お化け模様
「人間が来る?」
にわかに色めき立った周囲に尋ねると、予想外の答えが返ってきた。
” 人間が尋ねてくる ” と。
「ここに? この、家に?」
珍しいこともあるものだ、と思った。
何十年ぶりに客人が来るという。
「……ふぅん?」
でも、まぁ、やることは変わらない。
どうせ、今度来る人間だって同じこと。
僕らの存在を信じようとはせず、僕らの言うことも伝わらない、愚鈍な頭と体を引っ提げたくだらない奴に決まっている。
考え事が終わって顔を上げると、周囲の視線が僕に集まっていた。
彼らの視線は明らかにこう言っている。
『どうしますか、リーダー』
僕は目元だけでふっと笑って、彼らに指令を下す。
「いつも通り。いつも通りにしたらいい。……みんな、分かってるだろ?」
皆が一様に視線を交わし合い、了解の意を僕に伝えてくる。
「どうせ、変わらない。また、同じことが繰り返されるだけ」
誰が来ようと変わらない。変えられない。
僕らを――この僕を変えられる人間など、未だかつていなかったのだから。
*********
その変化の予兆は、僕にいつもの諦念と同時に別の感情も抱かせた。
『前来た奴は、すぐに音を上げてつまらなかったから……、今回はもっと楽しませてくれよ?』
ここに来た人間の辿る末路は相場が決まっている。
僕らの“悪戯”に耐えられずに逃げ出すか、耐えて死ぬか。
選択肢はふたつにひとつ。
まぁ、逃げ出したからといって無事で済ますわけがないけれど。
僕らに関わったが最後、地の果てまで追って行く。
生きていることを呪い、生まれたことを後悔するほどの責苦を浴びせて、そいつの口から「いっそ殺してくれ」と言葉を吐かせる。
そいつの意志で「殺してくれ」と言わせるまで、責め立てる。
そして、その願いの通りに、僕らの手で殺してやる。
暴力じゃない。温情さ。
心からの願いを受け取って、僕らはそれを叶えてやるだけ。
親切だろう?
僕らは元々そういう存在だった。
人の望みを叶えるために遣わされた、そういう存在。
だけれど、その使命をそのまま遂行するには――長い時間が経ち過ぎてしまった。
*********
誰が始めに言い出したか分からない。
だが、確かに誰かが言ったのだ。
「お前らは『悪霊』だ」と。
その時から、徐々に僕らの“何か”が狂っていった。
人の願いを叶える善良な存在が、だんだんと煤けて汚れて色を失っていった。
だから、僕らはこうなった。
その誰かの言った僕らの定義が、僕らを本当に『悪霊』にしてしまった。
人に憑いて、悪行を働かせ、そののち「死」を願わせて、その願いの通りに殺してやる。
そういう『悪霊』に。
紛うことなき、『悪霊』に――。
*********
救われたいのは、本当は僕たちの……。いや、僕の方だったのかもしれない。
『悪霊』ではなく、元の姿に戻って、人の善なる願いを叶えるただの『霊魂』に。
だけど、とても長いこと、そんな風にはならなかった。
だから、僕は諦めて、灰をかぶって、「白」から「白灰」へと姿を変えたんだ。
でもね。本当は待っていたんだ。
スーパーヒーローが現れて、僕らの姿を見抜いてくれるのを。
目ではなく、心で物を見て、心で僕らと向き合ってくれる、強い人間が現れることを。
だって……、僕らは僕らの力ではすでに元に戻れなくなってしまったのだから。




