外国人問題を解いちゃうよ?
放課後の部室。
佐伯がスマホを見ながら首をかしげた。
「ねぇ、ネットで『日本は外国人差別がある/ない』って議論になってる。
実際どうなんだろうね?」
高橋「いや、普通にあるだろ。“外国人お断り”の張り紙とか、ニュースで見たし」
西村がチョークを回しながら黒板に矢印を描いた。
「日本人の文化ってさ、もともと“弱いベクトル同士”で成り立ってるんじゃない?」
佐伯が首をかしげる。
「弱いベクトル?」
「うん。相手に強く主張しない、遠慮して様子を見る、空気を読む……。
ベクトルの力が小さいからこそ、摩擦が少なくて衝突も起きにくい。
だから“セフティエナジー”を節約できる文化なんだ」
山本がノートを取りながらうなずいた。
「……確かに。だから日本の集団はまとまりやすい。
でも、強いベクトルを持った人が来ると一気に不安定になるんだな」
西村は続ける。
「そう。今までベクトル予測が想定出来ていたに、
“強い主張”や“違う方向”のベクトルが割り込むと、
日本人は不快に感じてセフティエナジーをどんどん消耗する。
その疲れが“差別”という形で表れることもあるんだ」
⸻
高橋が肩をすくめる。
「なるほどな。
“みんな弱くて安心”って文化だから、強い奴が来ると疲れるし、
その疲れをごまかすために“外のやつは合わない”って言っちゃうわけか」
俺は机に肘をつき、返すように呟いた。
「……それ、認知的不協和だな。
“本当は疲れる”って感情と、“自分たちは調和的な文化だ”って信念。
その矛盾を埋めるために、“外のやつが悪い”ってラベルを貼る。
差別って結局、その歪みから生まれるんだよ」
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朝比奈が言う
「しかもね──差別はただの心理現象で終わらない。
裏の団体やビジネスが“恐怖や分断”を利用して収益化してるのよ。
排外感情をあおれば、人は金を払う。
差別って、誰かの不安が“商品”になってるケースが多いの
例えば──
① メディアは“外国人犯罪”を大げさに報じれば視聴率が上がる。
② 政治団体は“外の敵”を作れば支持者からの寄付が集まる。
③ ネットでは“外国人嫌い”コミュニティが炎上して広告収益を得る。
……全部、差別感情を“燃料”に変えて収益化してるのよ」
⸻
西村が黒板に「触媒」と書いた。
「つまり、差別そのものが“触媒”になるってことかな。
本来なら小さな摩擦で済む話でも、“危険だ”“奪われるぞ”とあおられることで、
人の感情反応が一気に加速する。
その反応エネルギーを利用して、メディアや団体は収益を取るんだ」
山本が苦い顔でノートを閉じる。
「……じゃあ、差別をなくすのは単純に“教育”とか“心がけ”だけじゃ足りないんだ。」
高橋 「なるほどね。俺たちが“ただの空気の読み合い”で消耗してる間に、
外ではその摩擦がビジネスにされてるわけか。
そりゃ差別なんて簡単に消えねーな」
俺 「……認知的不協和を利用して、“安心”の代わりに“敵”を売ってるってことか。
そこにお金が流れる限り、その構造は強固だ」
西村が黒板に「差別=収益化」と大きく書いた
佐伯が身を乗り出す。
「でもさ、具体的にどんな場面で“差別がビジネス”になってるの?」
朝比奈が待ってましたとばかりに指を立てる。
「例えば──
① ニュース報道:
“外国人犯罪”の特集を繰り返せば、視聴者は“怖いから見なきゃ”と注目する。
不安は視聴率を生み、視聴率はスポンサー収入になる。
② 政治活動:
“外国人が仕事を奪う”“治安を悪化させる”とあおれば、
支持者は“自分を守らなきゃ”と思って寄付や票を投じる。
差別がそのまま政治資本になるの。
③ ネットコミュニティ:
SNSや動画配信で“外国人嫌い”を叫べば、賛否両論で炎上する。
炎上はアクセス数になり、広告収益を生む。
つまり、差別を煽るだけで金が入る仕組みがある」
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山本がノートを閉じながら眉をひそめる。
「……じゃあ、俺たちが“ただの偏見”だと思ってるものも、
裏では“収益装置”として設計されてるってことですか」
西村が頷いた。
「そうだな。
人の不安や敵意は、摩擦エネルギーみたいなものだ。
普通なら消耗して終わるけど、そこに“収益モデル”が結びつくと、
永久に利用され続ける」
高橋
「つまり、“不安を餌にするビジネス”が残ってる限り、差別は無くならない。
むしろ再生産されるわけだ」
俺は机に肘をつき、ぼそっと言った。
「……そう考えると、“差別は感情の問題”じゃなく“市場の問題”なんだな」
朝比奈がにやりと笑い、セミナー調でまとめる。
「だから必要なのは、“恐怖や敵意”じゃなく、“共感や安心”で回るモデル。
分断を売るんじゃなく、つながりを売る。
その触媒を作れるかどうかが、次の戦いなのよ」
部室の空気は重さの中に、わずかな決意を含んでいた。
放課後の部室。
西村が黒板に「差別=収益」と書いた横に、新たに「反差別=?」と書き足した。
佐伯が首をかしげる。
「え、反差別って“正義”でやってるんじゃないの?収益とか関係あるの?」
朝比奈がにやりと笑った。
「甘いわ!マリーアントワネットが食べたケーキより甘いわ!差別をビジネスにする人がいるなら、当然“差別反対”をビジネスにする人もいるのよ」
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高橋 「なるほど……『差別は許さない!』って叫ぶことで、逆に金や支持を集めるってことか」
西村が頷きながらチョークを走らせる。
「仕組みはシンプルだ。
① 寄付:被害者支援や運動団体に寄付が集まる。
② 政治的支持:人権を守る姿勢を打ち出すと票につながる。
③ メディア収益:『差別と闘うドキュメンタリー』は感動や共感を呼び、スポンサーを得られる。
つまり、反差別は“共感”を触媒に収益を作っているんだ」
朝比奈がにやりと笑い、締めくくった。
「大事なのは、ビジネスかどうかじゃない。
“恐怖や憎しみ”で稼ぐのか、“共感や希望”で稼ぐのか。
収益構造そのものは避けられない。
だからこそ、どっちの触媒で社会を動かすかが勝負なのよ」
部室には、静かだけれど前向きな空気が流れた。
朝比奈が指を立て、セミナー調でまとめた。
「ドラッカーも言ってたわ──“企業の目的は顧客の創造である”って。
差別ビジネスは“恐怖という顧客”を創造するモデル。
反差別ビジネスは“共感という顧客”を創造するモデル。
どちらも収益構造だけど、どっちの顧客を選ぶかで未来は変わるのよ」
高橋が皮肉っぽく笑う。
「……でも結局、“恐怖で稼ぐ奴ら”と“共感で稼ぐ奴ら”が互いに存在する限り、
収益はぐるぐる回り続けるんだろ。
差別と反差別で回る、永久機関みたいにな」
俺は視線を窓の外に投げながら、読者に語りかけるように呟いた。
「……そして、その永久機関を回す燃料の一部は、先生の大好物“クリック”や“いいね”なんだよ
ガラッ、と音を立ててドアが開いた。
国枝先生が缶コーヒーを片手に入ってくる。
「おいおい、また俺が悪役か?
“いいね”を集めるのは承認欲求じゃない。研究資料だ、研究資料!」
佐伯が机に突っ伏して爆笑した。
「先生も差別と反差別の永久機関の歯車だったんだ!」
国枝先生は肩をすくめ、缶コーヒーを一口飲んで言った。
「……まぁ、人間なんてみんな何かのエネルギーで回ってる機械みたいなもんさ。
俺は“いいね”で動くし、お前らは何で動く?」
部室は笑いと苦い沈黙が入り混じった、不思議な空気に包まれた。




