第1話 国語の時間
「先生! 人間に化けるなんて、その鶴は、きっと悪い妖怪だったんだと思います!」
梨香ちゃんの隣に座る杉田くんが、手を挙げて叫びました。まだ先生にさされていないので、勝手な発言です。
黒板の前に立つマミコ先生は、ちょっと困った顔をしています。梨香ちゃんも、あまり良い気がしませんが、わざわざ注意するほどではありませんでした。
今は国語の時間です。教科書の開いたページにあるのは『つるのおんがえし』、有名な昔話であり、もちろん梨香ちゃんは内容を知っていました。ほかの生徒も、おそらく同様でしょう。
その上で、みんなで順番に、少しずつ朗読して……。読み終わったところで、マミコ先生が「では、鶴の気持ちを考えてみましょう」と言った途端、杉田くんが発言したのでした。
杉田くんが引き金となったのでしょう。教室のあちこちで、勝手におしゃべりする声が聞こえ始めます。特に、一番後ろの席の大野くんは、教壇のマミコ先生にまで聞こえるくらいの大声でした。
「だいたい、鶴が人に化けるなんてこと、ありえないよなあ? こんなの、作り話に決まってるぜ!」
ガキ大将の大野くんは、彼自身の意見を周りに押し付けているようです。席が離れていて良かったと、梨香ちゃんは小さくため息をつきました。
一方、マミコ先生は彼に反応してしまいました。
「大野くん……。それを言ったら身も蓋もないでしょう?」
マミコ先生は、大人なのにダメだなあ。こういう時は、聞き流すべきなのに……。
梨香ちゃんがそう考える間にも、
「先生! 『身も蓋もない』って、どういう意味ですか?」
と質問する生徒が出てきて、肝心の『つるのおんがえし』の話から、さらに授業は脱線するのでした。