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心理学と自己啓発にアンチテーゼ

1 明日から本気出す



2

シンリーベクトル

シンリーベクトル

2025年8月14日 03:38

昼休み。

廊下の隅でパンを食っていると、クラスでも活発な小柄な女子・佐伯が勢いよくやってきた。


「ねえ、人ってなんでやらなきゃいけないことを後回しにするの?」


またお前か──そんな顔をしながら、俺はパンを噛みつつ教室を観察する。

スマホをいじるやつ、机に突っ伏すやつ、提出物を放置するやつ。

そして、父の姿を思い出した。

「明日やる」と言いながら、何もしないで酒の缶を並べていた背中。


「知らねーよ!防衛本能だろ!!」


佐伯が首をかしげる。

「それって?」


「人は未知な体験に不安を感じるように出来てんだよ!

勉強も仕事もほんとはやりたくない、やればどんな失敗やトラブルが待ち受けているかわからないだろ?

だったら“やらない”ほうが安全だと体が勝手に判断するんだよ」


背後から声がした。

「現状維持で安全を保とうとする‥」


白衣姿の西村が立っていた。

ポケットから巻尺がのぞき、目だけがやけに明るい。理系女気質でなけりゃきっと人気者だろうに‥


佐伯が「じゃあ行動するには?」と聞く。

俺はめんどくさそうに

「物と同じで最大静止摩擦係数を超えるベクトルを与えてやるのさ」


佐伯がぽかんとする。

「つまり?」


「”やる気”とか“動機”とか”お金”、あらゆる物を足して摩擦の数値を超えた時、動き出すのは必然さ」


西村が口を挟む。

「電気の抵抗が電圧で超える感じか!」


佐伯は「ふーん……なんかわけわかんないけどカッコいい‥かな?」と笑った。


俺は続けた。

「本来人は怠け者なのさ。逆に言えばこの動機とこの給料と社会的体裁やその他を足して動き出した数値が現在のお前の防衛値ってわけさ」


西村が頷く。

「ならば習慣ってのは不安要素が割引されて

最大摩擦係数が低いわけか!」


佐伯は「君たち‥変人だねw」


西村は小さく笑い、手帳に何かを書き込んだ。

「不安除去のループ……いい実験になりそう」


佐伯は満足そうに「ありがと!」と言って去っていった。

ほんとうにわかってんのかね。


──春の日差しが暖かくのどかな校庭に昼休みの終わりのチャイムが響いていた

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