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第25話遠州の村

それからの道中、特に困ったことはなく、5日で遠州の村に着いた。直政に馬から降ろしてもらい、周りを見る。

遠州の村は、三方ヶ原の戦の爪痕が深く残っていた。荒れ果てた田畑、半壊した家屋。そして何よりも、希望を失い無気力になった村人たち。

「これは……」

「想像以上だな」

私の言葉を引き継ぎ、直政は言う。

ものすごくヤバい。食料も住処も無いのに加え、希望も失ったとなると……うん、死ぬ人増えるね。

簡単に言ったが、絶望的状況だ。せめて希望は取り戻したい。

そう考えた後、住民をちらりと見る。

突然現れた私達を警戒しており、農具を武器として構えそうになっている人達も居る。大人は別にしょうがないとは思うが、子供にまで警戒を向けられているのは悲しい。



どうしようかと迷ったが、ひとまず彼らに話を見いてみることにした。

「すいません、お話伺ってもよろしいでしょうか?」

そうすると、ギロリと睨まれた。えぇと思いながらも、睨まれていることを気にせず、駄目だと言っていないのだから良いのだと思うことにした。

「私達は家康様から、村の立て直しの為に遣わされました。貴方方を苦しめた原因である私達にそのようなことをされるのは不服とは思われますが、村の復興の為、協力してもらってもよろしいでしょうか?」

「……お前は誰だ」

低く、不機嫌そうな声で問われる。直政ではなく私が言ったから、不思議に思ったのだろう。直政は徳川家臣として名が売れているはずだ。いや、知らないが。

「名乗りもせず失礼いたしました。私の名は氷室。若輩者ながら、この村の復興の為、尽力することを誓います」

地面に片脚をつき、微笑んだ。

それに、彼だけではなく村の者達がざわめく。何かおかしかっただろうかと首を傾げていると、直政が苦言を申してきた。

「そのようなへりくだった態度をとることはないだろう」

へりくだった態度。確かにやり過ぎ感は自分でも感じていたが、へりくだったとまで言う態度だったろうか。

「私は礼儀を欠かさぬよう振る舞っただけなのですが」

「やりすぎだ。徳川家がなめられるようなことはするな」

別に、家臣一人がそうしただけでなめられるようなことはないと思う。それに、礼儀を尽くすことで何故なめられるのか。褒められても良いと思うのだが。



「たかが民相手にそのような行動はするな」

「たかが、ですか」

『たかが民』。その言葉に、私は思わず反応した。たった二文字の言葉が、私の胸に鋭く突き刺さる。小説や漫画で見てきた、他者を見下すときに使う言葉だ。

民は国の宝だ。国は、民がいなければ成り立たない。まさか直政がそんな言葉を使うとは。民の大切さを分かっていないのだろうか。それならば、知って欲しい。知っていてその言葉を使っているとするのならば、悲しいと、そう思う。

「直政様、民は国の宝で、尊ぶものです。民たちが居なければ、国は成り立ちません。そのような言葉は使ってはなりません。どうか、そのことについて分かってください」

諭した私に、多くの視線が集まる。

直政の視線は、私の言葉から逃げるように宙をさまよっていた。いつもは毅然としているその横顔に、一瞬だけ、微かな戸惑いの色が浮かんだように見えた。

何に動揺しているのだろう。私が無礼に諭したことだろうか。



それを考えている暇は無く、私は直政から村の人に振り返る。

「皆さんは何に困っていますか?食料ですか?それとも住む場所ですか?」

ざわつき、さっき私が話しかけた人が答える。

「食料だ。このままじゃ、飢え死にしちまう」

哀しみの眼に、もう数人知り合いが死んでしまったのだろうかと考える。

「分かりました。大きめのテーブルを何台かお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「3台で良いか?」

「十分です」

警戒しながらも協力的な彼の言葉に、私は頷く。



台を並べてもらった後、私は台に向かって手を伸ばす。

村人たちは、何が始まるのかとざわめきながら遠巻きに私たちを見守っていた。直政は何も言わず、ただ静かに私の隣に立っている。彼の瞳には、期待と、まだわずかな戸惑いが混じり合っていた。

私は目を閉じ、集中する。脳裏に思い浮かべるのは、色鮮やかな野菜や炊きたてのおむすび、そして色々な具材が詰まった味噌汁だ。ご飯ではなくおむすびにしたのは、おむすびのほうが沢山食べれるからだ。

創造(クリエイト)

静かに唱えたその瞬間、私の手が淡い光を放ち、目の前の空間が揺らめいた。

光が収まると、台にぎりぎり収まるくらいの食料が姿を現す。

「な……!?」

村人たちの間に、驚きと戸惑いの声が上がる。

テーブルの上には、私が考えていたもの以外につやつやと輝くトマトや土の香りがするジャガイモ、そして、見たこともないような大きなカブやニンジンが山と積まれている。さらに、小麦粉が詰まった麻袋や肉の塊までもが、目の前に広がっていた。考えていたものより種類が多いが、多くて損は無い。

「安全は保証します。お金を取るなんてこともいたしません。どうぞ、好きなだけ食べてください」

私の言葉に、村の人達から歓声が湧く。良かったと涙ぐみ大人たちや、目を輝かせている子供達の姿がある。食料に手を伸ばし始めた彼らの瞳は、先ほどの絶望ではなく光に満ちていた。

「本当に食える……!」

「こんな美味しいもの食べたこともねえ……!」

村の人たちの顔に、少しずつ笑顔が戻っていく。



無くならないうちにと、私は村の真ん中に行き、地面に手をつく。村の人達は気づかず、食料を手に取り食べている。まるで飲むように食べている人がいるので、あと1回は食料を足さなければと思う。

「おい、何を……」

復元(リストア)

手をついた場所から広がるように、崩れた家が元通りとなり、荒れた畑や田が耕され雑草が消える。その様子が微妙に面白い。魔法感が強い。

瞬く間に、荒れ果てた家々が元の姿を取り戻していく。乾いた土からは雑草が消え、新しい作物が顔をのぞかせた。

その光景に、食事をしていた村人たちは手を止め、まるで奇跡でも見るかのように私を見つめた。彼らは、目の前で起きたこの出来事が、私の力によるものだと直感したのだろう。

直政や護衛の人達は、呆然と復元していく様子を眺める。考えることをやめているような顔になっているので声を掛けると、直政はハッとする。癖なのか、刀に手をやり、戻す。

そして、村の人達や護衛の人々に、声を張って命じる。

「いいか、この村で起こったことは、決して他言するな!もし口を滑らせれば、命はないと思え」

完全なる脅迫だが、その声には強い決意が込められていた。自分で言おうと思っていたので、その前に言われて驚く。直政が言ってくれるとは思わなかった。



そう思っていると、食料があと少しになっていることに気づく。村の人に「食料足します?お腹まだ空いてますか?」と聞くと、お願いしますと頭を下げられた。私が好きでしていることだから頭を下げる必要はないと思うのだが。

創造(クリエイト)と唱え、さっきと同じくらいの量の食料が現れる。今回は魚料理が多い。

魚料理が無理な人は居ないだろう。というか、この後何をすれば良いのだろうか。住居も食料もある。他に何か必要なものはあるだろうか?

頭を回転させたが、何も思いつかなかった。

何もしないのは嫌なので、使えそうな前世での知識を思い出し書き出すことにする。もう夕方なので、今日ではなく明日に伝えようと考える。



その為に家を作ろうと思う。前世で住んでいたのはマンションだったが、それを建てるわけにもいかないので目立たないように木にでも入口を作ろう。

近くにある大木の幹に手を重ねる。

精神の壁(マインド・ウォール)

直視できないひどの強い光が木から放たれ、目を瞑る。光が収まると、大木に重厚な扉が現れる。

「おおっ」と感嘆の声が上がる中、私は扉を開ける。開けるとき、扉の向こうから冷たい風が吹き抜け、髪がたなびいた。

扉の向こうには、以前家族と旅行に行った際に泊まった高級旅館のような部屋があった。戦国時代なのだから和室のほうが良いと、脳が判断したのかもしれない。

私は部屋に入る前に、直政に声を掛ける。

「何か用があれば、この木に声をかけてください」

そう言って、大木に目を向ける。

「分かった」

その一言を聞き、私は部屋の中に入った。扉が閉まり、あちらの世界から扉が消えた。

次の投稿は1ヶ月以上後になると思います。次は、「我儘で自己中心的の人でなし悪役令嬢に転生したから逆ハーレムを目指します!」の更新をする予定です。

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