威嚇の盾を装備する
昼休みの空き教室。
山本は机に肘をつき、窓の外の曇った空をぼんやり見ていた。魂抜けてんぜ?
昨日の件が、まだ胸の奥でくすぶっているのがわかる。
佐伯が前の席から身を乗り出す。
「じゃあさ、もしまた狙われたらどうする? ただ逃げるんじゃなくて」
俺は静かに言った。
「相手の想定以上の大きさで声を出して相手の目をまっすぐ見る。ガンを飛ばす
下がったら負けだぜ?、一歩踏み込むんだ。
そうすると、相手の“防衛欲求”が発動する」
山本が眉をひそめる。
「防衛欲求って……自分を守ろうとするやつ?」
「人は自分が想定外の未知のベクトルに出会うと、攻撃より防御を優先する。
“えっ?”と思わせれば、向こうの手は自然と鈍る。原始的な威嚇の一種だ」
高橋「どこぞの国のやつとかやたら声でけーしな」
そこで後ろの席の西村が、椅子の背に腕をかけて口を挟んだ。
「物理で言えば、運動してる物体に逆向きのベクトルをぶつける感じだね。
特に距離を詰めると圧力は増すから、相手は反射的に後ずさる」
佐伯がうなずく。
「それとさ、先生や先輩、お巡りさんとか──普段から軽く挨拶しておくのも手だよね。
勝手に“同じ側”だと思ってもらえる」
「そうだ。個人じゃなく“未知のグループ”として認識させる。二段構えだ」
西村は黒板に簡単な図を描いた。
「反転ベクトル+外部加勢ベクトル。
この二つが合わされば、防衛力は二倍以上になる」
山本は小さく息をつき、わずかに笑った。
「‥なんか、ハードル高いよ‥」
──山本‥お前のため息は芸術点たけーよ
すんげー伝わるw