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三題噺もどき

授業中

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくにじゅうよん。


※怪談という程怪談ではないかもしれない…※

 お題:教壇・抱え込む・黒髪



「った!!」

 ガタン!!

 という音と共に、膝を思いきり机にぶつけた。

 幸い誰の耳にもその音と悲鳴は聞こえなかったようで、淡々と授業は進められている。

 席が後ろなのをいいことに居眠りをするのが癖になっているな…。

 しかも、自分の周囲に座る人間が、やたら座高が高いので、それも居眠りを助長している。

 教壇に立つ教師の目をいい感じにかいくぐれる、これはもう寝なさいと言っているようなものだろう。

「……、」

 手であごを支えていたわけでもなく、完全に机に伏して寝ていたので、バレたら一発K.O.の姿勢である。

 バレさえしなければ快適な睡眠姿勢ではある…が腕が痺れるのだけは何とかしてほしい。

「……、」

 ゆっくりと頭を起こしながら、上体も起こしていく。

 机の上には下敷きにされていた教材と、ノートが広げられている。

 しかし、その他筆記用具類はご丁寧に筆箱の中に片付けられている。

 これ…始まった瞬間に寝に入ってないか…ノート類広げるだけ広げて、満足して睡眠姿勢に入ったな。

 そんなに睡眠不足だったか…?

「……、」

 ふと、黒板の上に置かれている時計に目をやる。

 ん、これは睡眠不足というより、時間と教科の問題だな。

 昼休み明けの一番眠い時間に、一番嫌いな教科をしているのが良くない。

 弁当を食べて腹が満たされていて、日が当たって程よい暖かさになって。

 教壇に立つ、あの教師の声もよくない、眠くなる。

 ―これは寝ても仕方がない。

「……、」

 時間を見た限り、授業の残り時間はあまりなさそうだが、一応ペンは持っておこう。

 シャーペンと、消しゴムと、蛍光ペンと、定規に替え芯などなど、必要なものから不必要なものまで入っている筆箱。

 ガチャガチャと中身がぶつかり合って五月蠅いが、その中からシャーペンを取り出す。

 消しゴムも取り出そうと、探るが、かなり奥に入れてしまったのか取り出しずらい。

 ゴムが手に触れ、それを摘まみだす。

「…?」

 ズル―

 という音が聞こえたような気がした。

 消しゴムに、なぜか、黒い糸のようなものが絡まっている。

 まだその先は、筆箱の中に続いている。

「……ナニコレ…?」

 小声で、なぜか気持ち片言で、疑問が口から洩れる。

 これは、絡まっているというよりは、巻かれているという方がちょうどいい。

 なんだかよくわからないが、見た目も悪いし気持ち悪いので、その糸を取り外した。

「……、」

 糸―にしては少々堅い気がする。

 黒い、これは糸というよりは髪の毛―の感触に近い気がする。

 正確に髪の毛かどうかは分からないし、糸なのかもしれないが…やはり黒い髪の毛と言われた方がしっくりくる。

「……、」

 しかし、仮にこれが髪の毛だったとして―だ。

 私はそこまで長くはないし、そもそもこんなにきれいな黒髪ではない。

 家の人間も基本髪は短いし、長いのは1人いるが、あれは生まれつき色素が薄いので茶髪である。

 ここまできれいな黒髪を探せという方が難しい気がするくらい長い。

 そのうえ、この一本だけでもかなりの手間暇をかけているのだろうと思われるぐらいに美しい髪質のように思える、それくらい美しい。

「……?」

 というか、筆箱の中で絡まっていた理由が分からない。

 その上、なぜ私はこんな気味の悪いものに対して、美しいだなんて感想を抱いているのか。

 自分でもよく分からないのだが、なぜか、この黒髪の持ち主を知っていて、その後ろ姿が―その美しい黒髪が風に流される姿が、容易に想像できた。

「……ぁ…」

 そういえば、知り合い―この教室にいた―はず。

 というか、目の前、に、座っている。

 我が校は、髪が肩につくぐらいの長さであれば、髪を結びなさいという校則があるため、普段は一つにまとめているが。

 その黒髪は、上の方でまとめられているが、ほどけば丁度、これくらいの長さになりそうな、美しい黒髪。

「……、」

 しかし、それが、なぜこんなところに、あるのか全く分からない。

 わざとやらない限りこうなることはない。

 ご丁寧に、髪を抜いて、消しゴムにぐるぐると巻き付けたとしか

「―――」

 混乱しているさなか、その目の前に座る彼女の名前が呼ばれた。

 どうやら、指名されたようだ。

 目の前の現状に我を失っていたが、今は授業中である。

 こちらの混乱など素知らぬように、スーッと静かに席を立ち、教壇へと歩いていく。

 サラリと揺れる黒髪は、やはり、これと同じようなものに思えた。

「……」

 教壇に立ち、さらさらと回答を記していく。

 チョークが黒板を叩く音と共に、美しい文字が並んでいく。

 すべて書き終えたのか、カタ―とチョークを置き、こちらへと戻ってくる。

「……」

 もちろん、彼女の回答を皆が見ていたからすべての視線が彼女に注がれている。

 私ももちろん、その一挙手一投足を見ていた。

 だから、目が合うのは仕方がない。

 それは当たり前であって、必然であって、偶然ではない。


 しかし、彼女の、眼球はそこには、存在しなかった。


「???」

 そこには、真黒な空洞が広がっているだけ。

 しかし、目が合ったという感覚だけはある。

 明らかに、異常事態なのに、誰一人として、騒がない。

 私以外には見えていないのか?

 そもそも目が合っていないのか?

 彼女が意図して、私を見ているのか?

「??

 あまりの異様さと、底知れぬ恐怖に襲われ、思わず目を反らす形で、頭を抱え込む。

 何が起こっているのか、全く分からない。

 なぜ、目の前の、彼女の、あれは、ない、単なる見間違え?

 まだ寝ぼけているのか?

「?

 頭を抱えたままの私の前に。

 彼女が立つ。

 なぜーと思うも、それは彼女が目の前の席に座っているからであって。

「…??

 早く座ればいいものの、動こうとしない。

「?

 何を思ったか、ス―と視線を上げてしまう。

 その先で、彼女は二コリと、可愛らしく微笑んでいた。


「った!!」

 ガタン!

 音と共に、膝をぶつける。

 幸い誰の耳にも入っていないようだ。

 気づけば授業は、とうに終わりの時間を迎えつつあった。

「ん?」

 うつぶせに寝て、枕と化していた腕の先。

 手のひらの中に、なぜか、消しゴムと、黒い糸が、握られていた。


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