第17話知花と出会えなかったら【勘助】
『ありがとう!皆と会えたのは私の一生の宝ものだよ!』
『またね』
そう言い、知花はここ武田領を去っていった。
どこに行くのかは言わなかった。行ってくれたらよかったのに。
どうせ後の祭りなのにそう思う。
だけど、知花のことだからどこに行くのかはどうせ決まってなかったんだろうし、聞いていたとしても変わらないのだろう。
「行っちゃいましたね……」
そう明らかに気落ちして言うのは、真田家次男真田幸村だ。今日、稽古で戦っているのを見たが、きっと優れた武将になるのだろう。お館様の弟の信繁様や山県昌景、馬場信春などの武勇に優れている武将達も追い越してしまうかもしれない。それくらいの実力だ。
もしも俺が彼と戦ったらボコボコにされるだろう。その未来しか見えない。
「そうですね、また会いたいです」
眉を下げながら、悲しそうに幸村の兄真田信之は言う。彼は、というか彼も?戦術・戦略的手腕が優れていて、政治力もある。人に信頼されやすいだろう。
「また会えるさ。勘助もそう思うだろ?」
お館様は俺に聞く。
「別に、これから先会えなくても問題ないです。騒がしいのが居なくなってせいせいしました」
俺は、ひねくれたことばっかり言ってしまうのに。
「ほら、勘助もまた会えるって言ってるじゃないか」
「は?」
俺の言葉を本当に聞いていたのかと問いたいようなことをお館様は言ってくる。
(知花への視線が優しい)
そうだろうか。
「視線が優しいだけでそうとは限らないと思いますが」
「まあ、そうだが。でも、会えるだろ?」
「……知花のことですから、いつになるかは分からないですけど会えるとは思いますが」
俺の気も知らないで、フラッと来るんだろう。
(素直にならないのは短所だぞ)
その言葉に俺はムッとなる。
「そんなこと分かってますよ。俺だって、好きで素直になってないわけじゃないんです」
そう言うと、お館様は笑って、俺の頭をくしゃくしゃと撫でてくる。
「ったく、お前は変わらないな」
「そんな簡単に人は変わりませんよ」
「それも、そうだな。でも、嬉しいんだよ」
俺がひねくれているのが嬉しいって……。喧嘩売ってんのかな、お館様。
「ちょ、待ってください」
信之が、慌てた様子でストップをかけてくる。
「何?」
「えっとですね、会話がおかしいんですよ」
(お館様が何も言っていないのに、お館様がなにか言った前提で話して、お館様も不思議そうじゃないって、どういう……)
「ああ」
彼の心の声に、納得する。
確かに、この会話おかしい。幸村と信之、俺が心を読む能力を持っていること知らなかったんだっけ。
「丁度いいや」
「え、何がですか?」
彼は困惑したように聞く。
「俺、人の心を読む能力持ってるんだ」
「で、こいつ前世俺の軍師の山本勘助」
お館様が付け足してくる。
「え?どういうこ……」
「え!そうなんですか!?俺、お館様の軍師、どんな人か見てみたかったんです!夢が叶いました!というか、前世ってことは生まれ変わったんですか?だから、知花様みたいに能力を持ってるんですか?」
幸村が、信之の声に被せて言う。
押しが強い。
「え……そう、かも、だけど」
ドン引きしていると、信之が「そのくらいにしときましょうか」と言って、まだ話し続けようとする幸村の口を手で塞いだ。
それに俺はホッとなる。
押しが強い人は苦手。例外は居るけど。
そう頭に思い浮かんだ人物を、俺はあれ?と疑問に思う。
何であの子が?例外って、お館様じゃないか。
頭から追い出そうとしても、全く消えてくれない。
『大丈夫だよ、勘助。信玄様は、勘助を恨むなんてこと絶対しないし、きっと、いや絶対に宴を開きそうなくらい喜んでくれるよ。それに、同じようなことが起きちゃうのか心配するのは時間の無駄よ。そんなこと考えている暇があったらすごい策を沢山作って、どうしたら同じようなことが起きないか考えなさい。貴方なら大丈夫よ、勘助』
「……だよ、やっぱり」
「え?なにか言いましたか?」
信之が聞いてくるけど、俺は「何も」と言って、言わなかったことにする。
認めたくない。
「そろそろ帰ろう」
皆は、不思議そうにしたが黙って俺の後に付いてくる。
真田家の子息と話すなんてありえない筈だった。お館様にもまた会えないままの筈だった。
でも、未来は変わった。
会う機会があったから。勇気を出せたから。
きっかけを作ったのは、全部あの子。
あの子が僕の前に現れなかったら、生まれ変わったときから何も変わらなかった。
また会える。
俺の気も知らないで、彼女はフラッと来る。
俺ばかり心が重いのは不公平だと思うけどけど、それでも良い。
彼女に俺はまだ相応しくなれていないから。
彼女の横に並んでも恥ずかしくないように、彼女と再び会うまで、努力しよう。
もっと、立場を確かなものにして、お館様の軍師として完璧になって、また同じ失敗を起こさないようにして。
あの子に相応しくなる為なら、どれだけ苦しいことでもやり遂げてみせる。それが俺の決意。
「勘助さん、そろそろ僕達は」
信之に声をかけられ、俺はハッとする。どうやら私室に帰るみたいだ。いつの間にか、信之と幸村の部屋の前に来ていたみたいだ。
「うん」
二人はお辞儀をして、部屋の中に入った。俺は、戸が閉まったのを確認した後、足を前に運び歩き出す。
「勘助」
ずっと近くで聞きたかった声で、名前を呼ばれる。
「なんですか?」
「俺の部屋、いいか?」
何か話したいことがあるのだと勘づく。
「分かりました」




