第3話 ????との対話 その3
えー、明日の投稿にしようと思ってましたが、やっぱり切りのいいところまでは投稿しておいた方がいいな、と思いましたので投下します。
このだらだらした、オチのない漫談みたいな「目の前の謎の存在」との会話の中で、ようやっと何かそれらしい単語が出てきた。
だいたい、こいつは俺が話を脱線させるから話が進まない、などと供述しているが、結構こいつも脱線させとるがな。
「リクルーターって聞こえましたけど、リクルート活動する後輩を会社案内する人なんですか?」
「まあそうゆうことだね。うちの世界来ない?的な」
「それは一体どのような存在でどのように決まるので?」
「さてねえ?私も気が付けばここでこうやって君と話してるけど、何でなのかねえ。私が聞きたいくらいだよ。何というか謎。一応私の所属する世界で偉い立場みたいな感じなのかな?」
「王様とか皇帝とか?」
「そんな感じなのかもね。ちょっと前に言ったと思うけど、多分私、魂だけここに来てるから、現実の私のいる世界の自分のことがかなり曖昧なんだよ。魂そのものには性別ないし、生けとし生けるものの原動力ってだけだから。そうだなー、本来君しかいないこの場所に、君に対して何らかの案内をする存在が必要になったから私の魂だけ呼ばれて床に疑似的な生命としての活動をさせている?みたいな。」
「何それこわい」
「私はけっこう気に入ってるよこれ。君とずっとこうしていてもいいくらいだね」
このリクルーターが女性なら、非常にグッとくるセリフなんだが。
相変わらず外見ペ〇シ〇ンでのっぺりんちょとしている。
「リアルエンタメが楽しめるから気に入ったって感じですか?」
「これは凄いよ。アカシックレコードあらゆる世界のあらゆる記録が集まってるからね。多分続きが気になるあの話のまだ見ぬ続きが体験出来たりするわけで。君と会話してそれに触れればそれがわかるわけだよ。H〇N〇E〇×〇U〇T〇Rとかね」
「いやそれはいいですわ。流石に待ち疲れましたし」
「そうかそれは残念。でもさっきの伊藤智仁は良かったよー。」
「楽しんで頂けて何よりです。ところであなたとこうやって随分長いこと話してるんですけど、何とお呼びすれば良いのやら」
「役割はリクルーターだけど、私の世界で私は・・・ポリッシュかトリッシュか、○○ッシュと呼ばれてたと思うよ」
「じゃあパリッシュで」
「君は本当にヤクル〇ス〇ローズが好きだったんだね」
「そうですね。万年弱小球団でしたが、若手にのびのびやらせ実力を蓄え、名将ノムで3年計画で優勝。その後ノムの弟子のアツヤが球界を代表する捕手となり、マナカやドバシ、いぶし銀が脇を固め・・・ロマンしかありませんでしたよ。弱小時代に周りの強靭ファンにバカにされた日々があったからこそ、黄金時代はより輝いて見えました」
「ああ、君のおかげで私もヤ〇ルトスワ〇ーズが大好きになったよ」
「今度見にいきましょうよ」
「いやそれは無理だから」
ちぇーけち草けち草
「何度も言うけど私にそこまでの力はないよ。私はリクルーターだからね。うちの会社こんなとこだけどどう?で、いざ入社となったら多少の便宜は図れるかも?くらいな役割だよ」
「なるほどパリッシュさん、じゃあパリッシュさんの世界の良いところはどんなところなんですか?レッツ、プレゼンテーッション、フォー、ミーィ。」
「何だね突然。君そう言えば新卒時期売り手市場だった最後の世代だね。リクルーターにそんな態度取るなんて君ら以降の学生からすると考えらんないと思うよ?君ら以降に生まれた人からしたら殺意の対象だよ。
まあ世界説明が私の役割だから言うけれども。
まず私のいる世界はだね、君らの認識で言ういわゆる中世風の剣と魔法の世界さ。血沸き肉躍る冒険の日々。どうだい、ワクワクして来ないかい?これから蒸気機関の黎明期。文明開化の音がするまさに直前。さあ、是非おいでよわが世界へ!」
当たり前だが、実にうさん臭い。
「パリッシュさん、うさん臭いっす。何なんでしょうね、この超越的存在との対話の胡散臭さって」
「そうだねえ。胡散臭い立場の私が言うのもなんだけど、何か色々教えてはくれるんだけどそんな大して選択肢があるわけじゃないっていうか、何だかんだ言って目の前の存在に従わなきゃいかないっつーか、そんな感じだからじゃないかな?」
そうだなあ。結局色んな世界に行けますよー的に言われても超越者の提示した選択肢から選ばにゃならん訳で。騙されたとしてもコッチはどうしようもないからなあ。まあパリッシュは超越者じゃなくて同じ魂で単なるリクルーターって言ってるけど、コッチにしてみれば大してやってることは変わらん訳だし。
「パリッシュさん、ちなみにパリッシュさんが提示する選択肢ってどの程度あるんですか?パリッシュさんのいる世界に行くっての以外だと」
「えーっとね、リクルーターの私のいる世界に来る、元居た世界に戻る、このまま何もせずにいる、の3本です」
「来週のサ〇エさんですか」
「んがふっふ時代を知る者も少なくなったね」
「いや死んだみたいに言ってるけど、んがふっふ時代を知ってる人も大勢いますよ。あんまりサ〇エさんを話題にしない年齢に皆なったってだけで」
サラッと元居た世界に戻るって言ったぞ?
最初に生き返れないて言ってたのに矛盾してないか?
是が非でも戻りたいと思ってる訳じゃないけど、スッパリ諦めるほど未練がない、訳じゃない。
一応、妻のことは心配だ。
何で一応かというと俺より妻の方がしっかりしてるからだ。
俺なんかが居なくなってもあいつはしっかり生きて行けるだろう。
でもなあ、俺なんかが居なくても大丈夫なんだろうけど、やっぱり心配にはなるんだよなあ。
相談相手は結構いるだろうけど、それでも黙ってただただ話を聞くだけの唐変木はいた方がいいと思う。
妻はしっかりしているから自分の中である程度方向性は決まっているのだ。でもそれを誰かに話すことで自分自身の中で整理しているのだ。
そういう時に余計なアドバイスはしない方がいい。ただ黙って聞いて、最後に決断を後押ししてあげればいいのだ。
長年連れ添った夫婦はそんなもんだろうと思う。
もう今更直接えっちっちなことはしない。ここ数年もう俺の元気がなくてしてない。でも抱き締めると安心するようだ。そうなのだ。誰かの温もりに包まれたい時は誰だってあるのだ。
しっかり者の妻でも、そういう時はあるのだ。
「パリッシュさん、元の世界に戻れるなら、俺は戻りたいんですが、戻していただけませんか」
「そっか。それも一つの選択肢だから、君がそれを選ぶなら私がどうこう言うことじゃない。ただねえ、君の魂は君のいた世界の君の死んだ直後に戻ることはできるよ。ただ、君の体に戻ることはできない」
「何でですか!自分の体に戻って、何とか生存させる、それくらいいいじゃないですか!」
「君の体に君が戻ったら、君の生命反応を多少戻して、現地の治療に任せる、くらいのことなら確かにできそうな感じはあるよ。でもそれはできない」
「何でなんですか!期待だけ持たせて裏切られて絶望する様を見たいんですか!そんなのひどすぎる!」
「・・・それはだね。長さ30㎝幅14㎝高さ14㎝の直方体。主成分が鉄。重さ15kgの隕石が音速を超える速度でね。」
「はいはいそれがどうしたってんですか」
「君の後頭部に70°の角度で直撃。隕石はそのまま河川敷に衝突、半径7mのクレーターが河川敷に。君の体は木端微塵。バラバラに河川敷の土や泥とミックスされ吹っ飛んじまってる。ミンチよりひでえやの状態。」
「・・・ミンチより?」
「そう。ミンチより。かろうじて右足首から下が原型を留めてたくらい。あ、手指も。」
「・・・・・」
「そんな訳でね、君のあの世界での肉体はもうないんだ。だから君の体には戻れない」
それだけの隕石直撃だったら、体の一部が残っただけでも良しかもしれない。完全に痕跡が見つからないようだったら行方不明扱いだ。事務所に戻る途中でふらっと失踪。うん、したいなと夢想したことは何度かあるよ確かに。でも妻に不安な思いさせてまでとは思わなかったし、本当に夢想だ。現実逃避だ。それがリアルになるなんて。
「それで、そんな状態なら、すぐには誰かわからないでしょう、妻は俺が隕石直撃で死んだってこと知らないまま過ごしてるんですか」
パリッシュのせいではないのは解っているいるが、ついつい責めるように聞いてしまう。
「そうだね。多少君が隕石にぶつかった後のことを話すと、隕石が河川敷に衝突した巨大な音と地震で、消防隊が河川敷に被害確認に来て。堤防道路にエンジンかけっ放しで放置されてた君の乗ってた社用車と、雪に残ってた社用車からクレーターまで続いてた君の足あとを見つけてね、警察と消防で付近を捜索。右足首と複数の手指などの肉片を発見、社用車に置かれてた君のカバンにあった身分証明証と、発見された手指の指紋から身元特定して。奥様にもきちんとその日の夜には連絡が行ったよ」
「葬式は、妻はどうしたんですか!」
「ごめん、あまり話すと、私が君に話した事故後の時点までしか戻れなくなるよ。未来が、世界が確定するというのかな。今だと君の奥さんが君に隕石直撃したことを知らされた時点までになる」
俺は結構ショックを受けて無言になった。
パリッシュはそんな俺を悼ましいと思うのか、無言でそのまま俺に付き合う。
パリッシュは俺がショックを受けるのを見て、喜んではいなかった。
最初の頃からあった、何となくパリッシュの気分や感情を伝える雰囲気が、俺に対して含むものなく、ただ悼ましいと思い俺が落ち着くのをじっと待ってくれているのだと伝えてきた。
何だよこいつ、思ったより優しいじゃねーか。
どれくらい経ったのか、ようやく俺は落ち着いた。この謎の場所は時間が流れてるんだか流れてないんだかわからないから、時間経過で落ち着いたのか、魂だけの存在だからすぐ落ち着いたのかはわからない。
パリッシュが俺が落ち着いたのを察して話を続ける。
「だもんでね、君が元の世界に戻るって選択を選んだら、君の体はもうない訳で、で通常の魂の状態じゃないし、君の元の世界からリクルーター来てる訳じゃないからさ、新しい体にチート搭載で転生、ってのはできないんだ。戻るとすれば今の君の魂の状態で戻ることになる。幽霊だね。」
「幽霊?」
「そう幽霊。」
「化けて出るってことですか?」
「化けて出るって、君誰かに恨みあるの?」
「あー、ちょっと前に本気で死ねよってくらい腹立つ奴はいました。俺が死ぬ半年くらい前から関りがほぼ無いんで、そんなに怒りは無くなりましたけど。」
「気持ちの落ち着きは大事だよね。良かったじゃん嫌な奴と距離取れて落ち着けるようになったんだったら。」
「確かにそうですけど、恨み抱いてないと幽霊ってなれなくないですか?」
「幽霊って状態になるのに恨みとか関係ないよ。前の肉体が無くなったんだから、替わりの体になる何等かに魂は宿らないと世界に存在できない、って訳でさ。空気中に普遍的にある物質を集めて体として、そこに魂が宿るって形が多いよ。窒素の塊かな。」
「ああ、なるほど。」
「甦生魔法みたいなものが普遍的に存在する世界だとその世界の法則に則って、死んだ後の魂がその世界を離脱するのが他の世界に比べると比較的遅いってことになっててね。世界を離脱するまでの魂は窒素の塊に宿ることが多いんだよ。世界を離脱する前の魂はまだその世界での自分の存在を憶えているから、恨みを持つ相手に化けて出るってこともあるよ。」
「恨みがあるから幽霊になるんじゃなくて、幽霊状態になった魂が生前恨んでた奴の前に現れることもある、と。」
「そ、そ、そうゆうこと。」
「取りついて相手を殺したりとか」
「いや、所詮空気の塊だからね、大したことはできないよ。水蒸気や煤煙を取り込んでぼんやり生前の姿っぽく見せたりとか、空気を震わせて声っぽいもの聞かせたりとか。僅かしか空気動かせないから、かなり小さい音だし。あと覆いかぶさって息苦しくしたりとか。窒素ほとんどで酸素少な目だから」
「嫌がらせですね」
「そ、嫌がらせ。でも故人に後ろめたい気持ちを抱いて気に病んでる相手だったら、鬱や発狂はさせられるかもね。」
「あ」
「どしたの?」
「幽霊が恨んでる相手をそこそこの確率で殺して恨みを晴らす方法、思い付きました。」
「どんなの?」
「毒ガスを取り込んで覆いかぶさる!」
「天才か」
「いやそれほどでも」
「確かに条件が整ってさえいればやれるかもね。でもまあ普通はそこまでして殺ろうとは思わないだろうし、殺る前にタイムリミットだろうね。」
「そんなもんですかね」
「そんなもんだよ。だって恨んでる相手に自分の体吸わせるんだよ?精神的に耐えれそう?」
「無理ーニョです」
「だよねえ」
確かに男に体を吸われるなんて嫌すぎる。てか嫌いな相手なら女でも嫌だ。
「てことでどうする?私の世界に来るか、君のいた世界の現世に幽霊として戻るか、このままここでずっと飽きるまで過ごすか。多分他の世界のリクルーターはもう来ないよ。来るとしたら私が現れた前後に来てると思うからね。なんせここは時間とか関係ないから。」
「このままここでずっと飽きるまでってのはどんな感じに?」
「私としてはそれ選んでもらえると有難いね。私の魂が私の生きる現世に戻るまでの間なら話し相手になれるし」
「アカシックレコードも楽しめる、と」
「そうそう、そうゆうこと」
「それ、俺に何の意味があるんですか」
「そうだねえ、私の世界に来るのも、君のいた現世に幽霊として戻るのも、前の世で生きた記憶を残した君、って状態でその後過ごすのは変わらない。でも飽きるまでここに、ってのは君が飽きたな、もういいやって感じたら、記憶をリセットされて元の魂の流れに戻るってことだろうね。またどこかの世界の生物として生まれてくるよ。ある意味一番の救いかもね。」
「なるほど・・・」
「ところでごめん、さんざんパリッシュで呼ばせといて何だけど、私の私の世界での呼ばれ方はトリッシュだったわ。ごめんごめん」
「何を今更」
「だからごめんて。君が私のいる世界に来るなら、間違えたままだと私だとわからないかなと思って。私も多分ここの記憶とか、殆ど残らないと思うしね。
何か、私がした色々な説明、あれも元々の私が知ってる訳じゃなくて、アカシックレコードにピコんと出るのを説明してるだけ。なので多分現世の私は覚えてないよ」
「結構残念ですね」
「まかり間違えて全部覚えて帰っても、ヤ〇ル〇ス〇ロ〇ズが二度と見れないんだから残念でしかないよ」
「思い出はいいものですよ」
「そんなもんかねぇ。伊藤智仁が故障しなかったらって考えると切ないよ」
「ところで、トリッシュさんのいる世界、もう少し詳しく教えてほしいのと、何か特典的なものあるみたいなこと言ってませんでした?そこをもうちょっとくわしく」
「ああ、剣と魔法の世界って言ったけど、火器と魔法に移り変わりつつあるかな?そんで魔法が結構ショボい。どこか他の異なる世界だと生活魔法?くらいだね。だから君が元居た世界の17世紀末から18世紀プラスショボい魔法付き、ってくらいっで考えてくれればいいかな。」
「江戸時代っすか」
「江戸時代のヨーロッパ的な。魔物とかも当然いるけど、それはそういう生物だからね。多分細かいところは君の元居た世界とは違うけど、だいたいそんな感じと思ってもらえばいいかな」
「なるほど、特典というのは」
「まず簡単に死なないように身分保障が一つと、同種族の中でも強靭で優れた体、あと君がずーっと内心羨ましがってた、今私が使ってる何となく雰囲気で考えを伝える力の3本です」
そうだな、前職の時は男性で体がデカいから人を威圧する、言葉が強く聞こえる、何とかしろって散々ご指導ご鞭撻ご注意を受けた。
コッチとしては真剣に人の話を聞いているつもりなのに、睨まれてるとか言われるともうどうしたらいいか、生まれてすみません、この仕事に就いてすみません、って思ったもんだ。
だからここでずーっと表情がないトリッシュが、何となくどんな感情、どんな雰囲気で話をしてんのか伝わるってのは凄いな羨ましいなってずっと思ってはいた。
「結構特典ショボめじゃないですか」
「まあ世界がショボいから仕方ないって諦めておくれよ。君が転生する予定の時点より50年くらい前に、君の転生予定地域でかなり広範囲で疫病が流行ってね。全然人口が少ないんだ。その後も断続的に小流行したりしてるから回復しないんだよ。通常の状態より、まあ何が通常なのかは謎だけど、早めに人口回復させたいって感じで私のいる世界から私がリクルーターとして遣わされたんじゃないかなあ」
「そう言われると選ばれし者って感じで気分がいいっすね」
「単なる奇貨置くべし、かもわからんし、何とも言えないよ。それに君以外にももう一人居るしね」
「え?誰ですか?」
「君が死ぬ直前、川の反対側から隕石を見上げてた、自転車に乗った女子高生だよ。隕石が地面に衝突した時にぶっ飛ばした土砂や石に吹っ飛ばされたんだ。ここって時間の概念がないから厳密にはどうなのかってとこだけど、彼女は私のいる世界に来る選択をしたよ」
「そっちの方が先だったんですか」
なーんか複雑な心境。
「彼女の方は肉体の損傷が軽微だったから、彼女が彼女のいた世界に戻るっていう選択をしたならまだ間に合う感じだったんだよ。君みたいに木っ端微塵じゃなかったからね。他意はないよ」
本当に他意はないのが伝わるから困る。
「さて、君はどうする?」
俺の選択は・・・
「ところで君、結局ずーっと正座してたね」
ほっとけ!足が痺れないならこれが一番落ち着く姿勢なんじゃい。
気を取り直し、
俺の選択は・・・
やっと謎存在との対話が終わりました。
次回からは転生した世界にようやく行きます。
次の投稿はまた明日になります。