第1話タイムスリップをしたらチートになった
目を開けると私は商店街のようなところのど真ん中に立っていた。しかし、建物はコンクリートなどではなく木でできていて昔のようである。
いや、昔かもしれない。あの機械音のような声では戦国時代にタイムスリップすると言っていた。
それと、ここは武田領らしい。私も緑色の着物を着ている。というか、なんか身体が大きくなってる。不思議だ。
私は取り敢えず、状況を理解するために人通りの少ないところに行った。
「えーと、今は一体何年なんだ?それが分かれば今何をすればいいかわかるのに」
私は手を顎に当て、首を傾けた。
タイムスリップしたと言ってたけど、異世界みたいなもんだし力をくれるって言ってたからゲームとかでよく見るステータスとかあるかもしれない。
そう考えて私は実際にやってみる事にした。全然人通りが無いからもし出来なくても恥ずかしくないしね!
「ステータスオープン」
そう言うと、私の正面にそれらしきものが出てきた。説明みたいなものが出てるので読んでみる事にした。「えーっと。氷室知花13歳。誕生日は3月23日で家族は父と母と妹の3人。血液型はBで誕生星座は牡羊座で、うま年。戦国時代にタイムスリップをしてきた。それにより漫画などであるチートになった。だが、チートの力を普段はいくらでも使えるが満月が出ている日の夜には力を10万までしか使えなくなる。か。結構いいな」
私は口角を少し上げた。
「この力を何かの為に使う事は出来ないかな」
私はそうポツリと呟いた。
「ここは戦国時代。戦国時代だから戦争がものすごく多い。戦争が起きると農民が兵に駆り出される時がある。敵味方関係なく、死者が沢山出る。でも、そのことを上に立つものは気にしていない。気にしていない……?」
私は顔を少しだけゆがませて言った。
「戦国シュミレーションゲームで全然気にしていなかった私が言えることではないけど、ここは現実。人の命を無造作に奪っちゃだめに決まってる。だから――私はこの力を使って人が死んでしまうのを、人が死ぬのが当たり前な世界を変えて見せる!」
私はそう決意をしたのだった。
しかし、そう決意はしたものの今からどうすればいいのだろうか。あ、チートの力でわかるかもしれない。
そう思い、今はどんな状況か確認し、武田信玄が病にふせて今ここ武田領に向かっている途中だと言う事が分かった。
そういえばそんな場面あったよな。あの時このことを聞いた時は信長の運の高さにひれ伏しそうになったわね。
うーん。力で直せるから直したいんだけど、出来る事ならあっちから呼んで欲しいんだよね。でも、ここにきている途中に死んでしまったら元も子もないし。
いつ死ぬのかな。死ぬのかなってなんかあれだけど。
少し調べてみた。ここに到着してから3日後らしい。
まあ、妥当だな。大丈夫そうだ。良かった。で、呼んでもらうにはどうすればいいのだろう。
有名な医者だったら呼んでくれると思うけど、今からなったとしてもすぐ有名になれないからな。でも、有名じゃなくてもどんな病でも治すという噂の医者が居たら呼ぶかもしれないな。うん。
この時代、男女差別もいいとこですけど医者には男しかなれないんだよね。現代だったら考えられないわ。
しょうがない。男にチートでなって医局を開いて無償で治すか。
噂を聞いたところどっかの有名な武士の奥さんが病に臥せってるとのことだからそこで治してだんだんと噂を作るか。
「マスカレード」
そう言って、私は男の子に変身した。そして、武士の奥さんの病を治そうと表通りに出て武士の家に向かって歩き始めた。
歩き始めて数分、私はこの状況に少し慣れていた。
誰かとすれちがうと、必ず相手は立ち止まって私のことを熱のこもった目で見るのだ。すれちがわなくても周りにいる人たちにものすごく見られる。
当たり前な気がするが、男女で反応の仕方は違う。
女の子はかっこいいと絶対考えているような熱いまなざしを向けてくるが、男の子は大体少しうらやましそうなだったりねたんでいるようだったりする視線を向けてくる。
たまに女の子と同じように熱いまなざしを向けてくる子もいるがそれだけはどうもなれない。
しかし、そうなるのも当たり前である。
自分で言うのもなんだが、外見の偏差値が70以上くらいなのだ。きっと現世でそんな人を私が見かけたら背中が見えなくなるまでずっと見ている事だろう。
白い肌に細い手足とつやがありさらさらな空色の髪の毛と瞳。すらっとしていて透明感のある唇。
そりゃあなる。ならないわけがない。今ならどんな人でも落とせるような気がする!
私はそう心の中でガッツポーズをする。ガッツポーズをするのはおかしい気がするけれど。
そう考えているうちにお目当ての武士の家着いた。私は深呼吸をして戸をコンコンと叩いた。
「ごめんください」
そう言うとガラッと戸が開き、中から中年男性が出てきた。いかつい。
中年男性は私のことを一瞥すると、面倒くさそうな態度で「何の用だ」と聞いてきた。私は表情を崩さないまま言った。
「こんにちは。お宅の奥さんが不思議な病で倒れていると知りまして。拝謁ながら私に治させていただけませんか」
そう言い私は首を横に傾けた。
男性の「そう言って、治せなかったやつがそこらじゅう要るんだがな」と言う言葉に私はピーンときて失敗した場合には逆に賠償金を払うと言った。
男性は「そういう事じゃないんだが」とつぶやいていたが私のひかない態度を確認して、承諾してくれた。
女の人がいる部屋に入ると、10代くらいの武士が立っていた。
女の人を見ている時は眉を下げていたのに私を見ると、にらみつけてきた。
この人は女の人の何なんだ。弟とか?
そう考えていると男性はこの人の事を紹介した。
「こいつは、幸村。いろんな医者が来たが、誰ひとり治せなかったから気が立ってんだ。すまんな。幸村も謝れ」
幸村。真田幸村を連想させるがまあ、違うだろう。
「はっ。どうせお前も母上の体をみるためか金目当てなんだろ。ったく父さんもなんで承諾したんだよ。バカかよ」
グレてるなぁ。でも案外こういうタイプいけるかも。
「バカとはなんだ。バカとは。」
幸村さんのお父さんがそう反論している。
「幸村さんは――」
幸村さんがこちらを振り返る。
「幸村さんはお母さん思いなんですね」
私はそう言って、微笑んだ。
「はあ!?べっ、別にそんなんじゃねえよ!ったく、もう勝手にしろ」
顔を赤くさせながらそう幸村さんはお父さんを廊下へ連れ出して障子をバンとしめてしまった。
ツンデレ気質か?
そう考えていたが気を引き締めて、女の人の前に座った。
そして、「よろしくお願いします」と言い、女の人の手に自分の手を絡ませた。
「ヒーリング」
そう唱えると女の人の身体が少し光った。私がどうなったんだとおろおろとしていた時、女の人の目がゆっくりと開いた。
「貴方は?」
「っ、……良かった」
私は成功したことで肩の力がドッと降りた。
そして、助ける事が出来てよかったと思いながら笑みを浮かべた。
「……お医者様、助けて頂き、ありがとうございます」
「いえいえ」
女の人は顔を赤くさせ、私の手を取った。何で?
「あの……」
「母上!」
「あ」
やってしまった。いや、何もやってなどはいないのだが何か誤解をされているような気がする。最悪だ。
「は、母上から離れろっー!!!」
幸村さんの声が屋敷中に響いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「すまなかった。……早とちりして」
今にも私に襲い掛かってきそうな幸村さんを女の人が事情を話して幸村さんが納得した。のではなく、逆に火に油みたいな感じになってしまい、幸村さんをお父さんに抑えてもらいながらしっかりと説明をして、今なのである。
「大丈夫ですよ幸村さん。気にしないで下さい」
「……幸村」
「え?」
自分の名前を言う幸村さんに私は思わず聞き返してしまった。
「幸村でいい」
分かるように言い直してくれたが、私にはまだ分からず首をかしげる。すると、幸村さんはあ~もう!というように顔を真っ赤にさせながら言った。
「俺の名前。幸村でいい。幸村って呼べ」
そういうが、顔が真っ赤になっているのが少し面白く私はふふっと笑った。
「なっ、なんで笑うんだよ!」
「幸村が真っ赤なところが面白くて」
「!」
「では、私はこれで。じゃあな幸村」
私は挨拶をして入口の戸に手をかける。
「なあ!」
私はその声に振り返って幸村を見る。
「また会えるか?」
「きっとね」
長い人生なのだから。
幸村の問いかけに答え、私は外へ出た。
「またな」
笑顔を見せ、私は扉を閉めた。