表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

15話

 桜が散り、緑の葉が揺れるころ。悠はようやく、自分の答えを言葉にできた。

 それを最初に伝える相手も、もう決めていた。

 校舎――今は、資料館の、木陰のベンチ。

 紬は一人、そこに座っていた。

「紬」

 名を呼ぶと、彼女は振り向いた。穏やかな顔だった。

「どうしたんですか?悠の方から呼び出すなんて、珍しいですね」

 その顔を見た瞬間、胸の奥で揺れていた迷いが、すっと静まった。

「1つ、知らせたいことがある」

「……悩み事、解決したんですね」

 まるで、すべてお見通しといわんばかりに、紬は微笑む。

「うん。」

 風が、木の葉を揺らす。

「まず。俺は、この世界の人間じゃ、ない」

「……やっぱり、そうだったんですね」

 その風が、止まったような気がした。

「気づいて、いたのか?」

「なんとなく、ですけどね」

 微笑みながら、彼女は続ける。

「あなた――いえ、あなたたちと、私たち。最初の区切りができた日、なんだか、見ているところが違っているように思えたの。それが確信に変わったのは、あのお祭りの一件のとき。みんなは『今』だけを見ていたけど、あなただけは『先』を見て、行動していた。あの状況で、余裕なんて無いはずなのに」

 その答えは、的を射ていた。

「だから、私はあなたが好きになった」

 紬の言葉が、続く。

「終わりが見えなくなっても、あなたがいることでそれが見える。あなたの存在が、私の『区切り』を作ってくれる。そして――同じ時間、同じ場所に、いてくれる」

 紬は、空を見上げる。共に見上げたその空は、もう乾ききっていた。

「紬」

 主人公は、改めてその名を呼ぶ。

「俺は、元の世界には、帰らない」

「……え?」

 その言葉に、紬ははっとした顔で主人公を見つめる。

「元の世界に、悪い思い出があるわけでも、嫌いなわけでもない。元の世界に戻れば、家族や、友達だっている」

「だったら、なんで?」

「……この世界とのつながりに、俺は区切りをつけられない、つけたくない。俺は、区切りを作る側の人間だった。なのに――自分の区切りだけは、つけるのが怖かった。見ないふりをしていた。だけど、この区切りだけは、つけたい。俺は残る。それが、俺にとっての復興の区切りだ」

 一際強い風が、二人の間を抜ける。

「ここから先は二人で、『始めよう』」

 ポケットから小箱を取り出し、紬にわたす。中身を見た彼女の目には、涙があふれていた。

「ズルいよ」

 小さな拳が胸をたたく。

「いなくなると思ってたのに。サヨナラだと思っていたのに。こんなことされたら、送り出せないよ……」

 紬の泣き声は、主人公の胸に吸い込まれていく。その胸元が濡れた頃、紬は涙を拭って、まっすぐ悠を見た。

「悠は、残って、一緒に『始める』って、そう言った。だから……」

 震える指で、紬は小箱の中身を取り出す。

「私は、隣にいる。いつだって、何処だって。あなたと一緒にいる。一緒に『続き』を生きるよ」

 悠は、ようやく息を吐いた。ずっと胸の奥にあった“期限”という言葉の意味が、まずは1つ、静かに溶けていった。


 次は、仲間達だ。

 翌日。主人公は、初めて自分から、仲間たちを集めた。

 拠点の空気は、静かだった。

 誰も口にはしないが、全員が同じ日付を意識している。壁に掛けられたカレンダーの赤丸も、もはや冗談ではなかった。

「……みんな、いるな」

 先生が、静かに確認する。

「主人公から、話があるそうだ」

 主人公は、静かに立ち上がる。

 何度も、言葉を考えた。だが、立ち上がった瞬間、それは全て消えた。

「俺は、この世界に残る」

 たったこれだけの、短い言葉。

 誰も、すぐには反応しない。――出来るわけが無かった。すぐに反応するには、この言葉の持つ意味が、重すぎた。

「決めたんだね」

 早紀が、真っ直ぐに問う。

「うん」

「紬さんは?」

 薬指のリングを見て、流美が問う。

「一緒に、生きる」

 その一言で、十分だった。

 春樹が小さく息を吐く。

「やっぱり、そう決めたか」

「後悔は、しない?」

 令奈の問いは、優しかった。

「どうだろう」

 悠は、少しだけ笑う。

「するかもしれない」

 正直な答えだった。

「でも、戻る方を選んだら、この世界であったことの全てを、無かった事にしてしまう気がする」

 沈黙。

「みんなが流れを『作る』なら、俺は、それを『止める側』だった。やろうと思えば、世界を崩壊させることだって、出来たかもしれない。だから、怖かった。でも、この『区切り』は、避けられない。逃げようと思っても必ず来るから。でも、俺に与えられたのは『区切り』を作って、『止める』力。だから俺が、その区切りをつける」

 その覚悟は、仲間たちから引き留める言葉を奪った。

 幸樹が、立ち上がる。

「ずるいな」

「何がだよ」

「お前らしい、ってこと」

 それは、最大の肯定だった。

 日向は、頷く

「全くもって、その通りだね」

「その通り、じゃないよ」

 修子は、目に涙を浮かべていた。

「簡単に決めないでよ……」

「そうだよ、そこまで考えてたんなら仕方がないけど、相談くらいは、して欲しかった」

 晶は、落ち着いて言う。しかし、肩が僅かに震えていた。

「何を言っても、変わらないのね」

 結衣子が、独り言のように呟く。

「うん。この決断は、何があっても変えない」

 結依が、目元を押さえる。

「消えちゃうんだよね、元の世界からは」

「そう、だよ。記録も、記憶も」

 主人公は初めて、言葉に詰まった。

「でも、私たちは忘れない」

 それは、主人公への誓いだった。

「ここにいる皆は、何処にいたって、たとえ住む世界が違ったって、仲間だから!」

 全員が、一度だけ頷く。

 最後に、先生が口を開く。

「主人公」

「はい」

「よく、決めたな」

 その一言だけだった。

 それだけで、十分だった。

 悠は、顔を拭って、深く頭を下げる。

「ありがとう、ございました!」

 誰に向けた言葉か、自分でも分からない。

 だが、確かに区切りは、ここにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ