 だが。


 誰よりも、強い。



 ――そして。


 戦いは、まだ見えない場所で、


 すでに始まっていた。




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