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第23話知花だから【信玄】

会場の熱気が収まり人が減ってくると、知花が三日月宗近を刀につけながらやってくる。

「信玄様。ありがとうございました。これからは信玄様に付いてきます」

「誤解されそうな言い方だな」

そう言い、俺は笑う。

三日月宗近のことは、知花だからと思うようにしよう。しかし、武闘大会の商品が名刀なんてな。ありえない話では無い。だが、それを求める大名が大勢居る刀が優勝賞品とは思いもしなかった。

俺は手を差し出し、パチンとウインクをする。彼女は微笑みながら手を取り、歩き始める。

その笑顔に、手慣れていると思ったのだと分かる。

「今、失礼なこと考えなかったか?」と聞くと、「え?サア、何ノコトデショウ?」とわざとなのか疑うくらいバレバレすぎる答えが返ってきた。

俺はそれに付き合うことにする。

「勘違いか」

その答えで、気づいたことがバレた。俺達は演技が苦手なのかもしれない。

「これからどこ行くんですか?」

「どこって、屋台に決まってるだろう」

そう尋ねてくる知花に、当たり前だと言う。知花は確かに……と納得しながら周囲を見回す。そして考え込む。

「信玄様、簪屋行きましょう」

「ああ」



「信玄様、次は着物屋さんに」

「ああ。だがお前にはどれも似合うだろうが」

 


「信玄様、お団子好きですか?」

「ああ。比較的好きだぞ。お前への好意ほどでは無いがな」

「うわこの店すごいおしゃれ!凄いですね城下町。流石です!」

「……」



お団子屋では、カップルしか食べれないという桜の匂いのする桜味の団子を知花と分け合って食べる。



……何故知花はこんなに鈍感なんだ?甘い言葉を言っても、スルーされる。俺の周りにいつも居た女達は、褒めたり優しくしたりするだけで嬉しそうにしていた。だから、こういうときにどうすれば良いか分からない。

少し落ち込む。

知花は優雅にお茶をすすっていた。微笑みを浮かべ、幸せそうだ。

俺とは逆だ、と思う。



……知花なら、良いかもな。

あそこに連れて行っても良いかもしれないと、軽くではなく真剣に考える。今まで誰も連れて行ったことは無かった。勘助さえも。

なのに、知花なら……と何故か思ってしまう。

俺も落ちかけているのかもな。

自分に苦笑する。

「知花、行きたいところがあるんだがいいか?」

「もちろんです」

了承の返事を聞き、「あっちだ」と言って西の方角を指差し、知花の手をパシリと取る。どこに行くのかとソワソワ気味の知花を見て、笑みが零れる。



しばらく歩き、丘に着く。

日は落ち始め、周りには誰も居ない。いつもそうだ。いつ行っても、誰も居ない。

ここには俺達しか居ない。

俺は、知花の手をゆっくりと離す。

「知花、お前に見せたいものがある」

「見せたいもの、ですか?」

知花は、目を丸くさせる。

「ああ」

軽く頷き、そろそろだと「前を見てみろ」と声を掛ける。

「え?」

知花は首を傾げながらも、前を向く。

「!」

顔を向けた先には、神秘の絶景があった。

「……綺麗」

隣からポツリと、口元から言葉が零れる。

大きな山に神々しい光を放つ太陽が被さり、光が漏れ出している。周囲にある雲も、茜色に染まっていて、その様子が山の手前にある湖に映っている。湖の近くの城下町からは、民達はの明るい声が沢山聞こえる。

……昨日のことのように、あの日のことを思い出す。

民達の楽しげな声を聞き、俺は決意した。その決意の為に、今までやってきた。

「美しい、場所ですね」

彼女は声をひねり出す。

知花の目には、神秘的な景色と”民達の幸せそうな声が聞こえる城下町”があった。

民達の声を煩わしく思っていない、知花は。

そう思うと、胸が熱くなってくる。

知花と目が合うと、笑みが零れた。

「美しいだろう。俺は、精神的に疲れたときとかにここに来て、民たちの笑い声やこの美しい景色を見るんだ」

「……格好良いですね。信玄様は」

「……ありがとな」

連れてきて良かったと、俺は心から思う。

俺も落ちた。

そのことを悪くは思わなかった。



むしろ__

信玄は、父がそうだったので人は民たちを好ましく思っていないと考えています。信玄は好きです。

勘助さえも今まで連れてこれなかったのは、民たちを好いていなかったら怖いからです。世界で一番近しい親友も分かってくれなかったら、親友に、この世界に絶望してしまうと自分で理解しています。

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