第26話美青年武将が「これは毒か?」って真顔で言ったんですが、面白すぎる!
私は部屋に入り、背後の扉が静かに閉まる音を聞いた。音と同時に、外界との繋がりが遮断されたことを感じる。振り返ると、そこにはもう木の幹に現れた重厚な扉の痕跡はなかった。あるのは、洗練された和室の空間だ。
部屋は広く、全体的に落ち着いた木目調でまとめられている。壁や天井は清潔感のある白木で、畳の青みがかった緑と美しいコントラストを成していた。部屋の中央には、低めの座卓が置かれ、座椅子が二つ向かい合っている。
そして何より目を引くのは、正面にある大きな障子窓だ。
私は窓際に進み、そっと障子を開けた。本来ならば大木の中にいるはずなのに、窓の外に広がっていたのは、夕闇に染まり始めた城の壮麗な景色だった。夕日を受けて赤く染まる巨大な天主が、遥か遠景にそびえ立っている。
特徴的に、私が好きな城だろう。前世で見たことがなかったのに、というか城跡だったのに、何故あるのだろう。私の想像の空間では無いのかな。いや、見れたのは嬉しいのだが。
そういえば、今が戦国時代だというのならば、この城を実際に見ることが出来るのよね。え〜、やった!絶対見たい。私はしゃぐだろうな。
期待に心を踊らせたが、今すべきことはこれではないと、息を吐き心を落ち着かせる。
「さて、やるべきことを整理しないと」
私は魔法で、筆と紙を机上に現させる。ここは私以外人が居ないので、集中して思考を巡らせるには最適な場所だ。
まず、村の復興に使えそうな前世の知識だ。
1つ、食料の安定確保。今日の「創造」は応急処置で、村人に食料生産技術を教える必要がある。品種改良や育苗・栽培技術、肥料の作り方などでいいだろう。これは塾や学校で習ったので、実践できるくらいには説明できるはずだ。
2つ目、住居の修繕・補強。魔法で修繕したが、耐久性を高めるための建築技術も伝えるべきだ。また同じようなことが起こらないためには、伝えたければいけない。家が倒れてきて死ぬとかは絶対駄目だ。最悪すぎる。
3つ、 衛生環境の改善。疫病の予防は重要だ。井戸の整備とトイレの衛生管理について指導しないと。疫病なんて、沢山の人が死んでしまう。手洗いやうがいをしてほしいと言いたいが、それには清潔な水が必要だ。水の簡単なろ過方法でも教えればいいかな。
紙に書き出すことで、頭の中が整理されていく。
「技術的なことは、明日から直政や村の村長さんに話して実行してもらおう」
思考を巡らせながら、私はふと、先ほどの直政の様子を思い出した。
「たかが、ですか」と私が問い返したときの、彼のあの戸惑いの表情。そして、私が諭した後の、宙をさまよう視線。
あの戸惑いはどういったものなのかしら。徳川家の家臣にそぐわない態度をとったことへの動揺か、それとも、彼の中の「民」に対する価値観を、指摘されたことへの動揺だろうか。
民を尊ぶという私の言葉が彼の揺るぎない信念に一筋の亀裂を入れたように見えた。自分の信念にそぐわないことを言われた時、彼はどんな気持ちだったのだろう。
彼は武士として、民を見下すことを当然と教育されてきたのかもしれない。支配者としては、その教育は合っていると思う。民を道具として扱えれば、より高い国力を得ることが出来ると思う。そうだとしても、やはり私は民を道具として扱うのではなく、大切にしたほうが良いと思う。それに、直政が尊敬している家康が目指すのは、民が安寧に暮らせる世のはずだ。
機会があれば、彼とじっくり話をしてみたい。思考が一段落ついたので、再び筆を手に取り、書き出した知識を明日、どう伝えるか具体的に整理し始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『おい、飯だ』
作業に熱中していると、どこからか直政の声が聞こえてくる。もうそんな時間かと思いながら私は出現させた扉を押して現実世界へ戻った。
戻ると、外は暗く、月が輝き始めている。村の人々は美味しそうにご飯を食べていた。それを見て胸が暖かくなる。
しかし、ものすっごく気になることがある。
「な、なんて格好してるんですか、直政様……!くっ…ふふ、…ひっ…!」
思わず笑いがこぼれる。
何故か、直政が髪に白色の布を巻き、腕の裾を上へあげている。ご飯を作っているかのように。
「は……?料理をしているだけだが」
何故笑う、という風な目で怪訝な表情をしているが、「だけ」じゃない。
井伊直政、彼は美青年である。美青年は何でも似合うもの(私はそう思っている)で、彼も似合っている。ものすごく似合っている。スマホで連射したいところだ。
しかし、面白すぎる。絶対にしなさそうな直政が料理をしているのだ。服装も、似合ってはいても彼の雰囲気と違いすぎて面白さしか無い。
笑いを頑張って抑えようとしながら私は聞いた。
「ひっ……な、何故直政様が料理をしているんですか?…ふふっ、お、面白さしか無いんですが」
「お前が言ったんだろう。民は宝だと。それに、民に寄り添えた方が、殿の役に立つ」
凄い、凄いわ。殿パワーで直政が変化している。でも、良いことよね。民に寄り添うことは、行き過ぎなければ良いことだし、誰かの為に自分を変えることが出来るのって素敵なことよね。
こんな忠義者が徳川家に他にも多くいるのだと思うと、家康の力に感嘆を覚えた。
「驚きましたけど、すごく良い行動だと思います」
頷き、力強い目で彼を見る。
「…そうか」
それにしても、様々な料理がある。味噌汁に、白米のご飯、苺や葡萄。トウモロコシやじゃがいもなどを焼いたものもある。戦国時代には特定階級の人しか食べなさそうなものばかりだ。この時代にあったかすらわからない食材を使った料理もある。
「知花が出したものを使ってみたのだが」
得体のしれないものを直政が使うなんて意外だなと思いながら、お礼を言う。
「ありがとうございます。直政様」
「……謝ることではない」
そう言いながらも、嬉しそうに顔を少し赤らめた彼を見て、少しにやけてしまう。イケメンの照れ顔は最高ね。
大きく長い椅子とテーブルを出し、村の人達と共に夕飯を食べる。やっぱりお米は美味しい。順調に箸を進めているが、ここ何日も洋食を食べていなかったと思い出し、魔野菜の沢山入ったサンドイッチやハンバーガーを魔法で出す。そして、齧り付く。
その様子を見ていた直政は、美味しいのかと尋ねてきた。美味しいですよ!と答えたが、実際に食べたほうが手っ取り早い。
「直政様、口開けてください」
「……?」
何も言わず口を開けた彼に、信頼されたなぁと染み染み思う。ちょっと前だったら、警戒心増し増しで理由を聞いてきただろうに。
私はサンドイッチを彼の口に突っ込む。
「!?」
ブワッと彼の顔が赤くなる。
「おま…何を……!」
そう言ったが、マナーを気にしてか、口を閉じ、サンドイッチを黙って食す。そして、雷が走ったように一瞬固まってから、口元を手で抑えた。
彼はサンドイッチを食べきった後、真顔でこんなことを言った。
「……これは、毒か?あまりに美味すぎて、頭がどうにかなりそうだ」
「ふぐっ!」
彼の言葉に私は吹き出す。
ど、毒?サンドイッチが?美味しいけど、そんなになのか。やっぱり、現実世界と戦国時代の食事違うものね。現実世界には美味しいものがありすぎて、私含む現代人は感覚が狂っているのかな。
「これはどうやって作るのか?」
目を輝かせて直政は問いただしてくる。私は、パンをどうやって作るのかは知らない為、チート能力に頼って、彼に話す。
「まず、小麦粉に甘酒を混ぜ、囲炉裏のそばで数時間置いて少し膨らませます。熱した石の上や平鍋で両面を焼きます。これでパンが一応完成しました。これに、雉や鹿の塩焼きや味噌漬けの野菜、焼き味噌、あんこなどを挟みます。これで、戦国風サンドイッチの完成です」
実際に、魔法を駆使しながら再現してみる。
出来上がったサンドイッチを彼に渡すと、表情を和らげ、幸せそうに食べた。食べ終わった今も、雰囲気がふわふわとしている。普段のキリっとした鋭い瞳が、とろんと目尻を下げている。
「さっきと少し違うが、これも上手いな」
「私もそう思います」
結構好みの味だ。
もぐもぐ食べていると、直政はサンドイッチを見つめながらハッと気づいたように呟いた。
「この食べ物を増産して売れば、それなりなお金になるのでは……?」
商売の話に繋がった。直政、君は商人ではなく武士だぜ……?
なにかに繋げる考え方、良いとは思うし、私好きだけど。
そう思いながら、私は彼に声をかける。
「売れると思うけど、人材調達しないといけないし、小麦粉貴重だから、調達も難しいし値段が高くなるかも」
裕福層向けに売るのも駄目ではないとは思うけれど、主案者が商人ではなく一家に仕える武士だから、それもまた難しい。
「これを干して携帯できるようにすれば、最強の兵糧にもなるのでは……!?」
「いや、腐りますよ。食料の無駄です」
保存する技術はこの時代には無いのだから。
あ、でも待って。
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