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11話

 高台へ向かう道は、静かだった。けれど、無言ではなかった。

「あそこから、町が見えるんだよな」

「子どもの頃、よく来た」

「……最近は、そんな余裕もなかったな」

 ぽつり、ぽつりと、言葉が落ちる。麓の駐車場に車を止め、ゆっくりと、思い出しながら坂を歩く。

 誰も急がせない。誰も並ばせない。しかし、何処からともなく人が現れ、その数は増えている。

 「作業を抜ける」ことへの罪悪感は、まだ消えていない。だが――誰も、それを咎めなかった。

 高台に着いた頃、太陽は完全に昇っていた。

「……ああ」

 誰かの声が、息のように漏れる。町が、そこにあった。

 屋根の直った家。仮設を外された避難所。整えられた道。町に残り、動き続ける人の流れ。

 確かに、復旧は進んでいる。誰が見ても、成功だと言える光景だった。

 だが。

「……多いな」

 誰かが言った。

「人の数じゃない。動いてる時間だ。ここまで出来ていて、でもずっと、俺たちは、終わりなく動いている。」

 沈黙が、広がる。

「朝から、ずっと……だな」

「昨日も、夜までやってた」

 主人公は、前に出なかった。何も説明しない。何も指差さない。ただ、町を見つめる。

 やがて、あの女性が、小さく息を吸った。

「終わっている筈なのに……終わりが、見えないですね」

 誰も、すぐには答えなかった。

「終わらせたい、って意味じゃないんです。でも……」

 彼女は、町から目を離さずに続ける。

「“今日はここまで”って、いつから言わなくなったんでしょう」

 その一言が、空気を変えた。

「……あ」

「そういえば」

「最近、聞いてないな」

 誰かが、思い出したように頭を掻く。

「昔はさ、自然に帰ってたよな」

「暗くなる前に」

「明日に回そう、って」

 主人公は、ようやく口を開いた。

「それが、今日、ここに来てもらった理由です」

 視線が集まる。だが、責める色はない。

「この町は、止まれなくなっています。それは、皆さんが真面目だからです。真面目で、責任感がある。だからこそ、止まれなくなっているんです」

 誰も否定しない。

「だから――止まる日を、決めたい」

 ざわり、と人の気配が動く。

「止める、って……」

「作業を、全部?」

「いいえ」

 主人公は、首を振った。

「“終わらせる日”です。復旧に、一区切りをつける。或いは……復旧から、復興に進む日」

 言葉が、ゆっくりと染み込んでいく。

「終わりが見えれば、休めます。休めれば、また動けます。でも、それは、放棄じゃない」

 沈黙。

 そして。

「……祭り、みたいなもんか?」

 誰かの、半分冗談のような声。だが、その言葉に、何人かが反応した。

「完成の日、ってことか」

「皆で、ここまでやったって、言える日」

 主人公は、少しだけ笑った。

「どういう形がいいかは、皆さんと一緒に、考えたいんです」

 誰かが、頷く。

「……それなら」

「作業の報告会、みたいなのもありか?」

「祭りにしては堅すぎるだろ……」

「食べ物はどうかな?屋台料理とか!それか、ちゃんと『振る舞う』やつ!」

「それなら、手伝ってくれた人も、子どもたちも呼べるな」

 議論は、だんだんと賑やかになりつつある。主人公は、口を挟まなかった。これは、導く場ではない。思い出す場だ。止める必要は、何処にもない。

 あの女性が、少し考えてから言った。

「“終わらせる”って言葉があるなら……“ここから始める”って言葉も、欲しいですね」

 誰かが頷く。

「復旧の終わりであって、生活の終わりじゃない、ってことか」

「だったら」

 別の声が続く。

「やるなら、町の人だけじゃなくて、離れてた人にも知らせたいな」

「戻ってきてもいいって、言える日だ」

 空気が、確実に前へ進んでいた。主人公は、ようやく微笑む。

「どういう形がいいかは……皆さんと一緒に、考えたいです。今日決めたいのは、“やる”かどうかと、大まかな方向だけでいい」

 誰かが、深く息を吐いた。

「……やろう」

「ちゃんと、終わらせよう。俺たちで」

「今日は、作業も、祭りも、何をするかだけ、決めよう」

 高台の上で、町の人たちはもう一度町を見下ろす。今度は、追われる視線ではなかった。

 誰かが決めたわけではない。けれど、この町は、自分たちで「止まる」事を選び始めていた。

 流れは、また動き始める。今度は、終わるために。そして次に進むための流れとして。

 主人公は思う。この日が、復旧の終わりであり――復興の始まりとなる、最初の一歩になるのだと。

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