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レオンハルト

あたりの空気が湿り気を帯び、密林に雨の気配が漂った。

聖満月が雲にかくれその輪郭を朧げにすると、老魔樹(ドルイドウッド)の根や幹の所々にとまっている、光虫による青緑色の光が目立ち始める。

時刻は深夜手前。十五名の部隊は森陰に身を潜めていた。


ゲルハルト太公の名により、総勢八十名の騎士が、アステリアから青玉海を渡らずに南東の陸路で一月半。エルドラドに到着して僅か二日目の夜だ。

自部隊の疲労を懸念していたレオンだったが、作戦を伝えたときの部隊員十五名の顔をみてそれはすぐさま払拭された。各々が腹に抱える思惑は知らぬまでも、退屈な警護や雑用ばかりを担ってきた若い団員の多いレオンの部隊にとって、今回の任務は王都のための誉高いものであり、要するに、やり甲斐があった。


「おいレオン。商連の野郎はなんだって?」


重装騎士のタングが物々しく低い声でたずねた。

レオンと呼ばれた銀髪の青年が、小岩に腰を下ろしてソードブレイカーの手入れをしながらそれに答える。


「討伐が成功すれば追加の金は小隊単位でだす、だそうだ。つまりこれが成功すれば全員でエルドラド見物ができる。」


悪くねぇな、とタングが笑いながら顎をしごく。早くも頭の中は女のことで一杯なのだろう。


「やっぱり、ハンザティスの商連本部は通さずに、エルドラド商連が直にだすのかしら。」


木にもたれている射手のルカが聞いた。手足の長い美しい体躯が、射手らしい革胸当てやレザーパンツにブーツといった軽装から際立っており、それをダンクが隠す素振りもなくジロジロと見る。


「そうらしいな。」


「なぜ?」


「さぁ。代表のリュウメイ曰く、利益を吸い上げるだけの本部にあれこれ口を出されたくないらしい。」


「なら尚のこと、こういう時にこそ金を出させるべきじゃないのかしら。」


「応じないだけかもな。いずれにせよ、それだけここは儲かっているのだろう。」


「…も、もともと独立機運の高い土地です。ここの商連もその機運に乗ってきている可能性、ありますよね。で、でもでも、せっかくエルドラドまで来たんですし、私も悪い話ではないと、思います…!」


「あなたにとってはここは宝の山だものね、メラニア」


魔法使いのメラニアは照れ臭そうに同意した。


「とにかく、言うまでもないが、ぬからずにな。」


───「我々銀獅子団はセラと王家の剣だ。その矛先を違わない限り、雇い主の意思に従う。」


レオンは光虫の光を眺めながら、銀獅子団副団長であり、今回の任務の総隊長であるジグムントの昨夜の言葉を思い出していた。


エルドラドの治安悪化に伴う警護と、賊の掃討と調査。


ルカの言うように、腑に落ちない点はいくつかあった。


確かに王国のためではある。

エルドラドからの物資が奪われることは大きな損失だ。

しかし単なる治安回復に、銀獅子団だけが出張るのは何故だ?


迷宮落ちや借金まみれの迷宮都市労働者の多くが野盗化しているにせよ、

なぜ、王国軍や市井の傭兵ではない?


昨夜エルドラド商連支部の代表であるリュウメイは、今回の短期雇用について大公に対して大分と金をだしたような口ぶりだった。

だがそれも、王国随一の財力を誇るゲルハルト大公が、単にはした金欲しさで動くとも思えない。


───貴族皆殺し。


少年少女のかかげる無垢な夢のように、レオンはそれを胸に抱いている。

そんな自分が今、大公の騎士団に所属し王侯貴族のために仕えていることに矛盾を感じてはいない。

しかし意図が読めず、実像が分からないまま闇雲に行動することは、彼の目的と性分には合わないのだった。


「戻りました。」


顔をあげると、木々の間から斥候のハングベルが姿を現した。この部隊で最も若くまだ十七歳の斥候である。


「どうだ?」


「はい、あの砦に間違いありません。見張は東西の物見に1名ずつ。正面入り口に2名。中にはまだ多くの灯りが。」


「雨に降られても厄介だ。待たずに掃討を開始する。全員戦闘準備を」


声ではなく、すぐさま各々武器を抜くことで了解を伝えた。



部隊はタングを筆頭とする重装騎士5名、ルカを筆頭に射手4名、ハングベルをはじめとする斥候補助が4名に魔導師であるメラニア1名に隊長であるレオンの15名。


砦付近の森陰に集まった一同をレオンが見回す。

隠れていた聖満月が顔をだし、樹々の隙間から差し込んでレオンを照らした。

月光は流れるように彼の輪郭を洗い、普段にも増してその冷酷な印象を与える相貌を、若干の恐怖を感じるほどに、美しいものとしていた。


「セロとハングベル、ロッコとリブは組んでそれぞれ東西の見張りを落としてから、ロープで上を取れ。メラニア、セロとロッコに遠視魔法を。術がとけるまで足元があやういから相方はそのフォローを忘れるな。仕留め損ねるなよ。」


「ルカ初め残りの射手と斥候班は入り口の2名を迅速に処理。その後斥候班はそれぞれ様子を見ながら基本は上の応援に迎え。」


「見張りを落としたら正面から突入する。ギュストはメラニアの保護、それ以外の重装騎士は俺に続け。射手2人は援護をたのむ。」


淡々とそう指示をだすと、砦方向に向き直った。


「頭と思しき2、3人以外は全員殺せ。これはセラと王家の意志だ。」


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