人を殺せる魔法
「助手君。君は何でも魔法が手に入るとしたらどんな魔法が欲しいかな?」
「そうですね……人を殺せる魔法、ですかね」
「助手君。君、もういい歳だろう?そんな子供じみたことは……」
「博士。どうすればあなたは死ぬんですか」
博士。
二千年前に不老不死の魔法を使った、世界一バカな女。
「博士は僕が殺してあげます」
そして、僕が愛した女。
この空間には、世界一バカな男と、世界一バカな女がいる。
「博士、僕旅に出ますね」
「そう。何年後に帰ってくるんだ?百年?二百年?」
「……人間の寿命は六十年ほどですよ」
「知ってるよ。冗談さ」
まったく。この人は何を考えているんだろうか。
二千年。
僕はたった十六年で、考えることが一つしかない。
二千年もあれば、何を考えることができるだろうか。
未解決問題か、宇宙か、世界が終わる瞬間か。
……いや、博士のことだ。どれもくだらないと唾棄するだろう。
「じゃあ行ってきますね。長くても一年後には帰ってきます」
「そう。行ってらっしゃい。気を付けてね」
僕が向かう先は一つ。
二千年前、人間を最も殺した存在、魔王。
そいつの墓だ。
着いた。
ちょうど半年ぐらいか。
「蘇生魔法」
墓に魔法をかける。
すると、土から手が飛び出した。
その手は地面を掴み、徐々に姿を現す。
「はじめまして魔王。僕は貴方を復活させた人間です」
「そうか。ご苦労」
「人を殺す魔法を教えてください」
「良いだろう」
ザンッ
僕の体が真っ二つに切られる。
蘇生魔法
「僕は死にませんよ。早く教えてください」
「そうか。誰を殺したい?私にそいつを殺させろ」
「博士。こちら魔王です」
「へー魔王……どうもこんにちは」
「こんにちは」
ザンッ
「ダメだ助手君。私はこの”死ぬ”という現象が起こる魔法を体が受け付けない」
「そうですか……」
「世界は二千年で最悪になったな」
「私は帰る。元々、これは人を殺す魔法じゃない」
「じゃあどんな魔法なんですか」
「人を楽に殺す魔法だ」
「そうですか。さようなら」
「あぁ。さようなら」
うーん、魔王でも殺せないとなればどうしようか……。
「あ」
気付いた。最適解に。
「不老不死の魔法教えてくださいよ」
「気でも狂ったかい?助手君」
「冷静に考えれば、ずっと一緒に居られるって最高じゃないですか」
「……無理だな」
「どうしてですか?」
「この魔法は難しくてね。もっと熟練したら教えてあげる」
「それっていつ頃です?」
「さぁ。四十四年後じゃないかな」
「……博士は僕が嫌いですか?」
「好きだよ」
「生きるのはそんなに苦痛ですか?」
「楽しいよ。助手君みたいな人に出会えるしね」
「キスしません?」
「いいよ」
「初めてですか?」
「まさか」
「分かりました。いまだに初恋引っ張ってるんですね」
「心はあの頃のままさ」
「ガキですね。何歳ですか?」
「二千」
「もういい。博士なんて知りません」
さて。
初恋相手の死体でも探すか。
出来ればこっぴどく振ってもらって傷心した博士に僕が取り入る。
しかし、二千年前の相手か……
どうやって見つけよう。
あ、そうだ。
「変身魔法」
「……よし、これでいいかな」
僕は博士の元まで帰る。
「やあ」
「……誰?」
「忘れたのか?お前の初恋の人だぜ」
「……そんな顔だったっけ」
「そうだぜ。久しぶりだな、博士」
「そうか。絶対に君じゃないことだけは分かるよ」
「好きっていう記憶は二千年生きれるほど大事なのさ」
「……解除」
「意外と純情な乙女だったんですね。見直しました」
「なんだ、助手君か。通りで面影もないわけだ」
「でもどうしましょうか……博士には僕を好きになってもらわないと……」
「あ」
「妙案を思いついたかい?」
「はい。やっぱり博士を殺します。付き合えないことが確定してるならせめて殺してあげないと」
「ん。頑張れ助手君」
「時間逆行」
よし、二千年前まで来た。
ここで不老不死の魔法を使う前の博士を殺す。
あ。魔王だ。
「お久しぶりです」
「誰だ?」
「何してるんですか」
「友が危篤でな。花を手向けに来た」
「そうなんですね」
「誰も苦しまない世界が来ればいいのにな」
魔王が悲しそうな顔をして歩く。
さて、博士を探さないと。
あ、居た。博士だ。
「博士。見つけましたよ」
「ん?……君、かっこいいね」
「え?」
「君のことを教えてくれよ。初めて人を好きになりそうだ」
……なるほど。
「僕は助手です。二千年後の未来から来ました」
「どうして?」
「好きだからです。ちなみに、惚れた理由は顔です」
「二千年後ってことは二千年待たないと君に会えないのか?」
「まぁそうなりますね」
「不老不死の魔法」
「あ」
「これで二千年後に君と会える」
「そして……」
「キスは初めてかな?」
「…………」
失敗したな。帰るか。
「帰還」
「ただいま博士」
「おかえり。どうだった」
「僕の生涯をかけて博士を振り向かせます」
「そうか。頑張れ」
「まず手始めに近くにお花畑があるらしいです。一緒に行きましょう」
「いいよ」
五十年後。
「博士。教えてくださいよ、不老不死の魔法」
「無理」
「僕のこと、愛せませんでした?」
「いや、二千年前から愛してるさ」
「え?」
「不老不死解除」
「え?博士……」
「顔が好きなんだろう?どうだ、若くて可愛い私は可愛いか?」
「好きですよ。博士」
「私も好きだぞ。助手君」
この空間には二人のバカがいる。
二千年間一つのことしか考えられなかったバカと、
そのバカを待たせたバカだ。




