欲求を読む防御
放課後の廊下。
佐伯が走ってきて、息を弾ませながら言った。
「購買部前でケンカ寸前! 先輩二人が口論してる!」
俺たちは顔を見合わせ、すぐ現場へ向かった。
購買部前では、三年の男子が二人、互いの顔を睨み合っていた。
どうやら、残り一個の人気サンドをどちらが買うかでもめているらしい。
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高橋が小声で言う。
「これ、生存欲求の衝突だな。食べたい=確保したい」
西村が首を振る。
「いや、それだけじゃない。
一人は“自分が先に並んだ”って主張してる=地位欲求。
もう一人は“友達に頼まれたから”=帰属欲求。複合だよ」
山本が小さく呟く。
「……つまり、片方の欲求だけ満たせば、もう片方は不満が残る」
俺は二人の立ち位置を見て、すぐ判断した。
「地位欲求の方は“優位な状況”を作れれば満足する。
帰属欲求の方は“友達への顔向け”さえ立てばいい」
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佐伯が一歩前に出て、笑顔で言った。
「じゃあこうしません? サンドは地位欲求側の先輩が買う。
でも帰属欲求側の先輩には、私たちが同じサンドを作って持っていくって約束する」
一瞬の沈黙の後、二人は顔を見合わせてうなずいた。
衝突は、まるでスイッチが切れたように収まった。
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戻る途中、高橋が笑う。
「な? 欲求を先に読めば、ベクトルのぶつかり合いはほぼ回避できる」
西村が補足する。
「感情は表面。構造は奥。構造を押さえれば、感情も変わる」
山本は控えめに言った。
「……ただ、全部がきれいに解決するわけじゃないですけど……今回は良かったです」
佐伯がにやっと笑った。
「で、その帰属欲求側の先輩用のサンド、誰が作る?」
全員の視線が俺に集まった瞬間、
——俺は自分の生存欲求を強く意識した。




