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お化け模様

作者: 鈴乱
掲載日:2026/01/18

「人間が来る?」


 にわかに色めき立った周囲に尋ねると、予想外の答えが返ってきた。


 ” 人間が尋ねてくる ” と。


「ここに? この、家に?」


 珍しいこともあるものだ、と思った。

 何十年ぶりに客人が来るという。


「……ふぅん?」


 でも、まぁ、やることは変わらない。


 どうせ、今度来る人間だって同じこと。


 僕らの存在を信じようとはせず、僕らの言うことも伝わらない、愚鈍な頭と体を引っ提げたくだらない奴に決まっている。


 考え事が終わって顔を上げると、周囲の視線が僕に集まっていた。

 

 彼らの視線は明らかにこう言っている。


『どうしますか、リーダー』


 僕は目元だけでふっと笑って、彼らに指令を下す。


「いつも通り。いつも通りにしたらいい。……みんな、分かってるだろ?」


 皆が一様に視線を交わし合い、了解の意を僕に伝えてくる。


「どうせ、変わらない。また、同じことが繰り返されるだけ」


 誰が来ようと変わらない。変えられない。


 僕らを――この僕を変えられる人間など、未だかつていなかったのだから。


*********



 その変化の予兆は、僕にいつもの諦念と同時に別の感情も抱かせた。


『前来た奴は、すぐに音を上げてつまらなかったから……、今回はもっと楽しませてくれよ?』


 ここに来た人間の辿る末路は相場が決まっている。


 僕らの“悪戯”に耐えられずに逃げ出すか、耐えて死ぬか。


 選択肢はふたつにひとつ。


 まぁ、逃げ出したからといって無事で済ますわけがないけれど。


 僕らに関わったが最後、地の果てまで追って行く。

 生きていることを呪い、生まれたことを後悔するほどの責苦を浴びせて、そいつの口から「いっそ殺してくれ」と言葉を吐かせる。

 そいつの意志で「殺してくれ」と言わせるまで、責め立てる。


 そして、その願いの通りに、僕らの手で殺してやる。


 暴力じゃない。温情さ。


 心からの願いを受け取って、僕らはそれを叶えてやるだけ。


 親切だろう?



 僕らは元々そういう存在だった。

 人の望みを叶えるために遣わされた、そういう存在。


 だけれど、その使命をそのまま遂行するには――長い時間が経ち過ぎてしまった。



*********



 誰が始めに言い出したか分からない。


 だが、確かに誰かが言ったのだ。



「お前らは『悪霊』だ」と。



 その時から、徐々に僕らの“何か”が狂っていった。


 人の願いを叶える善良な存在が、だんだんと(すす)けて汚れて色を失っていった。


 だから、僕らはこうなった。


 その誰かの言った僕らの定義が、僕らを本当に『悪霊』にしてしまった。


 人に憑いて、悪行を働かせ、そののち「死」を願わせて、その願いの通りに殺してやる。


 そういう『悪霊』に。


 紛うことなき、『悪霊』に――。



*********



 救われたいのは、本当は僕たちの……。いや、僕の方だったのかもしれない。


 『悪霊』ではなく、元の姿に戻って、人の善なる願いを叶えるただの『霊魂』に。


 だけど、とても長いこと、そんな風にはならなかった。


 だから、僕は諦めて、灰をかぶって、「白」から「白灰」へと姿を変えたんだ。



 でもね。本当は待っていたんだ。


 スーパーヒーローが現れて、僕らの姿を見抜いてくれるのを。


 目ではなく、心で物を見て、心で僕らと向き合ってくれる、強い人間が現れることを。


 だって……、僕らは僕らの力ではすでに元に戻れなくなってしまったのだから。




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