第6話信之、嘘ついてますよね?
今回いつもより少し長めです。
その後、私は勘助と別れた。6時だ。まあそんなものか。
私は、今度は躑躅ヶ崎館の周りをグルっと一周する事に決めた。半分くらい周ると、信之に出会った。
「信之さん……?」
そう言うと、信之はこちらを振り返った。
「ああ、氷室さん」
そう言って私に朗らかな笑顔を向ける。
「どうかしましたか?」
「いえ。ただ暇だったもので、ブラブラと歩いていたんです」
そう言うと、信之は手を、ポンと叩いた。
「そうだったんですか。では、僕とお話でもしませんか?」
「ありがとうございます。でも、お邪魔じゃないですか?」
「そんなことありませんよ。もしかして、僕と話すの嫌ですか?」
信之は首を傾げて聞いてれくる。
「いえ、そんなことはないですよ」
「では、話してくれますか?」
「でも……」
「僕が、話したいんです」
私は、ついに負けて「ありがとうございます」と言った。
私には根性が足りないのだろうか。押されやすい。
「ハハ。あ、そういえば氷室さんは何人家族ですか?」
「父と母、妹、私の四人家族です。信之さんは?」
「僕は、父と母、弟の幸村です」
「私と一緒で四人家族ですね」
そう言って私たちは笑う。
「いやー、信之さんは本当に幸せ者ですよね」
「幸せ者?」
「ええ。かっこいいお父さんに美人で優しいお母さん。そして、信之さんの事を慕う弟。幸せ者としか言いようがないですよ。」
「幸せ者、ですか。うーん、違いますよ」
「え?」
信之の返事に少し戸惑う。
「何でですか?幸村、将来有望の武士だしものすごく懐いてるじゃないですか。というか、どうしたんですか?出会ってから全然立ってないですけど、信之さんそんなこと言うような人じゃないと思うんですけど」
「そうですね、父と母のことは大好きですよ」
「え?その言い方だと幸村は違うみたいに聞こえますよ」
私は色々と違和感を覚えながらそう言う。
「大丈夫、合ってます。僕は幸村の事が嫌いです」
「ええ?」
何で?嫌いってどういうこと?
「僕は真田家の長男です。なのに、弟の幸村の方が才能があって、幸村はいつも褒められているのに僕だけ陰口を叩かれて。どうして好きになれる!?無理に決まっている。そりゃあ小さい頃は大好きだったさ。誇らしかった。でも今は違う。好きになれるはずがない。あんな奴」
信之は吐き出すように言葉を紡いでいく。
だけど私には疑問しか残らない。だっておかしい。彼と幸村が居る時を3回くらいしか見ていないけどどの時も信之の幸村を見る目は優しかった。
「嘘、ですよね」
「え?」
私は「あ」と口を押え、信之をチラリと見た。そして姿勢を正して言った。
「信之さんが言っている事、嘘ですよね」
「な、……さっき僕が言ってたこと聞いてた?」
「聞いてましたよ」
聞いてはいた。聞いてはいたけど本当に思えず、全部疑問に思っただけです。
「信之さん、何となくですけど本当の事を言っているんじゃなくて自分を思い込ませようとしているような気がするんです。あと、言っている時の表情が暗くてちょっと辛そうですし」
「そんなことない。表情だけで決めて貰わないでくれる?暗いのは下向いてたから当たり前だし辛そうなんてことも当たり前だ。大嫌いなあいつの事を考えていたんだから」
「でも……」
「とにかく!俺はあいつの事が嫌いだ。良いな」
そう言ってスタスタと訓練場に早歩きで行く信之を今回は止める気にはならなかった。今は何を言ってもどうにもならないだろうし。
「信之さん!貴方がそう言ったとしても私はそうだとは思いませんからね!」
そう言うと、信之は勝手にしろ、と私を振り返らずそのまま歩いて行った。
彼に私の言葉は届かないのだろうか。というか真田兄弟ってこんな感じだったっけ?もっと仲良かった気がするんだけど。
私はそう思いながらも躑躅ヶ崎館へと帰った。帰ってから夕飯を食べ、(相変わらず凄かった。)お風呂に入った。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「はあぁぁぁぁ」
私はお風呂で盛大な溜息をつく。今日ホントに疲れた。朝には技を何個もやり昼には前世勘助を説得して信玄に会わせ、さっきは真田兄弟のいざこざが。兄が一方的なだけだけど。
「はあ」
また溜息をついてしまった。
ダメだな。溜息をつくほど幸せが逃げる。気を付けないと。
私は周りを見る。
良かった誰もいない。私は他の人たちと比べてものすごく早く入っているが偶然入ってきてしまう可能性がある。別に入ってくるのはダメな事ではないんだが、私が困る……!
能力を解除してないから見られても大丈夫だ。しかし、私は悪い。男の人と一緒に入浴とか無理である。裸も無理だ。上裸は大丈夫だと思うがそれ以外はアウト!顔見ただけで死んじゃう私。
というか私イケメンだなぁ。傍から見たらナルシストだけれどイケメンなのは合っているから別に良い。
白い肌に細い手足とつやがありさらさらな空色の髪の毛と瞳。すらっとしていて透明感のある唇。自分好みが過ぎる気がする。
お湯に反射して見える私にキュンってなる。しかも今裸でその部分も見えているから私の中の乙女心が悲鳴を上げている。
「私本当にイケメンだな」
「それ自分で言うの?」
「!!?」
そう呟くと後ろから声がしたので思わず肩を上げる。そして、おそるおそる後ろの人物を確認した。
「勘助」
「そうだけど」
私を驚かせたのは勘助のはずなのに何だこいつというような目で勘助が私を見てくる。驚かせたのはそっちでしょ!
「こんなことで驚くの?弱くない?」
「なっ。驚くわよそんなの」
「……」
「?」
勘助が私の事を何も言わずジッと見てくる。え、何?顔と体を見てくるから見惚れている可能性もあるけど勘助は違うよね。というかそうだったら貴方誰?って顔面を蒼白にして聞くわね。怖すぎるわ。
「ちょっと、失礼なんだけど」
ああそういえば勘助心を読めるんだったわ。
「失礼なのは認めるけど、勘助は何で私の顔と体見てきたの?」
「ああ、いやお風呂の時でも変身解いてなかったんだなって思って」
「いや解いてたらマズいよ?この状況もヤバいし誰か入ってきたら私死ぬよ?」
私もお風呂の時くらい解きたいんだけど解きたくても解けないんだよ。
「ふーん。じゃ、今解いたら?」
話聞いてました?
「うん、聞いてた聞いてた」
信之もこんな気持ちだったのかな。というか私が異性なの分かってる?
「無理に決まってるでしょ。バレたら私終わるし夫婦でも交際相手でもない私と貴方がそんなことしていいはずがないじゃない!」
「プッ。あははっ」
そう言うと、勘助は噴き出して大きな声で爆笑した。なんてひどい。
「なっ」
「はは。ごめんごめん。冗談のつもりだったのにそう返されたから面白くて」
「冗談でもこういう事は言っちゃダメよ!」
まったくもう。と私は頬を膨らませた。
「じゃあはい」
勘助は手を広げた。
「何その手?」
「それはどうでもいいから。とにかく入って」
何?私はそう疑問に思いながらも素直にその中に入った。
密着してるからかなんか気持ちいい。
「ふふっ。勘助、私の事気にかけてくれてありがとう。ちょっと楽になったわ」
「……ぁ……っ。」
私はそう満面の笑みで言うと勘助は顔を徐々に赤くさせていき、顔を真っ赤に染めて顔を震わせていた。
「勘助?わっ。」
そう尋ねるのと同時に勘助は私の首に腕をキュッと巻き付けた。突然の事に困惑していた私だったが、そのまま体を半回転させ勘助の首にするりと腕を巻き付ける。
「っ!」
勘助の体が飛び上がるがキュッと力を強く入れて体を近くへと寄せる。勘助はおそるおそると言った具合に手を動かし私のせなかにふれ抱きしめられているような状態になる。
その態勢のまま少したった後、人の気配を感じてバッと離れる。
「氷室様ー!」
声がした方へと振り向くと幸村が上裸で手を振りながらこっちに走ってくる。
ギリギリ見られなかったわよね?セーフよね?
「幸村。」
「こんばんわ!氷室様、そちらの方は?」
「あー、えっと私の友達。天王寺っていう。」
「そうなんですか。よろしくお願いしますね天王寺さん」
幸村はそう言って勘助に笑顔を向ける。
「ねえ」
「何?」
「僕の名前忘れたでしょ」
「……」
いやーこれは仕方ないんですよ。勘助が一番しっくりくるというか。それに私涼?よりも勘助の方が言いなれてるし。
「そ」
勘助が横に向く。
「氷室様、城下の噂なんですけど……」
私は幸村とざっと十五分談笑し続けていた。
「あ、俺そろそろ出ますね。氷室様と天王寺さんは?」
「うーん私はまだいいかな」
「僕は出るよ」
勘助がそう言うと、じゃあ行きましょうと言いながら幸村は勘助の手を取って歩き始めた。勘助の、話しかけている幸村に慌てながらも答えている姿を見ていたら勘助はちらりと私を見た。
私はそのことに気づいてニコリとほほ笑んで返した。すると勘助は顔を勢いよく回して幸村の方に向き、また話始めた。
それから五分経った後、私はお風呂から出て幸村と信之の部屋へと行った。
部屋は暗かった。夜だから当たり前だけど。部屋の真ん中だからか月の光が布団にあたっていた。
布団にもぐりこんだ後、私は今日の事を思い返す。
午前中に、武田家の武士たちに技を見せた。武田家の人たちは褒め上手で凄いと思った。その後、武田家軍師の死んだ軍師山本勘助に出会った。そして、説得して信玄に会わせた。
午後に、幸村の兄の真田信之の本音らしき事を聞いた。私の言葉は信之の耳には届かなかった。でもここを去る前に信之の本当の気持ちを知りたい。いつか信之が素直になってくれたらいいな。
その後、お風呂に入った。そこで勘助と遭遇して幸村とも会った。信之の事でいっぱいだったけどリラックスしてお風呂の間は忘れる事が出来た。
今日も本当に疲れた。明日信之に話を聞いてみよう。無理やりでももういいから彼に素直になって欲しい。無理やりだとしても1回自分の気持ちを言ったらきっとそれからは素直になれると思うから。
だから私はーー