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第三章   白兵戦

『≪イミテュート・ゼロ≫の宣言通り人工惑星モリスがこの世界から姿を消すことになりましたが……ピエル教授。実際にこのような破壊が可能なのでしょうか?』

 女性アナウンサーの投げかけに、ピエルと呼ばれたいかめしい顔つきのお爺ちゃんが深々と頷いた。

 その下にはティリス大学特任教授とテロップが出ているが、目立つのはその後ろで繰り返し流れている人工惑星モリスの爆破映像だ。

 コーク宇宙ステーションの時とは異なり、連鎖して爆発してゆくのがよく分かる。反物質の性能を一目で理解できる映像と言えるだろう。

 反物質は、物質に触れる事で膨大ぼうだいなエネルギーを発生させる。

 火薬が火で爆発するとするのなら、反物質にとっての火種はこの世界そのものなのだ。存在した瞬間に対消滅が発生し、爆発が始まる。それは、反物質が消失するまで延々と続くのだ。

 その結果が、人工惑星モリスの消失。

 恒星こうせいへと変じたかのような光があふれ、映像が途絶とぜつする。そこで映像が切り替わり超望遠からの光景。近場にいたらしい小型艦などを一気に引き込み、更に爆発。後には、輝く残骸ざんがいがゆっくりと広がってゆく映像がしばらく続き、また最初に戻る。

 そんな映像を、寝起きからすでに十回は見ている。これ以外の映像を流しているのは、ハンターギルドのチャンネルぐらいなものだ。それもロマロと≪イミテュート・ゼロ≫の賞金額が高騰こうとうしてゆく様を面白おかしく実況しているだけだが。

『理論的には可能だ。だが、人道的に人類が踏み込んではならない領域だと考えている』

 あたしがこのチャンネルをボケッと見ているのは、この局だけ『衝撃の展開っ!』なんてテロップが出ていたからだ。

 のんびりとコーヒーを飲みつつ、頬杖を突いてスクリーンを眺める。

 ちゃんとトーストと目玉焼きの朝食を食べて、寝起きを満喫まんきつできる。お金があるって素晴らしい。

『なるほど。確かにこの爆発を見る限り、人が触れて良い領域とはいえませんね。ですが、ティリス大学と言えば全ての銀河系から選ばれた人材がつどう学び舎と聞いています』

『うむ、その通り。世界有数の学び舎であり、研究者の集まる場所である』

『……でしたら、このような事が無いよう対策を研究しておくべきだったのでは?』

 女性アナウンサーのいどむような言葉に、ピエルの眉間に皺が刻まれた。

『残念だが、我々は全能ではない』

『そうですね。ですが、知る機会は合ったと思われますが』

『……何を言いたい』

 お爺ちゃんのけわしい視線に、女性アナウンサーはわざとらしく書類へと視線を落とした。

『えー、今回の爆発物製造に当たったと思われるロマロですが、ティリス大学の生徒でしたよね? 大学院にて論文を書いていたはずですが』

『……言ったはずだ。少なくとも私は、万能ではない。学生全てを覚えてはいないし、論文に関しても同様だ』

『それはおかしいですね。ロマロより、当局にメッセージが届いているんです。ピエル・リノマ教授に論文を全否定され、他大学の教授と共謀きょうぼうして地位を追われた、と』

『な、何を言っている……?』

 ピエルは驚きに目を見開いたものの、言葉終わりには平静に戻ったようで、咳払いと共に言葉を続けた。

『あれは犯罪者だ。当時の事は覚えていないが、大学を追放したのは英断えいだんだったと言えるだろう』

『そうですか。……貴方に否定された理論の正しさを証明する為に、宇宙ステーション爆破という凶行におよばざるを得なかった、とあるのですが』

『犯罪者を擁護ようごするつもりかっ!?』

『落ち着いて下さいピエル教授』

 立ち上がって怒鳴る老人にも動じず、女性アナウンサーは無表情でピエルをなだめる。

 全銀河系放送のメインキャスターなだけあって場慣れしている。無情表にも申し訳なさをにじませているのが、一流の仕事って奴なんだろう。

『勿論、我々としても犯罪者の擁護ようごをするつもりなどありません。ただ、事実を確認させていただきたくてお呼びしたんです』

だましたなっ!? 今回の爆発に関して意見を聞きたいと、そう言っていただろうがっ!』

『はい。ですので、爆弾を作った方の人物像に関してもお聞きしたいのです』

巫山戯ふざけるなっ! 私はもう知らんっ!』

『よろしいのですか? ロマロの声明に対し、反論する者がいなくなりますが』

五月蠅うるさいっ!』

 そう怒鳴るなり画面からはけてゆく老人。

 その後ろ姿を見送った女性アナウンサーは、表情を一つも変えずに画面へと向きなおった。

『では、ロマロのメッセージを元に我々が調べ上げた内容を簡単にまとめました。まずは大学時代、今回の反物質爆弾を作り出す前提ぜんていとなった論文を書き上げた所からです』

 そこから始まったのはちゃちいドラマだ。

 大学を追われ、他の大学でもやとって貰えず、じゃあ独自で開発してやると悪事に手を染めてゆく経緯いきさつ。所属した組織名までちゃんと出ている所を見ると、ロマロがかなり細かく説明したんだろう。

 今や時の人であるロマロ。そんな奴の経緯けいいも、マスコミにかかれば偉大なる科学者の苦節ウン十年に変わるのだからお笑いだ。

「……どーしたユイ。ニヤニヤして」

「あーマックス。おはよ」

「おう。……そんな面白いのやってんのか?」

「いつものマスコミって奴よ。ま、ロマロの陰険いんけんさもあるんだろうけど」

 ロマロは自尊心じそんしんの塊だ。自分の犯行だと知らしめる為にあたしを利用して、更にはるか昔に侮辱ぶじょくされた事を忘れずにこうして報復までしている。このちゃちいドラマを見た人は、先程の教授を含めロマロ排除に当たった人物に嫌悪感を抱く事だろう。

 努力する人間を権力で排除する。そんな感じの内容なのだから。

 犯罪者の擁護ようごはしないと言っていても、こんな映像を見れば『ロマロを適切に評価していればこんな事にはならなかったんじゃないか』という印象を与える事請け合い。仮に正確な過去だとしても、マスコミ特有の印象操作が行われている事は確かだ。

 宇宙ステーションに人工惑星の爆破。そんな真似をしでかせる奴は、根っこから腐っているのだ。その過去を、苦労と努力に置き換えている時点でマスコミらしい。

 コーヒーを飲み干して、あたしは席を立つ。

「それで情報は?」

「仲間が来るの一点張りだ」

「その仲間が来た、と」

「……はぁめんどくせぇ」

 ボリボリと頭をきつつマックスがカウンターに手を置くと、六つのスクリーンが立ち上がった。

 その内一つは艦橋かんきょうから前部ぜんぶ甲板かんぱんを望める映像であり、この艦と同サイズの艦が接舷せつげんし複数の黒ずくめが乗り込んでくる光景を映していた。

 黒ずくめと言っても、スウェットスーツとヘルメットが黒いと言うだけで、プロテクターは灰色。銀色のそこそこ大きめの銃を持っていて、伸びたコードは背負ったエネルギーパックに繋がっている。

「あれ、AES103だっけ?」

「オラクル重工の傑作で、未だに作り続けてるからな。手に入れやすく数を揃えやすい。クズでもご用達って訳だ」

 AES103を簡単に言えば、一回り大きくしたアサルトライフルのエネルギー兵器バージョン。一般的に言うフェザーライフルだ。

 カートリッジ式でもかなりの弾数撃つ事が出来、映像のような背負うタイプのエネルギーパックに繋いでいる場合は丸一日撃ち続けられる程だったりする。

 まぁ銃身や連結部など熱を持つ部分が多いので、実際には三十分も連射は出来ないのだが。

「対策は?」

「色々あるが、相手次第だな」

 まだ気付かれていないと思っているのか、敵はハンドサインで艦内へと乗り込んでくる。

 数は十人。他のスクリーンでは、二手に分かれて行動し始めている。

「まずは母艦ぼかんを潰すか。あ、一方がもうすぐ来る。お前古くさい銃を持ってたよな?」

「S&W(スミス&ウェッソン)リスペクトの五十口径ごじゅっこうけいじゅうよ。見てよこのリボルバーに銃身。時代遅れと言われようとも、このずっしりとした重さに射撃時の反動は性能とロマンを両立して」

「いいからそこから撃ってくれりゃあいい。シールド張るからよ」

「……むぅ。そんな顔でロマンも無いとか男失格じゃ無いの?」

「男性蔑視で訴えるぞテメエ」

 マックスの半眼に肩をすくめ、あたしはシリンダーを外して装填されているのを確認する。

 フェイタルペイン。親友に見せて貰った映像に感化されて、ログ爺に頼み込んで作って貰った一品だ。現代では対エネルギー兵装が一般的なので、案外重宝していたりする。

 シリンダーを回転させ、スムーズに回る事を確認してからはめ込む。と、窓の外が輝いた。

「……何したの?」

「メインブリッジがありそうな場所にアンカーぶち込んで高圧電流流しただけだ。……うん、ちゃんと仕留められたみたいだな」

「皆殺しって……」

「ハンターギルド加盟店に襲撃かけた時点で、皆殺しが確定してるようなもんだろうが」

「そりゃあそうだけどさぁ」

 末端まったんの加盟店だとしても、襲撃されたらハンターギルドは総力を挙げて報復ほうふくする。それをするからこそ、ハンターギルドは賞金稼ぎの元締めとして機能しているのだ。

 まあ被害が少なく撃退できてしまったら、その程度の襲撃と言う事で本腰を入れて報復してくれない事も良くあるのだが。

「それに、メインブリッジに直撃したらしいが、居住区にいた奴らなら死ぬほどでも無いだろ。メインエンジンが爆発しなかったし」

「艦体前部から、艦体後部にあるだろうエンジンが停止する電撃ってだけで、十分死ねると思うけど」

「そんときゃあそんときだ。ほら来るぞ」

 マックスに言われ銃を構えるのと同時に、扉がスライドした。

 先制攻撃はあたし。

 パァンッ! と音が広がり、覗き込んだ敵の頭部をメットごと吹き飛ばした。

「撃てっ! 撃てえっ!」

 すぐさま反撃のフェザーライフルが光を放つが、全てシールドに広がって消えてゆく。 エネルギー兵器はほとんど音も無く反動すら無くて、風情が無いと思う。

 そんな事を思いつつ、あたしは二発、三発。

「くそっ」

「マックス」

「おうっ!」

 返事は良いが、チラリと見てみればマックスはカウンターに隠れていたりする。

 あんないかつい顔なのに、実戦はからっきしなのだ。だから情報屋をやっているとも言えるけど。

 マックスはカウンターのコンソールを操作して、扉を閉めた。

 襲撃者がいた場所ははエアロック。そして、艦の権限はマックスにある。

 要するに一段落だ。

 酸素ごと気圧を抜いて、相手が窒息死するまで待つも良し。気圧を上げて殺しても良し。

「ふぅ。……もう一組もイミテーションルームに引っかかったし、一段落だな」

「あのガラス部屋に引っかかったの?」

「それっぽく並べとくだけで、大体引っかかるんだよ。これで大金持ちだってな」

「少し頭を使えれば分かるでしょうに、ねぇ」

 そんなお宝部屋があるなら、こんな中型艦に乗ってないって話だ。

 おかげで楽が出来たので問題ないけども。

「……どうにしても、情報に期待は出来なさそうね」

「馬鹿に情報持たせないだろうしなぁ。ただ、艦のデータからどこから来たかは分かるはずだ」

「馬鹿の言葉よりは正確そうね」

「つっても、≪イミテュート・ゼロ≫なら大体の位置は分かってるからな。無駄になりそうではあるが」

「ロマロに繋がりそうな情報なら何でも良いわよ」

「……そうだな。ま、もう少しのんびりしててくれ。暇なら拷問でもするか?」

「嫌よめんどくさい。それならあっちの船調べてるわよ」

「それなら非常口から行け」

「はいよ」

 マックスからメットを受け取り、被る。

 カラになった薬莢やっきょうはちゃんと交換して、腰のホルスターへ。

 さて、もう一仕事だ。


 ロープと言っても差し支えないほどに太いワイヤーを伝って、敵艦のブリッジへ。

 ふわりと着地して辺りを見回してみれば、無残の一言にきる光景だった。

 太いアンカーが直撃してバラバラになった死体に、コンソールにうつ伏せになって動かない死体。どれにしても真っ黒に炭化していて、マックスが流した電圧の高さを伺わせる。

 ちなみにこの中型艦、分類としては箱型と呼ばれる直方体ちょくほうたいだ。当然ではあるが、ブリッジから直接外を見る事は出来ず、分厚い装甲の先にこのメインブリッジがある。

 アンカーであっさりとぶち抜かれはしたが、それはこの艦が輸送艦ベースという点と、戦闘態勢に入っていなかったと言う点が大きい。戦闘用に建造されていればブリッジまで届く事は無かっただろうし、シールドを張っていれば物理攻撃には弱いとは言え、それなりに減衰げんすいして一発目ぐらいは防げた事だろう。

「……こりゃあかん」

 電気系統が完璧にアウトだ。

 一応オペレーターや艦長席のパネルを外して中を確認してみるが、ブラックボックス的なものは見当たらない。焼け焦げた配線が見えるばかりだ。

「まぁ、このタイプならサブブリッジかな」

 戦闘用の中型艦だとサブブリッジが無い場合も多いが、輸送艦ベースだと艦体後部の貨物ブロック近くにサブブリッジをもうけている事が多い。

 理由は単純で、輸送艦にとっては荷物こそが命だからだ。逃げる事を前提にした輸送艦では、襲われてメインブリッジが潰されても、荷物を持って逃げれるようにサブのブリッジが存在していたりするのだ。

 扉を手動で開く。

 まず目に入ったのは、黒焦げの死体だ。白兵戦要員が十人だったと言うだけで、それなりに残っていたんだろう。

 壁を伝って艦体後部へ。

「……ジェットパック背負ってくれば良かった」

 いちいちったりはじいたりする反動で移動しないといけないのがめんどくさい。 

 本来なら一回床を蹴っただけで真っ直ぐに廊下を進めるのだが、幾らあたしでも黒焦げだったり生焼けだったりの死体を触りたくは無い。

 ロマロのお陰で借金が無くなっていなければ、喜び勇んで遺品漁りをしてただろうけど。

 途中に幾つか扉はあるが、基本無視。開いていたらのぞくぐらいで進んでゆく。

 後部に行くほど外傷のない死体が増えてゆくが、代わりに汁などがただよい始め、あきらめた。

 汚いし、死体に触りたくも無いけど、けきれないので仕方ない、

 あぁ、一張羅いっちょうらのジャケットが……。アマガサにもう一セットあるから良いけど、糞尿ふんにょうまみれたと思うとちょっとへこむ。

 メットのお陰で問題は無いのだが、気持ち的に独り言を抑えて進む。正直呼吸も止めたいぐらいだ。

 何を積んでいるかにも興味はあるが、今はもう外に出たい。

 途中滑り棒を伝って一番下へ。

 三階構造で三階前部にメインブリッジがあったと言う事は、一階後部にサブがあるはず。

 そう判断して一階を移動し始めたのだが、廊下が広い。荷運びを得意とする大型の人種に合わせた構造なんだろう。

 たまに浮いているのは普通の人型ばかりなので、この宙賊ちゅうぞくには大型人種はいないんだろうけど。

 そんな事を考えたのが悪かったのか、廊下の先にあった巨大な扉が蹴り開かれ、それが現れた。

 見上げるほどに巨大な体躯たいく。剥き出しの上半身は銀の光沢を放ち、その上に載った頭部も右半分は銀に染まっている。左半分は焼けただれ、生身の名残である左目は真っ赤に充血し、その瞳孔どうこうがあたしをとらえた。

「サイボーグ……」

「があああああああぁぁぁぁぁっ!」

「いっ!?」

 いきなり駆け寄ってくる巨体を前に、あわてて後ろへと飛びつつフェイタルペインを引き抜く。

 ガコンガコンと床を踏みならせるのは、恐らくはマグネットシューズをいているからだ。メットも無いのに生きているのは、このエリアにはまだ酸素があるからか。

 そんな風に冷静な判断を出来るのも、愛銃フェイタルペインがあればこそ。

 かなりの速度で距離を詰めてくるが、猶予ゆうよは十分。その額をちゃんと狙って、トリガーをしぼる。

 パァンッ!

 ガキュンッ!

 妙な音が響いたものの、銃の反動で縦回転するあたしに気にする余裕は無い。

 五回転ほどした所でどうにか床に足を着き、倒れた男へと顔を向ける。

「……うそ、でしょ?」

 男は倒れきってはいなかった。

 床に背を着いたら負けだとでも思っているのかギリギリで耐え、ゆっくりと身体を起こした。

 その額には、確かに銃弾が埋まっていた。衝撃の強さを物語るように、周囲がひしゃげてもいる。だが、男は平然へいぜんと笑みを見せた。

「テメェか。テメェが俺の船を」

「いや違うよ。あたしじゃないよ」

「嘘をつけえええぇぇぇぇっ!」

 咆哮ほうこうと共に男が駆け寄ってくる。

 後ろにぶが、男の方が速い。

「くそっ」

 手すりに足を引っかけ、一発、二発。

 弾丸は男の胸に突き刺さり衝撃でその周囲を凹ませるものの、男の動きが止まるのはその一瞬だけ。

「こっちならっ」 

 銃を腰のホルスターへと戻し、ジャケットの内側から小型の銃を取り出してトリガーを引いた。

 パスッと音を立てて放たれたのは二つの球体。それにワイヤーが続く。

 サイボーグの身体には並大抵の銃でははじかれるだけだろうが、これは粘着性ねんちゃくせいの弾丸だ。それだけではダメージにはならないが、二発着弾したのと同時にスイッチを押せば、この銃の本領が発揮される。

 バジィ!

 放たれるのは電撃。サイボーグには覿面てきめんの一撃、になるはずだった。

 ワイヤーを伝う輝きが、男の銀の肌に触れた瞬間しゅんかん霧散むさんしなければ。

「へ?」

「おおぉっ!」

「ぎっ」

 咄嗟とっさにテーザー銃を捨て両腕をクロスするが、その上からでもなお意識が飛びそうな程の衝撃があたしの身体を貫いた。

「がはっ!」

 更に背中に衝撃。

 強い目眩めまいを覚えながらも、ほとんど反射的に天井の出っ張りに指を引っかけ反動を止める。

「くっそ……いっ」

 咄嗟とっさに横へとんだ瞬間、飛び上がってきた男が天井を貫いた。

 いくらサイボーグとはいえ、能力を力に振りすぎだ。

「ちょこまかと」

「そっちこそ、デカブツならデカブツらしくドンと構えてなさいよ」

 しびれる両腕を振りながら、ぼやく。

 殴られる瞬間全力で上にんで尚、両腕がしびれるほどの衝撃だった。まともに受ければ骨折どころか即死まである重い一撃だ。

 もー逃げたい。

 けど、それだけの力があると言う事は、それだけの速度があると言う事。まず間違いなく追いつかれる。

 その上テーザー銃も無理。マックスのアンカーから電流を食らって生きてるんだから、その辺りの対策はしていると考えておくべきだった。

 全く、自分が嫌になる。

「……はぁ、しゃーない」

 ぼやき、構えを取る。

 それを見おろして、男は口を開いた。

「何のつもりだ?」

「かかってきなさいな。相手してあげる」

「……良い度胸だ」

 ドンッドンッと二歩。それだけで間合いがゼロになり、右の豪腕ごうわんが振り下ろされる。

 その一撃に合わせてあたしも前へ。それだけで拳を回避してはいるが、その腕に右手を振れて押す。

 ピクリとも動かないどころか、振り下ろされる腕に引っ張られて左に回転する。

 その勢いを利用しつつ左足で跳躍ちょうやく。放つ周り蹴りが、男の左頰でパンッと軽い音を立てた。

「それで?」

「ちょっと痛そうな顔してんじゃん」

「クソがっ!」

 捕まれる前に男の肩をって上へ。反転して床に着地する。

 男はマグネットシューズのスイッチ切り替えに一拍いっぱく、後を追って床へと降り立ちマグネットシューズのスイッチ切り替えで更に一拍いっぱくと、そこそこすきがある。体力的に追い詰められると言う事はないだろう。

 後は、同じ事を繰り返すだけ。 

 男の攻撃を誘い、踏み込んで回避しつつ触れて勢いを利用してる。そして離脱。 

 漢の蹴りはかわす必要があるが、予備動作が大きいので見てから回避は簡単だ。

 ただ、一回蹴るごとに距離を取るとは言え、相手のふところに潜り込んでの行動は精神がすり減る。

「あっ」

 十回を超える攻撃後の跳躍ちょうやく。その足を男に捕まれた。

「やっと、捕まえたぞクソが」

 にやりと笑みを浮かべて見上げてくる男。

 ほんと、やっとだ。

「ま、見上げるわよね」

 パァンッ!

「ぎ、ギゃあああああぁぁぁぁぁっ!」

 五十口径の銃弾が貫いたのは、男の左目。

 ほとんどを機械化しているらしく、蹴って触診しょくしんしても生身っぽい場所が見つからなかった。たからこそ、あえて捕まるようにワンパターンな動きを繰り返したのだ。

 全ては男の右目に銃弾をぶち込める、この一瞬の為に。

「即死じゃ無いのは意外だけど、まぁアホで助かったわね」

 床に降り立ち、真上でもだくるしむ男へと二発。空になった薬莢やっきょうを全て捨て、一つずつ弾を込め直してシリンダーを閉じる。

 普通なら最初に銃を使った時点で警戒しているものだが、あの馬鹿は生身の部位があるにも関わらず銃弾が効かないなどと思っていたんだろう。

 ホント、アホで助かった。こちらの勝ち筋は、生身の顔半分に銃弾をぶち込む以外存在しなかったのだから。

 真上に向かって更に五発。撃ち終える時には男はすでに動いていなかった。

 追撃が効いたのか、眼球への一発が効いたのか。どちらかは分からないが念の為。

 倒れ伏せた男の腕に足を引っかけて、その後頭部に更に五発撃ち込んでおく。

 確実に仕留めるのは大事だ。安心も大事。

『あの……一体何を?』

「あ、サイト。そー言えばいたわね」

『そりゃあ自動追尾じどうついびですから。それで、ここは? その方は一体……』

宙賊ちゅうぞくよ、宙賊ちゅうぞく。襲われたから撃退したってだけ」

『……見たところ一般人ではないようですし、そうなんでしょうね。それで、何故呼んでくれなかったので?』

「何か出来るの?」

『それなりに武装を搭載とうさいしてますよ?』

「初耳なんだけど」

 あたしの半眼に、サイトは逃れるようにレンズの位置をずらした。

 完全に忘れてたあたしも悪いが、事前に使える道具である事を伝えてなかったサイトも悪いと思う。

「ま、無事仕留められたしどーでもいいけど。それよりちょっとは余裕が出来たの?」

『まさか。……どうにか休憩時間を作っただけですよ』

 声色だけでも分かるほどに疲労の色が濃い。

 ニュースでは宇宙警察が関わっていたから被害を抑えられたと言ってはいたが、事件が起こった以上責められるのは必然ではある。

「なら休んでて良いわよ」

『こんな状況じゃなければ休んでますよ。なんで乗り込んでるんです?』

「ブラックボックスでもあればこの艦の航路が分かるでしょ? それで根城ねじろが分かったりしないかなぁと」

『……なるほど。ボイスレコーダーが付いていればロマロの所在じょざいが掴める可能性もありますね』

「まぁ可能性だけどね」

 そもそもロマロが所属しているだろう≪イミテュート・ゼロ≫の艦ではない可能性すらあるのだ。期待はしていない。

 男が出てきた部屋に入ると、狭いながらもモニターがあり、サブブリッジである事が分かる。電気が来ていないので、ここも廊下と同様非常灯が灯っているだけだ。

 はしからパネルを外し、それっぽいのを探す。サイトのスピアフロートが照らしてくれるのがかなり助かる。

「お、これかな?」

『それですね。有用な情報がありそうでしたら連絡を下さい』

「呼んでいいわけ?」

『ロマロに繋がる情報でしたら、是非ぜひ

「りょーかい」

『お願いします。それでは私はここで』

「ん。頑張ってね」

 挨拶もそこそこにすぐにレンズがグリーンに変わった。

 相当忙しいんだろう。関係ないから同情もしないけど。

 真っ黒い四角い箱を手に。あたしは一つ伸びをしてからマックスの元へと向かったのだった。


「……お金があるって良いなぁ」

 襲撃から二日。

 あたしは相変わらずマックスの船にいた。

 狭い個室だけど背筋を伸ばして眠れるし、三食食べられる。何より素晴らしいのが、暇だからと焦る必要がない点だ。

 一日仕事が無いだけで、その分利息が増える。そう考えるだけで眠りが浅くなり、常に借金に追われているような気分だったのに。

 ほんと、幸せ。

「……こう、最近のお前を見ると倍疲れるな」

「あ、やっと終わった?」

「あぁ。こっちに来い」

 マックスにうながされ、あたしはカウンター奥の部屋へと向かう。

 ちなみに今はそれなりの人気店って感じでそこそこ客がいる。

 賞金稼ぎが八割、マスコミが二割。全員が≪イミテュート・ゼロ≫かロマロの情報を求めてここに来ているのだ。あたしの情報を先んじて受け取った情報屋というステータスがかなり大きいらしい。

 入った部屋には、この前見た敵艦のサブブリッジのように幾つものモニターがあった。密談用に使われる部屋だが、この艦の監視室でもある。

 扉を閉めるとすぐにマックスは口を開いた。

「ちょっとは説明したはずだが、あのブラックボックスのデータは全て拠点に送られていた。そういう風に手を加えて設置したわけだから、プロテクトの解除に時間がかかったわけだ」

「結論だけでいいわよ?」

「いちいち情報になる音声を聞かせるつもりはねぇよ。ロマロは≪イミテュート・ゼロ≫の本拠地にいる」

「裏は取れたの?」

「もちろんだ。必要な資材一式が箱ごと近くの宙域に投棄とうきされたってデータを見つけた。一年以上も前のデータだがな」

「……あいつならあり得るわね」

 あたしが追い始めた頃には ≪イミテュート・ゼロ≫に移籍いせきする事を決めていたとしても不思議は無い。それが決まっていたから、中小を気ままに渡り歩いていたんだろう。

「けど、今いる確証にはならないんじゃないの?」

確度かくどを高める為の情報がそれってだけだ。メインブリッジの音声にロマロに関する話があった。少なくとも、他の組織に移った様子は無い。まぁ末端の無駄話に正確性は求められんが」

「……そもそも、あいつの行動予想しろってのが無理だしねぇ」

 一年追って分かった事は、ロマロが異常と言う事だけだ。

 今となっては実験の為に渡り歩いていたと分かってはいるが、人権団体に誘拐組織。あたしが追い出す前は宗教団体や環境保護団体に所属していたのだ。

 それらの組織に共通する点は二つ。

 悪事を働いていたという点と、すでにこの世界に無い組織だという点だ。

 ロマロのせいで悪事がバレて壊滅したのが二つ、爆発で拠点ごと消し飛んだのが一つ、賞金稼ぎに潰されたのが一つ。それ以前にも色々とやらかしている。

 こんなイカレ野郎の行動を予想しろってのが無理な話だ。

「一応、警察が虚空領域ヴォイドエリアを監視している。今回襲撃してきた奴らも監視対象に入ってたみたいだし、ロマロが拠点にいる可能性は高いだろう」

「宇宙警察の最重要さいじゅうよう指名手配犯しめいてはいはんにランクアップしただろうしねぇ」

「あぁ、そうだ。それでだな、宇宙警察が最重要指名手配犯に指定したって事は、ギルドとしても協力義務があるわけでな……」

 何故か脂汗あぶらあせをだらだらとらし始めるマックス。

 ここまでの反応を見せるって事は、何かをしでかしたって事だ。

 あたしにも迷惑がかかるような事は確定なので、その様子を半眼で見据みすえる。

 と、マックスは絞り出すように声を漏らした。

「こっちの情報は、警察にも筒抜つつぬけだ」

「……で?」

 人差し指と親指で円を作ってみせる。

 重要なのはお金だ。それ以外はどうでもいい。

「その……だから、協力義務が……」

「そう。なら仕方ないわね」

 銃を抜き、シリンダーの弾を確かめる。

 マックスの言葉通り、正式な手続きをまえて設立された組織には、警察への協力義務がある。その相手が宇宙警察となれば、その強制力は絶対と言っても良いだろう。

 だが、あくまでそれは組織にとってはの話だ。

 ハンターギルドに所属してはいるが、ハンターギルドは賞金稼ぎに対して強制力を持たない。対等な協力関係である為、協力要請はあっても協力義務は存在しないのだ。

 つまり、あたしが何を言いたいかと言えば。

「短い付き合いだったわね」

 躊躇ためらいも無くマックスに銃口を向けた。

 マックスのした事は横領と同じだ。死んでつぐなうべし。

「ま、待てっ! ギルマスが借金させてやった恩はこれでチャラだってっ!」

 椅子から転げ落ち、更に後ずさりするマックスへと歩み寄り、その額に銃口を押し当てる。

「利息で十分でしょうが。ババアに繋げ」

「わ、分かった」

 震える手を伸ばして、コンソールを叩くマックス。

 と、すぐに回線が開いた。

『こちらギルド本部です。緊急回線ですが会話は可能ですか?』

「えぇ可能よ。すぐにそこでふんぞり返ってるババアに繋げ。十秒以内に繋がなければこいつを殺す」

『す、すぐに繋ぎますっ!』

 余計な問答もんどうをしない優秀なオペレーターだ。

 おかげで五秒もしないうちにモニターの一つが切り替わり、見慣れたババアが現れた。

『……ふむ。誰かと思えば小娘じゃないか。賞金稼ぎから賞金首へ鞍替くらがえかい?』

「久しぶりね婆さん。しばらく会わないうちに更に浅ましくなったみたいだけど、ふむ。しわの増えかただけで心のにご具合ぐあいが見て取れるわね」

『かっかっ! この前会った時は随分ずいぶんとしおらしい態度だったと言うに、口汚くちぎたなくなったねぇ』

「筋を通してるだけよ。だから、クズ相手にはこういう態度になるってわけ。おわかり?」

 パッと見なら縁側えんがわで日向ぼっこしてそうなおばあちゃんだが、ハンターギルドの元締めだ。精神的にタフなのは当然で、少しでもつけいる隙がありそうなら喜んで食いついてくるような性格をしている。

 だから、立場を理解させる為には相応の立ち振る舞いが必要というわけだ。

『大金を融資してやったというのにクズ扱いとは……恩知らずもはなはだしいのぉ』

「アマガサ奪う気満々で貸し付けといて良く言う。借りた恩があるとしても、利子で十分すぎるほど返済したはずよ」

『あの機体の価値を理解して金を貸せる者がどれだけおることか。その辺りも理解して欲しいものじゃの』

「だからあの利子でも我慢してやったんでしょ? 欲の皮を突っ張らされて生きてきた結果がその皺だって理解しなさいな」

『この皺はワシの誇りじゃよ。……外見を侮辱ぶじょくしてあどばんてぇじを取ろうなど、まだ若いのぉ』

 婆さんは会話を楽しむかのようにニコニコしていたものの、背筋を伸ばすと雰囲気を変えた。

 モニター越しでさえ肌で威厳を感じるほどだ。長生きしているだけはある。

『それで? あんたぁ、宇宙警察に喧嘩売ろうってのかい』

「まさか。宇宙警察に喧嘩売ってんのはあんたらの方でしょ?」

『ほう?』

「情報を警察に横流しして、宇宙警察のせいだからと金を払わない。さて、絶対なる法の暴力機関である宇宙警察がそれを聞いたらどう思う事かしらね?」

『協力は義務だと言う事ぐらい知らぬわけでもあるまい』

「それはあんたらが、でしょ? あたしには関係が無い。……それとも裁判起こして金をむしり取られた上で、宇宙警察との関係が悪くなる方をお望みで?」

 個人に対しても協力義務はあるが、『無料で』『絶対に』ではない。宇宙警察のせいでお金を払わない、と言う道理は存在せず、訴えれば勝てるのはこっちなのだ。

『くっ、かっかっかっ! 全く、そこは泣き寝入りするところじゃろうに』

「金持ちから金をむしらないで誰から取るってのよ」

『……仕方ないの。正規の額を払おう』

「迷惑料もちゃんと足しときなさいよ。ケチるようなら、この会話をマスコミに売って補填ほてんする羽目になる」

『がめついのぉ。……まぁ、分かった。すぐに手続きをする。それではの』

 モニターの映像が切れて関し映像へと戻る。

 それに内心で安堵の息をいていると、マックスが大仰おおぎょうに息をいた。

「どうなるかと思ったぜ。なぁ、もうこいつどけてくれ」

「あぁ、うん。良かったわね、簡単に話が付いて」

「……ホントにな」

 銃をホルスターへ収めると、マックスはやれやれと立ち上がった。

「っつーか、サイトさんがいるんだから頼れば良かったんじゃ無いのか?」

「あのねぇ。サイトなんて出したら『直接協力を要請されてるんだからお金は払わない』っつー話になるでしょうが」

「あー……そうなるのか?」

「そーなんのよ」

 金がある奴ほど強突ごうつりなのだ。付け入る隙を見せないに限る。

「兎に角、あんたも今後舐めた真似しない事ね」

「あ、あぁ。……って言うか、冷静になって考えれば殺されるはずが無いのにな。目がマジだったからビビっちまったぜ」

「……なんで?」

 あたしが首を傾げると、マックスの頰が引きつった。

「いや、そりゃあお前……殺す気なんてなかっただろ?」

「ううん。普通に殺すつもりだったけど」

「いやいやっ! ンな事したらお前、賞金首だろっ!?」

「……あのねぇ」

 マックスは熟練のバーマスターと言った風体だが、情報屋としての経歴はまだ浅い。ちゃんと大学を出たインテリと言う事もありその情報には信頼はおけるのだが、この業界をまだ把握はあくし切れていないようだ。

「横領でぶっ殺されてる情報屋なんてそこそこいるでしょ?」

「……けど、今のはギルマスからの要請だし」

「あのババアが舐めた態度取ってたら、ぶっ殺してたわよ。で、あんたは横領犯であたしは無罪。公判になればギルドもあたしの擁護に回っただろうしね」

 ハンターギルドにとって大事なのは、ギルド加盟店よりも賞金稼ぎなのだ。信頼という屋台骨が揺らぐようなら、すぐさま同業他社が乱立しかねない。

 それほどに美味しい利権を手放すはずが無い。

「賞金稼ぎなんて金が欲しくてやってるのばっかだしね。金は払う、公判こうはんも請け負う、実刑も無し。だからギルドの指示だったって事は内密に、それだけでおしまいよ」

「……確かに。それが一番、か」

「あたしだった事に感謝するのね。他の奴なら問答無用でぶっ放してるわよ?」

 ちなみにこの台詞、恩に着せるわけでは無く単なる事実だ。

 大元と話して事実確認しようなんて考えられるのは、賞金稼ぎ全体で見ても半分いれば良い方だろう。ババアは泣き寝入りしろなんて言っていたが、そんな小心者は一割にも満たないだろうし、考えるよりも殺すの精神で生きてる賞金稼ぎの方がずっと多い。

「……あぁ、そうだな。今後はちゃんと話を通す。すまなかった」

「運が良かったわね。……で? 情報ばらまいたって事は、今後の動きとかも大体決まってるんでしょ?」

 あたしの投げかけに、青い顔をしていたマックスは大きく深呼吸をした後、一つ頷いた。

「あぁ、そうだ。ギルドと警察で協力して≪イミテュート・ゼロ≫の殲滅せんめつに当たる予定になっている」

「報酬はどーすんの?」

「参加者全員で山分け、だな。もう二時間も経てば公表されるだろうが、一隻単位で山分けって方向で話が進んでいるようだ」

「……警察も入るのよね?」

「賞金首にかけた金額を減らすわけにもいかんからな。幾らかは元を取る為に動かすのも仕方ないだろう」

 賞金首の懸賞額は掛け捨て。『もうすぐ捕まりそうだからお金返して』なんてやられたら仕事にならないので当然だ。

 それは警察がかけた懸賞金も同じ。例外を作るわけにはいかないので、警察としては苦肉の策なんだろう。 

「まぁ、詳しい事は公布こうふを見てくれ。≪イミテュート・ゼロ≫に気付かれる事前提で動くらしいから、作戦決行は遅くても三日後だろうな」

「……参加するまでも無いかも」

「マスコミも来るような大捕物になるだろうしなぁ。ちなみに、ファティマグループも参戦するらしいぞ」

「え、なんで?」

「こっちは完全にボランティアらしいな。≪イミテュート・ゼロ≫と関わっていないと証明する為に協力を志願してきたそうだ」

「あー。売名も含め、良い手段ではあるわね」

 無償むしょうで≪イミテュート・ゼロ≫の殲滅せんめつに協力したとなれば、好意的な目で見られるようになるだろう。メディアが来るなら、そこそこ艦を並べておくだけでも効果的だ。

「ロマロの研究施設建造に物資を流したのもいずれバレるだろうからな。そっちは仕事ととして、ロマロ逮捕も含めた行動は社会的義務として行った、とか言えば十分世間の信頼は得られるだろう」

 戦争になったからと言って、兵器製造業者が責められるわけではない。

 よく分からないが世間とはそう言うもので。その上で世間的に正義となる側に協力すれば、好感を持たれる。

 都合の悪い事実をごまかすには良い手段である。

「……ま、そんだけ集まるなら小銭稼ぎには丁度良いかもね」

 基本賞金稼ぎは生活苦の者が多いので、それなりに集まるだろう。

 それでもロマロにかけられた賞金額を考えれば、美味しい仕事になりそうである。

「わびと言っちゃあ何だが、引き続き調査は続ける。あぁ、ブラックボックスの内容とか、サイトさんに直接報告しておくか?」

「そうね、任せる」

 コンコンとスピアフロートを叩いて名前を呼ぶと、すぐにレンズの色がグリーンに変わった。

『何かありましたか?』

「暇なの?」

『失礼な。応答だけならすぐ出来ますよ。……試しで呼び出したんですか?』

「マックスが情報を共有したいってさ。ま、警察に情報は行ってるみたいなんだけど」

『いえ、ありがたいです』

「じゃ、勝手にやってて」

 そう告げて、あたしは部屋を出る。

 折角サイトを呼び出したんだから襲撃の日時を聞いとけば良かった、なんて思ったものの戻る気は起きず、あたしは定位置となり始めたカウンター席へと戻ったのだった。


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