人類の敵
注意)本作は五年程前までに書き終えたものであり、実際の事件や事象とは無関係です。
狭苦しい部屋に警告音のようなサイレンが響き渡る。室内には白衣を身にまとう研究者らしき者たちが慌ただしく動き回っていた。
「こちら突入班! 管理棟前はオートマタで溢れています!」
「分かってる! ハッキングが追いつかない! 待機をお願いします!」
何かの作戦中らしい。慌ただしさは全て順調ではない現状を物語っている。研究者的な彼らはどう見ても劣勢だった。
「ブレインからのアクセスを確認しました! 第一防壁、突破されています!」
「撤収を急いでください! 回収班はルート確保! 偽装信号を発信して!」
甲高い女性の声が轟く室内。彼女たちは窮地にあり、何者かに攻め込まれたという状況であるかのよう。
「ブレインの介入、止まりません! 駄目です! 全ての防壁が突破されました!」
「突入班、撤収願います! 作戦は失敗です! 応答してください!」
女性が声を荒らげるも応答はなかった。ただ虚しく室内に響くだけだ。
彼女らは敵対勢力に押されている。撤退すらままならぬ状況は完全敗北を意味していた。
「突入班からの応答ありません! 予定ルートの隔壁が閉鎖されていきます!」
「諦めないで! 予備回線を接続! 支援を急いで!!」
指令を出す女性は抗い続けている。しかしながら、状況は好転しない。全ての行動が空回りであり、何の意味も持たなかった。
「突入班の信号ロスト! 回収班も包囲されています!」
もう指示は飛ばなかった。彼女はやり尽くしたのだ。残す命令はただ一つ。だが、それには多大なる精神力を要した。
「全回線切断……。痕跡の除去作業を――――」
とても小さな声だ。けれど、部屋にいる全員が頷いていた。
作戦が失敗したことは彼女のか細い声を聞くだけで明らかとなっている。絶望すら感じさせる震えた声は、失ったものがどれだけ大きかったかを如実に表していた。
あれほどに騒々しかった室内は物音一つなくなっている……。