表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

7話

 気付いた時には、3カ月経っていた。振り返ってみると、あまりにも静かに過ぎていた。

 最初の頃は、誰もが日付を意識していた。

 今日はどこへ行ったのか、何を終えたのか、何が終わらなかったのか、どういう予定で進めるか、何時までに必要か。

 だが、いつからか、その区別は曖昧になった。

 始めは、避難所は、それぞれで回っていた。屋根を直し、壁を支え、物資の配分を整え、人の動きを繋ぐ。 同じやり方を、同じように。それがいつの間にか「町のやり方」として受け取られるようになっていた。

 1つの避難所から始まった流れは、小川が集まり、集まった川がさらに集まり、今では、大河になっていた。

「始めるぞー!」

 朝、誰かの声で作業を始める。それを見て、別の誰かが動く。それぞれに役割はある。あの時と比べ、町の人の表情には希望もある。しかし、 昼を過ぎても誰一人として手は止まらない。 日が傾いても、何処からも「今日はここまでだ」という声は上がらない。

 止める理由が、見当たらない。見つからなくなった。

「何だ、この違和感。これで良いはずなのに。」

 主人公は、拠点へ戻る途中の道で、町を見渡した。確かに、前よりも整っている。瓦礫は減り、通れる道は増え、避難所以外にも明かりが増えた。それでも、その景色は「終わりに近づいている」ようには見えなかった。

 続いている。 良くも、悪くも。

 作業の段取りは共有され、人は入れ替わっても回る。誰かが抜けても、別の誰かが補う。以前、安心の言葉として使われていたはずの状態が、当たり前になっていた。

 ――続けられる。

 その言葉が、呪いのような力と、意味を持ち始めていることに、主人公は、まだ誰にも言えずにいた。

 さらに一ヶ月が過ぎ、復興は佳境を迎える。

 三日三晩の豪雨という災害はあったが、誰一人として欠けることなく乗り越え、町は、少なくとも外から見れば、町としての機能を取り戻していた。

 しかし、それでも作業は続いていた。

「これ、そっちに運ぶぞ!」

「ここ水道管がイカれてやがる!水道担当呼んでくれ!」

 主人公が、交代の為に避難所へと向かう道中。いつも通り人々は復興作業へ熱心に取り組む。

 しかし、主人公はその姿へ強い違和感を感じ続けていた。

「よーし……

 ――このまま続けるぞ!」

 作業をする町の人の、何気ない掛け声。それだけなのに、主人公の胸は強く締め付けられる。

 ――今日はここまで

 脳裏に、言葉が渦巻く。頭を振って、それを振り払おうとするが、それが出来ない。

「――仕上がったら、次は隣の家だ!」

 様々なところから聞こえる声に、頭が痛くなる。それは避難所に入っても治らない。

「主人公、遅かったね」

 前の当番だった春樹が、声を掛ける。

「ちょっと、見て回りながら来たから」

「……何か、考え事?」

「そんなところ。」

 主人公は、隠すように避難所の入り口に顔を向ける。

 復興が進んで、避難所から人は減った。しかしまだ残る者はいる。そのために、2か月前から主人公たちは、己の得意なことに合わせて、避難所の支援と復興支援に分かれていた。

 しかし、今の避難所は、避難所と言うよりは、作業員達の休憩所と化していた。

「みんな、今は休んでいるけど……」

 春樹が同じほうを向いて静かに呟く。

 入り口には、作業着のまま寝転ぶ作業員たち。その服は土埃に塗れ、地面は硬いコンクリートだが、それすら気にせず仮眠をとる。その腕には、反射バンドに「夜間担当」の文字が、日にあたって輝いていた。

「みんな心身共に、かなり疲れが溜まっている気がする。復興の為には休めない、って言ってたけど。」

「そうか……」

 胸が強く締め付けられる。

「結依曰く、ある程度は回復しているけど、蓄積疲労までは回復できていないって。流美は今取り組んでいる区画が終わったら、次の区画に取り掛かる前に、休み期間を取れるように、ローテーションを組みなおすみたいだけど……それまで持たない人も出てくるかも。取り敢えず、交代、お願いね。」

 春樹は自分の荷物を持って、拠点へと帰っていく。

 ――休み期間

 主人公は、その言葉に、言い表せない違和感を覚えた。

 枯れかけの小川だった流れは、1つに集まり、既にこの町だけのものではなくなっていた。それは大河と言っても過言ではないほど。

 しかし、その流れが、再び小川に戻って行く様な感覚が、主人公を襲い続けていた。

「このままで、良いのか?」

 避難所を見回りながら、1人、呟く。

 ふと顔を上げると、1人の女性が、屋根の下でうずくまるように座っていた。

「大丈夫ですか?」

 その女性が主人公を見る。その顔は、疲れ切っていた。

 主人公は、彼女が避難民や作業員の食事を作る担当の1人だと、気付いた。

「あ、あなたは……」

「取り敢えず、あのベンチに行きましょう。」

 2人は、木陰のベンチに座る。

「何かあったのですか?」

 主人公は問いかける。女性は、俯きながら答えた。

「何時まで、同じ事をすればいいのかって考えてしまって。私は、料理が得意だから、みんなの為に作るだけだけど。でも、毎日同じことの繰り返し。それが、あなた達が来る前の、あの終わらない日々が、また来た気がして……

――もう、休みたい。」

 強い頭痛が、主人公を襲う。

「だ、大丈夫?」

「……大丈夫、ちょっと、ね。」

 彼女は、区切りが無いことで、疲弊している。

 ここで、止めなければ――壊れる。

「少し、ゲームをしましょう。」

「……え?」

 主人公は、落ちていたコンクリートの瓦礫を持ち上げ、見せる。

「これに向けて、靴を飛ばす。当たれば、終わり」

 おおよそ3メートルの場所に、その瓦礫を置き、主人公は靴を飛ばして見せる。外れたが、良いコースだった。

「次は、あなた。」

「う、うん……」

 女性も靴を飛ばす。一発で瓦礫に当たり、転がる靴。

「あ、当たった!」

「あなたの勝ち。これで、一旦終わり」

 即興で考えたゲームが終わる。しかし、それは彼女にとっては、明確な「区切り」だった。

「終わって、良いの?」

「そういうもの。今は、終わり。――続きは、また後で」

 それは小さな区切りだったが、女性も、主人公も、少し救われた気分になる一時だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ