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クラーケンマン  作者: 紙緋 紅紀
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クラーケンマンVSクラーケンマン ザ・ラストマッチ

日本旧首都・夢洲セントラルシティ。

かつて、万博とIRの誘致に失敗しただけじゃなく、地震による液状化現象で、わずか十日足らずの日数で日本の新首都から降ろされ、捨てられた地。

建てられたものの、そのまま、誰にも使われず、放置されている空のオフィスビルが乱立しているゴーストタウンは、隠れられる場所も多く、住人も利用者もいない為、決戦の場所にうってつけだった。

その好立地なおあつらえむきの場所に時東誠人は、久保田和也に向け、SNSであるメッセージを拡散することにより、久保田和也を呼び出すことに成功する。

「久保田、お前が井の中の蛙であることを教えてやる。どっちが真のクラーケンマンか、夢洲セントラルシティでタイマンで決めようじゃないか。お前にその勇気があればの話だが」

時東誠人は、自らの顔を晒して、各種SNSでそうメッセージを残した。

久保田からしてみれば、自分が殺したはずの親友からそのようなメッセージを受け取れば、確認せずには、いられない。

時東誠人は、果たして本当に生きているのか、それとも、ただのディープフェイクか。

そして、何より「井の中の蛙」という言葉……。

それは、二人にしか通じ合えない青春の一ページに多用した言葉――。

「丸太が一人、夢洲ホットライン南口から接近中。どうぞ」

と部下から、無線で連絡が入り、望遠スコープで確認する魔人対策課の本郷。

「女?未成年の女?」

本郷は、眉をひそめる。

「本郷さん、あれ、秋葉原娘の今日本明日香(きょうもと・あすか)っすよ。」

と隣で同じように望遠スコープを覗く部下が言う。

「秋葉原娘?」

「アイドルグループのセンターっす。あの子」

「アイドルが、なんでこんなところに」

本郷は、増々、険しく眉をひそめる。

「違う。あれは、久保田だ」

とイヤフォンで会話を聞いていた魔人対策課のいるオフィスビルより遠くに位置するビルにいる時東誠人が言う。

「間違いないのか?」

無線で本郷が時東に訊く。

「ああ、間違いない。姿は違うが、歩き方が久保田だ」

時東は、そう本郷に伝えると、ビルの6階の窓から跳躍し、今日本明日香の姿をしている者の前に、すでに魔法少女のフェロモンで触手化している右腕で着地した。

「よくわかったな」

今日本明日香の姿をしている者が男の声でそう言うと、今日本明日香の身体は、花が咲くように裂け、中から白衣を着た久保田和也が姿を現した。

すでに背中に24本の触手があり、右腕は12本の触手に、左腕も12本の触手になっていて、異星人のように肌が白く、もはや、人間の姿ではなかった。

「お前が、どんな姿をしていても、見間違えるわけがない。20年来の友達だぞ」

時東は、恐れのない目で化物と化した久保田を見て、言った。

「しかし、井の中の蛙とは、よく考えたな」

「お前が自分より学力の劣る賢い奴をバカにする時に使っていた言葉だからな。格下だと思っている俺から言われたら、効くだろう?こんなことになっちまってから、はじめて、気がついたよ。お前がプライドの(かたまり)だって」

「20年来の親友なのにか?ふん」

久保田は、鼻で笑った。

「どうせ、頭の悪いお前の考えた作戦だ。タイマンだとか言って、どこかに伏兵が潜んでいるんだろ?バカだよ。今の俺は、あの米軍さえ、敵わないのに」

「バカは、お前だ。他人を信用しないから、協力することで得られる力を一生、知ることがない。大学でもそんな感じだったんだろ?自分が一番、賢いです。他人は、バカです。って、面で生きてるから、大学辞める時、誰も引き止めてくれなかったんだ」

「お前が説教するな!この社会不適合者が!」

久保田は、幾つもの触手を叩きつけて、攻撃してきた。

時東は、それを触手で地面を蹴って、身をひるがえし、避ける。

「ふん。フットワークならぬ触手ワークか。スピードなら自分が上ってか?なら、これなら、どうする?」

久保田は、アスファルトの地面を幾本もの触手を使って、大きく何枚にもして、引き剥がし、上に投げ、隕石のように時東に向かって、降り注がせた。

触手ワークによる横移動や前や後ろに逃げても、無駄。久保田の攻撃範囲が広すぎる。

無事、降り注ぐアスファルトを避けても、そこで待っているのは、新たなアスファルトか久保田の触手だ。

詰んだ局面で時東は、平面を捨てた。立体で考え、上に逃げた。

地面から触手で跳躍し、びびゅんと飛んで、自ら、降り注ぐアスファルトに向かっていった。そして、

「らららららぁっ!!」

と12本の触手で連続して殴打を繰り出し、向かってくるアスファルトを砕ききって、空中に出る。

そこで待っていたのは、久保田クラーケンマンだった。

時東の手を先読みした久保田は、幾本もの触手で時東よりも高く跳び、アスファルトを隠れ蓑にして、時東を上空で待ち構えていたのだ。

そうとは知らなかった時東は、もろに上から降り注がれる久保田の触手による打撃を受けてしまう。

オフィスビルのアクリル強化ガラスを突き破り、ビル内部の壁にぶつかり、ようやく止まる時東。

触手で受け身は取ったが、ダメージは、甚大だった。なんせ、触手以外は、生身の人間だ。

また、外につながる突き破ってきたアクリル強化ガラスの方を久保田の触手だらけのでかい身体に塞がれる。

後ろは、壁。前は、久保田クラーケンマンが通せんぼ。

圧迫感のあるこの状況は、いつか見た状況と同じだった。

ただ今と過去と違うのは、今は、守るべき一般人がいない。

時東は、ふーっと息を吐き、触手を久保田に向け、構える。

おっと久保田は、その時東の闘志ある目に虚を突かれるが、視界の端にピンク色が目に入り、即座にそちらに触手を振るう。

魔法少女のピンクのミニスカドレスを着たピクシースパイスを攻撃したつもりであったが、空振りし、触手はピクシースパイスの身体を通り抜けた。

「なっ!?」

と驚きながらも、久保田の頭脳はフル回転。すぐに、それが魔人対策課のルポ・キャスターに記録された立体映像だと気づく。

その間にも久保田は、超長距離狙撃による銃弾の雨をくらっていた。

狙撃したのは、各オフィスビルに忍んだ魔人対策課の面々である。

「冷静に狙い撃て!敵は、イカの魔人と言っても、頭部は、ただの人間と変わらん!脳を損傷すれば、死ぬ!奴の脳を狙い撃て!堂前先輩の仇を討つんだ!」

本郷の指示が魔人対策課全隊員に飛ぶ。

久保田クラーケンマンは、その銃弾の雨をきっちり触手でガードし、頭部を守る。

「この雑魚虫どもがぁああ!!」

怒り狂って、振り返り、魔人対策課に反撃しようとする久保田クラーケンマンを時東は、

「よそ見してんじゃねぇ!」

と触手を使って、タックルをかまし、身体ごと窓の外へと落とす。

落下しながら、久保田クラーケンマンは、触手による受け身の体勢を取ろうとするが、一緒に落下している時東がそれを邪魔する。

それと並行して、またピクシースパイスが視界の端で飛んで近づいて来る。

また、ただの立体映像か?という考えが浮かび、久保田クラーケンマンは、触手による攻撃を一瞬の判断で怠ってしまう。

その間に久保田クラーケンマンの視界に入っているピクシースパイスは、マジカルステッキを振るう。

久保田クラーケンマンは、その時でさえ、ピクシースパイスによるスパイス魔法なら問題ないと油断していた。

が、久保田クラーケンマンがピクシースパイスと思っている者のマジカルステッキから放たれたのは、スパイス魔法などではなく、青い炎だった。

久保田クラーケンマンの持つ触手の半数が、その青い炎で焼かれ、消えてなくなる。

時東誠人は、いつの間にか、久保田クラーケンマンから離れ、オフィスビルの外壁に足をくっつけ、横向きに重力に反して立っていた。

時東誠人は、靴の底をくり抜き、足裏にイカ魔人の吸盤を生やしていた。

(いつの間に、そんな進化を)などと久保田クラーケンマンは、考えている場合ではなかった。

床のように空中に出現した魔法障壁によって、久保田クラーケンマンの落下が止まる。

だからと言って、安心できる状況でもなかった。

すぐに右からも左からも前からも後ろからも上からも魔法障壁が迫って来る。

あっという間に久保田クラーケンマンは、魔法障壁で作ったキューブの中に閉じ込められてしまう。

そして、その魔法障壁のキューブは、力強く徐々に徐々にその大きさを縮めて、迫り、久保田クラーケンマンを圧迫していく。

(このままでは、圧死……!!いや、潰される!!)

生命の危機を感じた久保田クラーケンマンは、触手の数を5倍に増やし、逆に魔法障壁を押し返した。

魔法障壁は、力の押し合いで動きを止めたが、それ以上は、押し返せない。

久保田クラーケンマンは、触手の数をもとの5倍から10倍に増やし、力を振り絞る。

「ふんぬ……っ!!」

魔法障壁のキューブは、触手に中から力いっぱい弾かれ、砕け散る。

魔法障壁から解放された久保田クラーケンマンを待っていたのは、再びの落下。そして、上から降って来た時東クラーケンマンによる蹴りだった。

時東の蹴りは、久保田の頭部に炸裂し、久保田は、そのまま時東に頭部を踏みつけられたまま、地面に落下する。

いつかの意趣返しのようだった。

異常なぐらいに増やした触手がクッションとなり、久保田は、それで絶命しなかった。

それどころか、すぐに時東の両足を幾本もの触手で掴み、地面に繰り返し、叩きつけ、反撃した。

触手の数が違い過ぎて、時東は、反撃らしい反撃もできずに、されるがままだった。

「もう、わかったぞ!貴様らのマジックのタネが!青い炎は、灼熱の魔法少女ピクシーブルーファイアの能力、強力な魔法障壁の力は、無慈悲の魔法少女ピクシーブロックの能力、そして、わざと最弱の魔法少女ピクシースパイスの姿に見せたり、他の魔法少女の姿を見えなくしてるのは、幻影の魔法少女ピクシーミラージュの能力だな!大魔人会との決戦のダメージから回復した魔法少女達が、この戦いに参戦してるんだろ?なぁ、そうだろ?お前らの手は、もう、わかったぞ!やはり、米軍より先に倒すべきは、魔法少女だったようだな!いいぞ!やってやるよ!お前ら、魔法少女と戦争をな!」

久保田クラーケンマンは、姿を隠した魔法少女達に向け、空を見上げ、吠える。

その間にボロボロになるほどのダメージを受けた時東が久保田クラーケンマンに標準を合わせる。

もはや、姿を見せない魔法少女達ばかりに気が向いて、時東のことなど眼中になかった久保田クラーケンマンは、油断していた。

久保田は、視界を奪われ、目の前が真っ暗になり、吹き飛ばされる。

「なんだ!?いったい、俺に何をした!?時東、お前か!?お前が何か、したのか!?」

わけのわからない久保田クラーケンマンは、幾本もの触手を振り回し、のたうちまわった。

「二人のクラーケンマン。お前にできなくて、俺にできること、な〜んだ?」

時東は、いきなり久保田に向け、クイズを始めた。

「正解は、イカ墨弾」

時東は、久保田に再び、標準を合わせた。

「これ、思ったより、強力過ぎてよお。人に使う時、うっかり、殺さないようにって、ものすごく気ぃ使うんだわ。でも、お前には、手加減なんてする必要ないわな?」

時東は、久保田に向け、イカ墨弾を連射して、浴びせた。

久保田は、水圧ならぬイカ墨圧によって、吹き飛ばされ、弥馬田グフ子の仕掛けたクラーケンマンほいほい(透明な強粘着なネット)に着地した。

「なんだ!?何をした!?身動きが取れないぞ!?何も見えない!見えないぞ!」

あれほど無敵に見えたヴィラン久保田クラーケンマンもこうなるとただのまぬけにしか見えない。

時東誠人は、柊 香子との約束通り、久保田和也の無力化に成功した。が、彼は、それで満足しなかった。

久保田和也からクラーケンマンの部分を完全に取り除いてやる。それこそが真の久保田和也の無力化だと思っていた。

時東誠人は、触手を使った跳躍で自ら、クラーケンマンほいほいに飛び込み、久保田の身体に着地した。

「なんのつもりだ?」

視界がいまだクリアにならない久保田は、触感で時東の存在を感じる。

「今から、お前のイカ魔人化している部分を全て喰う」

「はぁ!?」

久保田は、時東のとんでも発言に度肝を抜かれる。

「お前が人を食ったと聞いた時から、ずっと考えてた。お前にできるなら、俺もこの触手についてる2つ目の口で人が食えるのか、って。俺は、人なんか食いたかないけど、お前を人間に戻す為なら、食える。俺がお前のイカ魔人化しているところを全部、食えば、チェーンソーで触手化した右腕を切った後の俺のように、お前は、人間に戻れるんじゃないか?」

「バカか、お前は。俺のイカ魔人化してない身体の部分なんて、もう、ほとんど、残っちゃいない。もしも、人間に戻れなかったら、生きてたとしても、残った身体の部分じゃ、俺は、まともな生活が送れず、生き地獄を味わうことになる」

そんなのは、ごめんだと久保田は、ヴィランらしくない弱った声を出す。

「勘違いしないでくれ」

と時東――。

「俺は、何も久保田、お前の為にこんなことをやろうって、言ってるんじゃない。俺が、ただ単にお前に化物のまま、死んでほしくないだけだ。言うなれば、これは、俺のエゴだ。正義の心なんかじゃないし、ましてや、友情なんかじゃない。俺の人生の自己満足だ。俺の思い出の中だけでも、ずっと人間でいてくれ、友よ」

時東は、そう言って、久保田の触手から食い始める。

「狂ってやがる。やっぱ、お前、最高に狂ってるぜ、時東。でも、お前が本当にそんなサイコパスで良かったぜ」

久保田は、そう言って、幾本もの触手のうち、まだ強粘着ネットに付いてない触手を使って、時東の身体にぶすりと何かを刺した。

麻酔剤入りの注射器だった。

「お前みたいなバカでも、イカ墨弾っていう隠し玉を用意してくるのに、俺がクラーケンマン対策に何も用意してこなかったと思うか?」

久保田のその声を聞き、時東は、ゆっくりと眠りに落ちる。

「でも、イカ魔人の細胞を食うというのは、いいアイデアだよ。俺は、人間を何体か、食うだけで、ここまで強くなった。お前を食って、イカ魔人の細胞をさらに取り入れたら、どれだけ強くなるんだろうな、時東。それこそ、こんなわけのわからんネット如き、紙細工のように簡単に引きちぎれるんじゃないか?」

そう言うと、久保田の腹が裂け、サメのような牙を持つ大きな口が出現した。

時東は、久保田のその腹部の大きな口に身体を丸々、飲み込まれた。



その様子を遠くのビルの屋上から見ていた柊 香子は、そっと魔法少女ピクシースパイスの背中に手を置いた。

「もう、終わりだ。ピクシースパイス。マジカル テラ・アトミック ビッグバンを発動させよう」

「やめてください、主任。そんなことをすれば、彼まで死んでしまいます」

「ピクシー。時東誠人は、もう久保田和也に食われた」

「でも、まだ、ひょっとしたら、奴の体内で生きてるかもしれないじゃないですか!」

「ピクシー。正直に言おう。時東誠人は、この作戦が成功しようが、失敗しようが、元々、殺処分することが決まっていた」

「そんな……、主任、嘘をついたんですか?」

「ピクシー。大人になれ。魔人と魔法少女は、最初(ハナ)から、相容れない存在だ」

「でも、彼は、私の命の恩人なんです。彼は、魔人でもヒーローなんですよ」

そう言って、ピクシースパイスは、振り返ろうとしたが、それが、何故か、できなかった。

「え?何、これ?」

「ピクシースパイス。私がかつて、無敵の魔法少女と言われていたのは、知っているな。どんな魔法能力を持っていたかも、知っているな」

「主任、まさか」

「通常、魔法少女は、18歳を過ぎたら、その魔法能力を失う。が、私には、まだ魔法少女だった時の力が、少し残っていてな。こうやって、背中に触れている時だけ、発動できるんだ」

「主任、やめてください」

「強制魔法、思考ジャック。発動」

柊 香子が、そう唱えると、ピクシースパイスから黒目と意識が消えた。それでも、彼女は、倒れずに立っている。

柊 香子が、強制魔法の力で立たせているのだ。

柊 香子は、ピクシースパイスの背中に当てている方じゃない方の手でピンマイクを掴み、話しかける。

「皆、準備は、いいか?ピクシースパイスの問題は、片がついた。マジカル テラ・アトミック ビッグバンを発動しろ」

その命令を全ての魔法少女は、聞き入れた。

マジカル テラ・アトミック ビッグバン。全ての魔法少女の魔力を込めることで発動するその魔法少女最上級魔法は、久保田クラーケンマンを含む久保田クラーケンマンから半径一キロのものをまばゆい閃光で包み込み、消し飛ばした。

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