第1話タイムスリップをしたらチートになった
目を開けると、私は商店街のようなところのど真ん中に立っていた。しかし、建物はコンクリートなどではなく木で出来ていて、昔のようである。
いや、昔かもしれない。あの機械音のような声では戦国時代にタイムスリップすると言っていた。
それと、ここは武田領らしい。私も緑色の着物を着ている。というか、なんか身体が大きくなってる。16歳くらいかな。不思議。
私は取り敢えず、状況を理解するために人通りの少ないところに行った。
「えーと、今は一体何年なんだろう?それが分かれば今何をすればいいかわかるのに」
私は手を顎に当て、首を傾けた。
タイムスリップしたと言ってたけど、異世界みたいなもんだし、力をくれるって言ってたからゲームとかでよく見るステータスとかあるかもしれない。
そう考えて私は実際にやってみる事にした。全然人通りが無いからもし出来なくても恥ずかしくないしね!
「ステータスオープン」
私の目の前に、半透明のパネルが浮かび上がった。
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【名前】 氷室 知花(13歳)
【誕生日】3月23日(牡羊座)
【血液型】B型
【能力】 規格外
※通常時は無制限。ただし満月の夜のみ、出力が10万に制限。
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「満月の夜だけ制限か。……まあ、10万もあれば十分そうね。結構良い能力かも知れない」
私は不敵に口角を上げた。
「この力を何かの為に使う事は出来ないかな」
私はそうポツリと呟いた。
「ここは戦国時代。戦国時代だから戦争がものすごく多い。戦争が起きると農民が兵に駆り出される時がある。敵味方関係なく、死者が沢山出る。でも、そのことを上に立つものは気にしていない。気にしていない……?」
私は顔を少しだけゆがませて言った。
「戦国シュミレーションゲームで全然死者数とか気にしていなかった私が言えることではないけど、ここは現実。人の命を無造作に奪っちゃだめに決まってる。だから――私はこの力を使って人が死んでしまうのを、人が死ぬのが当たり前な世界を変えて見せる!」
私はそう決意をしたのだった。
しかし、そう決意はしたものの今からどうすればいいのだろうか。あ、チートの力でわかるかもしれない。
そう思い、今はどんな状況か確認し、武田信玄が病にふせて今ここ武田領に向かっている途中だと言う事が分かった。
そういえばそんな場面あったよな。あの時このことを聞いた時は信長の運の高さに感服したわ。
うーん。力で治せるから治したいんだけど、出来る事ならあっちから呼んで欲しいんだよね。でも、ここにきている途中に死んでしまったら元も子もないし。
いつ死ぬのかな。死ぬのかなってあれだけど。
少し調べてみた。ここに到着してから3日後らしい。
まあ、妥当だな。大丈夫そうだ。良かった。
で、呼んでもらうにはどうすればいいのだろう。
有名な医者だったら呼んでくれると思うが、今からなったとしてもすぐ有名になることは出来ない。だが、どんな病でも治すという噂の医者が居たら呼ぶかもしれない。そう考える。
この時代、男女差別もいいとこですけど、医者には男しかなれないんだよね。現代だったら考えられないわ。
しょうがない。男にチートでなって医局を開き、無償で治すか。
噂を聞いたところ、どっかの有名な武士の奥さんが病に臥せってるとのことだから、そこで治してだんだんと噂を作るか。
「Alter Ego」
そう唱え、私は男の子に変身した。そして、武士の奥さんの病を治そうと表通りに出て武士の家に向かって歩き始めた。
歩き始めて数分、私はこの状況に少し慣れていた。
誰かとすれちがうと、必ず相手は立ち止まって私のことを熱のこもった目で見るのだ。すれちがわなくても周りにいる人たちにものすごく見られる。
当たり前な気がするが、男女で反応の仕方は違う。
女の子は格好良いと絶対考えているような熱い眼差しを向けてくるが、男の子は大体少し羨ましそうだったり妬ましそうだったりする視線を向けてくる。
偶に女の子と同じように熱いまなざしを向けてくる子もいるが、それだけはどうもなれない。
しかし、そうなるのも当たり前である。
自分で言うのもなんだが、透き通るような白い肌、空色のさらさらな髪と瞳を持つ、偏差値70超えの、この世の美しさをすべて凝縮したような超絶美少年。私が現世でこんなイケメンを見つけたら、無意識にスマホでその人を連写してしまうだろう(注意:盗撮はやめましょう)
そりゃあなる。ならないわけがない。今ならどんな人でも落とせるような気がする!
私はそう心の中でガッツポーズをする。ガッツポーズをするのはおかしい気がするけれど。
そう考えているうちに、お目当ての武士の家着いた。私は深呼吸をすると、戸をコンコンと叩いた。
「ごめんください」
そう言うとガラッと戸が開き、中から中年男性が出てきた。いかつい。
中年男性は私のことを一瞥すると、面倒くさそうな態度で「何の用だ」と聞いてきた。私は営業スマイルを崩さないまま言った。
「こんにちは。お宅の奥さんが不思議な病で倒れていると知りまして。拝謁ながら私に治させていただけませんか」
そう言い、私は首をコクンっと横に傾けた。
男性の、「そう言って、治せなかったやつがそこらじゅう要るんだがな」と言う呟きに私はピーンときて、失敗した場合には逆に賠償金を払うと言った。
男性は「そういう事じゃないんだが」と言っていたが、私のひかない態度を確認して、承諾してくれた。
女の人が居る部屋に入ると、10代くらいの武士が立っていた。
女の人を見ている時は眉を下げていたのに、私を見ると、睨みつけてきた。
この人は女の人の何なんだ。息子とか?
そう考えていると、男性はこの人の事を紹介した。
「こいつは、幸村。色んな医者が来たが、誰一人治せなかったから気が立ってんだ。すまんな。幸村も謝れ」
幸村。真田幸村を連想させるが、まあ違うだろう。
「はっ!どうせ、お前も母上の美貌を見る為か恩赦目当てなんだろ。ったく父さんもなんで承諾したんだよ。バカかよ」
グレてるなぁ。でも案外こういうタイプいけるかも。
「バカとはなんだ。バカとは」
幸村さんのお父さんがそう反論している。
「幸村さんは――」
幸村さんがこちらを振り返る。
「幸村さんはお母さん思いなんですね」
私はそう言って、微笑んだ。
「はあ!?べっ、別にそんなんじゃねえよ!ったく、もう勝手にしろ」
顔を赤くさせながら、そう幸村さんはお父さんを廊下へ連れ出し、障子をバンッ!と勢いよく閉めてしまった。
ツンデレ気質か?
そう考えていたが、気を引き締め、女の人の前に座った。
そして、「失礼します」と言ってから、女の人の真っ白で透き通った手に自分の手を絡ませた。
「Init」
そう唱えると、女の人の身体が少し光った。顔色が段々と良くなっていき、元の女性の姿に戻る。私がどうなったんだとおろおろとしていた時、女の人の目がゆっくりと開いた。
「貴方は?」
「っ、……良かった」
成功したことで、肩の力がドッと降りた。そして、助ける事が出来て良かったと思いながら笑みを浮かべた。
「……お医者様、助けて頂き、ありがとうございます」
「いえいえ」
女の人は顔を赤くさせながら、私の手を取った。何で?
「あの……」
「母上!」
幸村さんが扉を乱雑に開き、母を心配そうに見つめる。
「あ」
やってしまった。いや、何もやってなどはいないのだけれど、何か誤解をされているような気がする。最悪だ。
「は、母上から離れろっー!!!」
幸村さんの声が屋敷中に響いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「すまなかった。……早とちりして」
今にも私に襲い掛かってきそうな幸村さんを、女の人が事情を話して幸村さんが納得した。のではなく、逆に火に油みたいな感じになってしまい、幸村さんをお父さんに抑えてもらいながらしっかりと説明をして、今となる。
「大丈夫ですよ幸村さん。気にしないで下さい」
「……幸村」
「え?」
自分の名前を言う幸村さんに、私は思わず聞き返してしまった。
「幸村でいい」
言い直してくれたが、発言の意図が分からず、首をかしげる。すると、幸村さんはあ~もう!というように顔を真っ赤にさせながら言った。
「俺の名前。幸村でいい。幸村って呼べ」
そう言った彼の顔は、夕焼けよりも赤くなっている。
そんなに真っ赤にならなくても。
あまりの初々しさが可笑しくて、私は思わずふふっと笑い声を漏らした。
「なっ、なんで笑うんだよ!」
「幸村が真っ赤なところが面白くて」
「!」
「では、私はこれで。じゃあな、幸村」
私は挨拶をして、入口の戸に手をかける。
「なあ!……また会えるか?」
呼び止める声に振り返ると、彼はどこか縋るような、不安げな瞳で私を見つめていた。
「……きっとね」
長い人生なのだから、もう一度は会えるだろう。
幸村の問いかけに答えてから、私は外へ出た。
「またな」
笑顔を見せ、私は扉を閉めた。




