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クラーケンマン  作者: 紙緋 紅紀
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爆誕クラーケンマン!!

地球ではない地球。

私達が生きている世界ではない別パターンの地球。

パラレルワールドのどこかにあるかもしれない地球。

いや、きっとある地球の少し変な日本での話。


北大阪府シティ。人口3000万都市の浪速の地で新たなヒーローが今、生まれようとしていた。

しかし、本人は、そんなことなどつゆ知らず、深夜の健康食が売りの環境的かつ意識高い系のコンビニで、空いた腹を満たす為、うろうろと往復を繰り返し、手持ちの金と応相談しながら、ああでもないこうでもないと選別、却下、採用の指揮をし、資本主義経済を相手に奮戦していた。


彼、時東誠人ときとう・まことは、かつて、世界の危機を救ったヒーローである、と自分のことを思っている。

かつての彼には、悪魔が憑いていた。その悪魔に願えば、スリーポイントシュートを入れるなどの小さな願いは、簡単に叶えることができた。テストで全教科で百点をとることもできたし、走れば、かならず一位をとることもできた。

こどもにとって、悪魔は、とても都合の良いイマジナリーフレンドだった。

だが、悪魔は、最初の契約の時に願いを幾つでも叶える替わりに交換条件を出していた。

二十歳になったら、悪魔に身体を明け渡し、人類全てを虐殺し、世界を征服すること。それが悪魔が提示した交換条件だった。

こどもの頭では理解できなかったが、成長すると共にその意味を理解し始めた時東誠人は、震え上がった。

身体を明け渡すとは、つまり、死ね もしくは、自己を失え という意味ではないかと――。

成人を迎える前、その悪魔との約束を守りたくなくなった時東誠人は、夢に出てきた死神に自らの寿命の延長をお願いし、成人になった日には、自らの名を命名した神社に出向き、いにしえの神々に自らの精神の保護をお願いした。

悪魔に死神に古の神々にと時東誠人は、何重にも契約を取り交わし、魂の多重債務者になることで最初の悪魔との契約を無効化した。

そのかわり、彼は、いにしえの神々との約束を守り、普通の人生を送らなくてはならない。

悪魔との契約が無効化され、願いを叶える力を失った時東誠人には、人として生きていくうえでの才能が何もなかった。

主に社会適応能力、コミュ力が彼には、なかった。

結果、自らの精神と寿命を守る為、普通の人生を選んだ時東誠人は、普通に親の経済力に頼って一人暮らしをするクズニートとなった。それでも、彼は、自らが悪魔に身体を明け渡さなかったから、今の人々の平和は、保たれているのだ。と一人で世界を救ったヒーローのつもりでいる。


時東誠人は、結局、コンビニで8個入りのたまごのパックと缶に入った焼酎のソーダ割りを3本、購入した。

たまごは、あとでゆで卵にするか味付け卵にするかして、酒のアテにするつもりだ。

いつの間にか、目的が腹を満たすことではなく、酔うことにシフトチェンジしている。

彼は、とにかく酔いたかった。嫌なことが多すぎる。普通の人生は、彼には、あまり、魅力的ではなかった。

だから、彼の人生は、ここで大きくチェンジする。

普通の人生に不満を抱く彼に神が与えた大きな罰である。

コンビニから自宅へと帰宅の途中、彼は、いつものように王手町公園の中に入って行く。彼、時東誠人の自宅の安アパートのある天六地区に行くには、そこを突っ切るのが、一番の近道なのだ。

しかし、今日だけ、何故だか、そこには、工事をしている訳でもないのに、赤コーンやフェンスなどの障害物があり、立入禁止の看板が設置されていた。

時東誠人は、来た時と同様に帰る時もそれを普通に無視し、赤コーンやフェンスをどかして、王手町公園の中に入っていった。なにくわぬ顔で。

彼は、気づいていなかった。本来ならそこにいるはずの住人のホームレスの姿が一人もないことを――。それどころか、その付近一帯に人の姿がまるでないことも深夜だから、当たり前だと思っていた。コンビニすらもセルフレジで済ませ、自動ドアも閉まっていたが、店内の電気が点いていたいたので、勝手にこじ開け、自分の都合である買い物を強行した彼には、常識がまるでなく、日常と非日常を区別する頭は、備わっていなかった。

「オホホホ。組織を壊滅させた魔法少女もたった一人では、魔人一匹すら倒せないようね〜。ピクシースパイス」

「黙れ。イカゲソ野郎。私は、負けない!正義は、かならず、最後には、勝つ!私の本領発揮は、これからだ!」

王手町公園に入った時東誠人の目の前では、魔法少女ピクシースパイスとクラーケン大魔人ラブリーとの戦いという非日常が繰り広げられていた。

そういえば、と時東誠人は、朝のニュースで、悪の組織の大魔人会の最後の生き残りで組織の最高幹部だったクラーケン大魔人ラブリーと正義のヒーローである魔法少女ピクシースパイスとの決闘が王手町公園で本日の深夜に行われる為、付近の住人に向け、避難勧告が出ていたのをここでようやく思い出す。

彼は、よっこらせとベンチに腰を下ろし、そのまま王手町公園内で行われる戦いを酒のアテにしようと缶焼酎ソーダ割りのタブをプシュッと開け、本当にぐびぐびと飲み始めてしまう。

大魔人という悪のモンスターと魔法少女という正義のヒーローが現れたのは、ちょうど彼が悪魔との契約を無効化した時期に重なる。

彼は、それを物語が変わったと解釈している。

物語のメインイベンターである自分が舞台から降りたから、神が魔法少女を主役とする物語へと世界を書き変えたのだと――。

彼にとって、目の前で行われている今の世界の命運を賭けた戦いは、ただの自分の物語の壮大な後日談でしかない。

壮大なだけのただの暇つぶし。残りの人生の消化試合。

彼が見る限り、どうやら、この戦いは、魔法少女ピクシースパイスの劣勢らしかった。

彼女の方があきらかに傷だらけなのに対し、クラーケン大魔人の方は、無傷でピンピンクネクネとしている。

それには、はっきりとした理由があった。

クラーケン大魔人ラブリーの身長は、およそ6メートルあり、彼には、人間の男性の二本の足と二本の腕以外に大王イカのような吸盤の付いた触手が12本あった。その化物そのものの肉体から繰り出される打撃は、強力無比である。

一方、魔法少女ピクシースパイスは、身長165cmで得意とする魔法は、魔法ステッキから出るビームに触れたものを麻痺させシビレさせるスパイス魔法。

だが、クラーケン大魔人には、ありとあらゆる毒物の耐性があり、スパイス魔法は、無効化され、まるで効かない。

ので、ピクシースパイスは、魔法ステッキによる打撃ぐらいしか有効な攻撃手段がない。

しかし、果たして、身長6メートルの化物に身長165cmの少女の打撃が本当に有効か?

答えは、明白。クラーケン大魔人には、ピクシースパイスの攻撃のすべてが赤子のパンチのようなものだった。

救援は、望めない。

他の魔法少女15名は、辛くも勝利した大魔人会の首領ドボスとの最終決戦で深手を負っており、戦える状態ではない。

それを見越してクラーケン大魔人ラブリーは、魔法少女ピクシースパイスとの一対一の勝負を要求した。断れば、一般市民を殺しまわると脅迫したうえで。

ピクシースパイスは、全魔法少女の中で最弱の魔法少女である。しかし、ここで彼女がラブリーに負ければ、他の戦えない状態の魔法少女もラブリーの手によって殺され、魔法少女は全滅してしまうのは、あきらかだった。

世界の命運と他の魔法少女の生命の行く末が、たった一人の17歳の少女ピクシースパイスの両肩にかかっていた。

が、

「ぐはぁっ!!」

ピクシースパイスは、クラーケン大魔人の触手に両足を掴まれ、木や地面、電灯に叩きつけられる。基本的な魔法の一つである魔法障壁でガードするが、衝撃ダメージが魔法障壁の許容範囲を越え、砕け散る。

オモチャのようにクラーケン大魔人に弄ばれたあげくにボロ雑巾のように投げ捨てられる。

その様子を時東誠人は、ただ見て、ぐびぐびやっていた。

もうそろそろ終いか、と時東誠人が思った時、

「おっ」

ピクシースパイスは、血だらけの身体で立ち上がる。

さっすが、正義の味方。時東誠人は、心の中で拍手した。

クラーケン大魔人ラブリーは、余裕満面の悪辣な笑みを浮かべ、食虫植物のようでいて、壺のような形でもある頭部にある二つ目の口からラケットを取り出し、ラグビーボール程の大きさの卵を出産する。

「あ〜たには、これから、わ〜たしの新しい技の実験台になってもらうわよ〜。ピクシースパイス。オホホホ」

クラーケン大魔人ラブリーは、ラグビーボール程の大きさの卵を天高く放り投げ、

「いくわよ〜!」と言って、

落ちてきたラグビーボール程の大きさの卵をラケットで打ち込んだ。

ラグビーボール程の卵は、ミサイルのような速さでピクシースパイスへ向かって飛んでいき、魔法障壁を砕き、彼女の腹部に炸裂する。

「ぐっはぁ!!」

ラグビーボール程の大きさの卵の殻のコンクリートのような硬さにピクシースパイスは、白目を剥き、意識が飛びそうになるが、それをなんとかこらえた。が、片膝が地面から離れず、油汗が滲み出て、身体が震え、もう一度、立ち上がることが出来ない。

「もういっちょ、いくわよ〜!」

クラーケン大魔人ラブリーは、すばやく頭から産卵し、ラケットで打ち込み、再び、同じ大きさで同じ硬さの卵をピクシースパイスに飛ばして来た。

「何度もそんなもの受けるか!」

ピクシースパイスは、魔法ステッキを振り下ろし、打撃でそれを砕いたが、

「引っかかったわね〜」

それは、ラブリーの術中のうちだった。

魔法ステッキは、コンクリートのような硬さの卵の殻を打ち砕いた衝撃でぶち折れ、卵白がピクシースパイスの全身を包み込み、白濁まみれにし、その粘着性で彼女を身動き一つとれなくした。

「詰んだわね〜。ピクシースパイス」

クラーケン大魔人ラブリーは、うねうねとした動きでピクシースパイスに近づいて行こうとするが、後ろから何かに引っ張られ、進めなくなる。

「?」

クラーケン大魔人が振り向くと彼の触手のうち2本が、いつの間にかジャングルジムに括りつけられていた。

「テメーの卵の殻が飛んできて、俺の買った卵が潰れちゃったじゃねぇか」

触手をジャングルジムに括りつけた犯人は、時東誠人である。

しかし、ラブリーの目から時東誠人を視認することは、できない。

ラブリーが右から振り向けば、左に逃げ、左から振り向けば、右に逃げ、時東誠人は、ラブリーの視界に上手く入らないようにしていた。しかも、その視界から逃げる際に触手をさらに2本ずつジャングルジムに括りつけていた。

それを繰り返すうちにラブリーの自由に動かせる触手は、いつの間にか残り2本になっていた。

何故、時東誠人にそんなことができるのか?

時東誠人は、悪魔との契約を無効化した際に願いを叶える能力を失ったが、能力を失う以前に願いで底上げした運動能力は、そのまま保持していた。

彼は、この人よりも素早く動ける能力のことを「魔導ステップ」と呼んでいる。

時東誠人は、ラブリーの残った触手2本を使ってグルグル巻きの要領でラブリーの首とエラを圧迫して絞め上げた。

クラーケン大魔人は、陸上に適応する為、肺呼吸である。

クラーケン大魔人ラブリーは、人間の男性部分の腕と手を使って抵抗するも、抵抗むなしく、あっという間に窒息して気を失った。

ラブリーが気を失っている間に時東誠人は、ラブリーの触手を全て腕力で引きちぎった。

彼は、この人よりパワフルな力のことを「魔導パワー」と呼んでいる。

最後に時東誠人は、クラーケン大魔人ラブリーの頭部を首から引っこ抜いた。

「はい。これで死んだはず、っと」

大苦戦していた、いや、自分を圧倒し、蹂躙していた怪物をあっという間に倒したおっさんを見て、魔法少女ピクシースパイスは、呆然としていた。

時東誠人は、そんな彼女に近づき、彼女の股下に手を伸ばした。

そして、ラグビーボール程の大きさの卵を拾いあげ、

「これ、貰っていい?」

とピクシースパイスに訊いた。

「え?」

「いや、俺の買った卵、割れちゃったから」

時東誠人は、そう言って、ポリ袋に入った8個入り卵のパックをピクシースパイスに見せた。

確かにパックは、潰れた卵の殻から黄色が飛び出し、ぐしゃぐしゃのグチャグチャになっていた。

魔法少女ピクシースパイスは、

「どうぞ」

となんとか整備不良の頭を動かし、答えた。

時東誠人は、そう言われて、礼も言わずにクラーケン大魔人の産卵した卵を手にその場から去り、自宅へ直帰した。

かくして、世界のバランスは、保たれた。

が、彼は、物語に関与してしまった。

普通の人生を送るという神との契約に違反した。

ので、深夜、クラーケン大魔人の卵を普通にオムレツにして食った彼に翌朝、天罰が下る。

起床して、姿見かがみを前にして時東誠人は、呆然とする。

右腕がイカの12本の大きな触手になっている。

「これって、ヤバくね?」

クラーケンマン、爆誕である。

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