金属の5種類
放課後の理科準備室。
西村が黒板に大きな矢印──ベクトルを書いていた。
「昨日の話、もう少し説明する」
佐伯が椅子に座り、山本は少し居心地悪そうに立っている。廊下に立たされたのび太君かよ!
俺は窓際でノートを開いた。
西村はチョークを持ち、矢印の横に金属片の絵を描き加える。
「人が他人からベクトル──つまり力や圧力──を向けられたとき、反応は大きく分けて五種類」
1. 跳ね返す金属
硬くて強い金属。力を受けてもびくともしないし、そのまま跳ね返す。精神的にタフな人はこれ。
俺「あいつブレねーなとか」
2. 弾力性金属
揺れても元の位置に戻る。しなやかだけど芯があるタイプ。
俺「多少の力には動じない」
3. 吸収金属
衝撃を飲み込んで外に出さない。優しいけど、内部にひずみがたまる。
俺「ストレスとしてため込むやつだ」
4. 変形金属
力を受けるとそのまま形が変わる。環境に順応するけど、自分を失いやすい。
俺「へこむーとかいうやつだ」
5. 粉砕金属
ちょっとの衝撃でもバラバラになる。
俺「心が折れたってやつだ」
その時、準備室のドアがバンッと開いた。
髪は無造作に立ち上がり、黒いブーツの足音がやたら響く。
「おー、金属の話? いいねぇ」
高橋だ。今どき珍しいロック野郎。
佐伯が手を振る。
「高橋! あんた何の金属っぽい?」
「俺? 簡単だろ」
革ジャンのポケットから缶コーヒーを取り出し、プシュッと開ける。
「チタン合金。軽いのに、ぶった切ろうとしたら相手の刃が欠けるやつ」
西村が淡々と返す。
「チタンは確かに硬い。でも高価で加工しにくい。扱いづらい金属だね」
「へーそうなんだ?」
そう言って缶を一気に飲み干す。
俺は心の中で「高橋?贅沢な名前だねー今日からお前はチタンじゃよ!」と訳が分からない妄想をしていた
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