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第二章   情報の価値

「やー、ログじいが近くにいてくれてホント助かったわ」

「ワシの方こそ、偶然この辺りに流れてて良かったと思っておるよ。……全く、雑なメンテしおって」

 そう言いつつ整備道具を片付けるのは、珍しい形状の人種だった。

 端的たんてきに言えば、首がなく全体的に短く分厚い。足は胴体に直接くるぶしが付いているように見えるほど短く、逆に腕は普通の長さがある為もの凄く長いように見える。

 ゴルンゾ人。

 高重力の惑星が出身で、その重力に適応した結果だ。現代でさえ生物が発生する条件を満たしていない惑星と認識されており、彼らは命の神秘しんぴとして有名な人種でもある。

「そこそこ手を入れているのはわかるが、もう少しちゃんとせい。たくされたものじゃろうが」

 つぶらな瞳に、それが隠れるほどに伸びきった白い眉。口元も白い髭で覆われている為表情が分かりにくいが、責められている事だけは分かる。

「しょうがないじゃない。ログ爺以外には頼れないし、そもそもお金がなかったし」

「……まぁ、このに関してはのぅ。他人に知られるわけにもいかんか」

「兵器転用間違いなしでしょうしね。あ。今までにかかったお金、ちゃんと引いといてね」

「いらぬよ。あの者達と出会えた事は、ワシにとっても金以上の価値がある」

「そうだろうけど、それはそれ、これはこれ。利子を含めてちゃんと貰っといて。またあの人達が協力してくれた時、設備にお金がかかるかもしんないでしょ?」

「む。……それもそうだの。貴重な理論を実践じっせん出来ぬのは問題か。ありがたくいただいておこう」

「そうして」

 ログ爺とは長い付き合いだ。それこそ、アマガサが出来る以前からの。

 ある人達と出会って、あたしは賞金稼ぎとしての一歩を踏み出せた。彼女たちがログ爺を見つけ、アマガサを作り上げてくれたからこそ、今のあたしがあるのだ。

 だから感謝している。彼女たちの次に。

「アマガサを作り上げた時から有名になるとは思っていたが……変な形で有名になったものだのぉ、じょうちゃん」

「あたしだって予想外よ」

「取材の話とかはないのかの? 嬢ちゃんの写真、あれ五年は前の奴じゃろ」

「ギルドに登録した時の写真だしねぇ。取材依頼はギルドの方に来てるらしいけど、幸いお金に余裕はあるから引き受けないわよ」

 ニュースの映像を見た時驚いたのが、映像と共にあたしの顔写真が映っていた点だ。

 普通撮影者なんて名前すら出ないのに、ロマロがご満悦まんえつで語ってくれたおかげであたしの顔が世界的に知られるように。

 まぁかなり昔の写真だから、ぱっと見ではわかんないと思うけど。

「折角じゃから、そのニュースでも見るかの。まだ流れておるんじゃろ?」

「ニュース番組なら一時間に一回は流れてるんじゃない?」

「ならのんびり見るかの」

「だろうと思って、お茶入れといたわよ」

「……昔を思い出すのぉ」

 しみじみと呟くログ爺に苦笑して、テレビがある部屋のすみへと向かう。

 実際、昔と全く一緒だ。あたしが手を出しても邪魔になるだけなのは分かっているので、ログ爺の休憩に会わせてお茶を用意したり食事を用意していた。

 小さなテーブルに、座布団ざぶとん。ゴルンゾ人は足の長さ的に椅子が合わないので、床に直接座る形になる。

 ログ爺は手拭いで両手をこすって汚れを落とした気分になると、座布団に座ってリモコンを手に取る。

 今となっては古い、と言うか古すぎて逆に価値がある愛用のブラウン管風のテレビと、それに対応したリモコンだ。映し出される映像にも、あえてたまにノイズや揺れを入れるこだわりっぷりだったりする。

 あたしもあぐらをかいて座る

 と、ピピッと音が鳴って久しぶりにスピアフロートのレンズが緑に変わった。

『ユイさんっ! 放送を見て下さいっ!』

「何よいきなり」

『いいから早くっ!』

 あわてた様子のサイトに首をかしげ、ログ爺を見る。と、ログ爺は一つ頷いてチャンネルを変えた。

 何かがあるならすぐに分かるかと数秒見ては変えてゆくが、特にない。一周回った所で、二人揃って首を傾げた。

「サイト、じゃったよな? 優秀と聞いていたが……何もないの」

「ね」

『……あぁ、そうか。以前もジャックされたから、重要な案件とはとらえられなかったんですね。犯行声明があったんです、先程』

「内容分かってるなら後で良いでしょ」

 そう言って、あたしはスピアフロートを両手で掴むと、ログ爺の方へと向けた。

「この人はログ爺。アマガサを作ってくれた、あたしの恩人おんじんよ」

「ログじゃ。お主の事はユイから聞いておるよ」

『あ、これはどうも。サイト・カウンティと申します。宇宙警察に所属しております』

「うむ、うむ。声だけで育ちの良さが分かるの」

『ありがとうございます』

 落ち着いた空気が流れたものの、すぐにサイトはレンズをこちらに向けた。

『犯行予告ですっ。二十四時間後に人工惑星モリスを破壊するとっ』

「どこの組織よ」

『≪イミテュート・ゼロ≫と名乗っていました。宙賊ちゅうぞくとして指定されている組織ですね』

「ふ~ん」

『……あの、すぐに動かないと』

「なんで?」

 あたしの疑問に、サイトはピタリと動きを止めると、すぐ目の前までレンズを近付けてきた。

『二億人を犠牲にするつもりですかっ!?』

「犠牲にするつもりもなにも、事実なら犠牲になるでしょ」

『……何も、しないつもりですか?』

 もの凄く驚いたような口調だが、あたしとしては首を傾げるしかない。

「ホワイトマンをどうにかする手立てがあるの?」

『いえ、それは……』

「入港前に止める手段があるなら良いけど、入港された時点でダメでしょ? あの爆発の規模だと」

 普通の爆弾ならまだしも、宇宙ステーションを吹っ飛ばせる威力の爆弾だ。見つけた場合の対処法があるなら兎も角、それすら無いんじゃどうにもならない。

 更にいえば、今から検問を張ったところで多分手遅れ。ホワイトマンが既に人工惑星に入っていたら、あたしに出来る事なんて何も無い。

「ホワイトマンを殺したら起爆する。逆に言えば、ちょっと仕掛けをほどこすだけで遠隔起爆も出来る。……そうなると、確保して宇宙空間に放り出すってのも無理でしょ?」

『それは、そうですが……』

「出来るとしたら、即座に避難させる事だけ。あんたの仕事よ」

『すでに避難指示は出しました』

「そ。なら、そのなんちゃらゼロって言う組織の背後関係と、モリスを爆破するメリットに関して当たって。あたしの方でも調べてみるから」

『……分かりました』

 納得しかねると言うのが声色だけで分かるが、無駄死にはごめんだ。

 レンズの色が赤色に戻ったのを確認してから、あたしはログ爺へと顔を向ける。

「じゃ、そう言う事だから」

「気をつけるのじゃぞ。お主は顔を知られている」

「逆に、襲ってくれた方が話は早いかもしれないけどね」

 あたしの軽口に、ログ爺は顔をしかめた。

「前に言った事、覚えておるな?」

勿論もちろんよ。……あたしに才能は無い。そんなこと、痛いほど理解してる」

「ならばおごらぬ事だ」

「分かってる」

 言われた当時はムッときたものだが、今となっては痛感している。

 アマガサという機体があって、それでもなお中堅でしかない。その上借金まみれだった。

 これで才能があるだなんて思えるはずもない。あたしは、良く言っても凡人止まりだ。

 だけど、凡人なりに経験を積んできた。落ちこぼれた凡人相手に負けるつもりはない。

「じゃあまたね、ログ爺」

「ユイこそ。今度は早めに来い」

「借金まみれにならずに済んだらね」

「ふぉっふぉ。まあツケでも構わんから、いつでも来なさい」

「……うん、ありがとう」

 素直に感謝を伝えて、あたしは重い腰を上げて立ち上がった。


   ▼△▼△▼△▼△


『調べちゃいるんだが、まだまだかかるな』

 ログ爺の工房を出てから少しして。

 回線を開き、マックスにゼロとか言う組織の事をたずねた返しがそれだった。

「そんな大組織なの?」

『まぁそれなりにな。この銀河系で見れば中堅。この惑星系に限れば第二位の大手組織だ』

「なら事前に調べてた情報があるんじゃないの?」

 犯罪組織だろうと真っ当な企業だろうと、大きくなればなるほど情報の量が増え、必然的にこぼれ出す情報も増える。

 そういうのをまとめておくのも情報屋の仕事だ。惑星系内で二番手をになうほどの犯罪組織なら、事前情報だけでも十分な量になるはずなのだが。

『あーっとだなぁ、そりゃあ大量にあるが、表向きも大企業で一般人の雇用者が二十万人越えてるんだよ』

「……犯罪組織じゃないの?」

『由緒正しき宙賊ちゅうぞくって奴だな。宇宙進出時代に敗戦国の王族が宇宙に逃げたのが始まりらしいが、その辺りは置いといて。今みたいな多業種合同企業となった先駆けがコンサルティング業務。ま、ありがちだな』

「あぁ、安全を保証する代わりに金払えって言う」

 一定以上に規模を有した宙賊ちゅうぞくにとっては、一般的な表の顔だ。

 古くさく言うなら場所代か。現在となっては警察の力が強いので難しいが、昔は輸送艦とかを捕まえて通行料とかを取っていたと聞く。

『その金で飲食店を始めて、自動車や艦船などのパーツ製造、医薬品とかにも手を出して今や有名企業って訳だ』

「……なんで宙賊ちゅうぞくやってんの?」

『そこはまぁ、宙賊ちゅうぞくを続けたい奴と廃業はいぎょうしたい奴に分かれた結果だな。だから表の顔と言えるほど繋がりが深いわけでもない』

「ふ~ん」

 人に歴史あり。

 宙賊ちゅうぞくの元が王族ってのが事実なら、それこそ歴史であり物語だろう。

『そんなわけで、情報が多岐たきに渡りすぎて精査に時間がかかる。サイトさんが銀河警察を動かしたって事は、≪イミテュート・ゼロ≫の犯行予告が事実だって言う確信があるんだろうが……正直、それがなんなのか分からん』

「そー言えば、他にも犯行声明なり予告なりがあったわけよね」

『そうだ。今回に限って銀河警察に惑星警察、近隣の惑星所属軍にまで支援を要請してモリスの住民避難を始めている。何を根拠にそんな真似が出来るのやら』

 やっぱ天才は違う、と感心した声色のマックスに、あたしは呆れて額を押さえた。

 情報屋として完敗してるって言うのに、そんな事にも気付けないんだろうか。

「無能なりにちゃんと仕事してよ……」

『おい無能扱いはやめろ。単純に縄張りを荒らす相手に対してポリの熱意がヤバいってだけだ』

「確かに縄張り意識は強いけどさぁ」

『だから、俺が情報屋として劣ってるわけじゃなぇ。そこは間違えるな』

 真剣な声色のマックス。プライドを刺激しちゃったらしい。

『兎に角、≪イミテュート・ゼロ≫にしろファティマグループにしろ、モリスを破壊する理由がない。ファティマグループに至ってはこの惑星系が主なだけあって工場や店舗がそこそこあるからな』

「……まぁ、どうでもいいや」

『おい』

 背後関係やら動機やらは、賞金稼ぎにとってどうでも良い事だ。

「その≪イミテュート・ゼロ≫のアジトは?」

『お前なぁ……。拠点がある宙域データを送る』

「はいはい、ってどれが本拠地?」

虚空領域ヴォイドエリアの奴だ。他二カ所はこの惑星系内の拠点ってだけで、全部で二十は確認されてる』

「本拠地のデータは?」

虚空領域ヴォイドエリアの拠点データなんてわざわざ保管してあるはずねぇだろうが』

 マックスが苛立たしげに返してくるのも、まぁ当然か。

 ついさっき≪イミテュート・ゼロ≫がロマロのパトロンっぽいとなったばかりなのだ。そこでいきなり拠点情報やらを一通り提示しろってのが無理な話だ。

 虚空領域ヴォイドエリアに本拠地があると言うのもよろしくない。

 虚空領域ヴォイドエリアとは惑星系と惑星系の間にある何もない領域だ。星間ガスや暗黒物質と言った宇宙に存在する粒子が更に希薄きはくな空間。

 故に、普通の艦船では航行すらままならない。星間ガスを利用したエンジンでは、言葉通り即ガス欠になってしまうのだ。

 同時に、虚空領域ヴォイドエリアの何もないと言う性質は調査の難易度を上げる。

 デブリすらない宙域は、ちょっとした光や音が彼方まで届く。要するに発見されやすいのだ。

 賞金稼ぎとしての自負じふはあるが、さすがにそんな所に突っ込みたくはない。

「ん~……じゃあ、その組織がロマロの為に建造したっぽい施設を探してくれる? クローン云々言ってたから、その辺りの装置から当たれるでしょ?」

『そっちも探してはいるんだが、そもそもクローン自体が違法で細胞の培養装置ばいようそうち以下のパーツから当たるってなると煩雑はんざつに過ぎてな。もうちょい待ってくれ』

「りょーかい」

 軽く答えて通信を切り、スピアフロートを叩く。

 反応はない。『呼んで』と言われていたから、音声認識なんだろう。

「おーい、サイトさんや」

『……何かありましたかっ!?』

「おう。忙しそうね」

『当たり前じゃないですかっ! 指示を聞かないどころか邪魔をするような奴らばかりで……くそっ』

「キてるわねぇ」

『……用がないなら切りますけど』

 レンズ越しにもにらんでいるのが分かる声色で、あたしは思わず苦笑してから口を開いた。

「いや、なんで今回の予告が本命だって分かったのか知りたくて」

『あぁ。……すぐに発表されるでしょうが、ホワイトマンを一人確保したんですよ』

「……はい?」

 思わぬ言葉にあたしは首を傾げたものの、すぐに半眼をレンズへと向けた。

「ならなんでさっきは黙ってたのよ」

『……ホワイトマンの確保に関しては、公表するつもりがなかったからです』

「ん……ん? なんで無事なの?」

『その少年は、最初から意識がなかった。ホワイトマンの特徴とくちょうを有した彼を、我々は保護した。……それが二日前の事です』

 苦々しい口調で、サイトは続ける。

『ロマロはクズです。ですが、その技術を求める者は多い。結果として少年は警察の研究機関で検査される事になりました。その彼が目覚めたのが、犯行予告のすぐ後です』

「……あいつならやれそうではあるわね」

 犯行予告の前後に目覚めるよう調整した少年を送り込んだ。

 普通なら不可能と言う所だが、ロマロだ。目覚めるタイミングを調整できたとしても不思議はない。

『少年が持っていた情報から、標的がモリスであると断定しました。……ホワイトマンに関しても、避難ひなん誘導ゆうどうの為に公表せざるを得ず。数時間以内に、少年の放送があると思います』

「……避難、そんな酷いの?」

ひかえめに言ってもクソですね。自分が今までどれだけ恵まれた惑星の担当をしていたか、身にしみていますよ』

 切実な声色だ。

 サイトの名声が広まっている地域かどうかの違いも大きいんだろう。少なくともあたしは、会うまで知らなかったし。

「ふふっ。ま、頑張って」

『仕事ですからね。それでは』

 相当忙しいのか、すぐさまレンズが赤に変わった。

 呼び出した理由はもう一つあったんだけど、まぁいいか。

「アマガサ、艦籍かんせき照合しょうごう

 その言葉に、レーダー上に表示されていた三機の機影に未所属と表示され、その下にいくつかのデータが並んだ。

「三世代前の市販機にステルス塗装、ね」

 アマガサはログ爺達が作り上げてくれた最新鋭機だ。センサーの精度が高いと言うより、質が違う。

 だからこそ、ステルス塗装なら無いも同然だ。

「これなら問題ないかな」

 相手は三機。距離五十キロの位置を保って、三機で三角形を作るようにして併走へいそうしている。

 とはいえ、三世代前の機体。代替だいがわりが早いので未だに現役の機体ではあるが、そんな機体に乗っているという時点で技量を察せるというものだ。

 ちなみに、形は球状。宇宙用の戦闘機としては最もメジャーな形状である。

 次いでメジャーなのが正多面体せいためんたい。戦闘機であるがゆえに、どちらを向いているか分からない形状が好まれると言うのもあるが、衝撃の流しやすさ、塗装のしやすさ等、様々なメリットがある。

「アマガサ、ステルスモード」

 指示を与えると同時にデコイを射出。一瞬逆噴射を行い慣性航行かんせいこうこうの速度を落とす。

 ズームで目視確認されていれば無駄だったが、三機は異変を察する事無く進んでゆく。

 こうなれば一機目は安全にとせる。情報源にする為に生け捕りにしたいところだ。

 どれを狙っても同じなので、上にいた機体へと向かう。

「そしたらデコイを少し加速して……」

 ボール型の後ろに付いたものの、慣性航行中は鉄の球体だ。なのでデコイを操作して少しだけ加速する。

 それに合わせて加速する為に、ボール型の外壁がスライドした。

 その下から現れるのは、四本のエンジンノズル。ポッと音が聞こえそうな勢いで炎が溢れ、ボール型も加速する。

 狙うのはそのエンジンノズル。アマガザが表示してくれた機体情報的に、見えている四本が壊れるだけでも回路に大きな影響をおよぼぼし、動けなくなるならしい。ちょっとした不具合でも動かなくなるのは、量産型の一般機では良くある事だ。

 ターゲットを中央にとらえ、スイッチ。

 放たれたのは二つの光弾、フェザーバルカンだ。

 アマガサに搭載とうさいされた武装の中で、最も火力が低い二門。二発出たのは、その二つが連動しているからだ。

 ちなみにこのフェザーバルカン、一般的なエネルギー兵器であり『羽のように少ないエネルギー消費で済む』と言う意味から、威力をおさえたエネルギー兵器全般がフェザー○○という名前になっている。

 とはいえアマガサのエンジンは反物質。生成するエネルギーは膨大ぼうだいで、フェザーバルカンにしてもそれに合わせた作りになっている。

 つまり、威力をしぼりバルカンを単発にしてさえ、ボール型のエンジンノズルは派手に爆発した。

「おう……。あ、生きてる」

 爆発でバラバラになったように見えたが、コックピットは無事だったらしい。

 ほっと胸をなで下ろし、あたしは残る二機へとアマガサの機首を向けた。

 レーダーで見る限りは射撃を行っているらしいが、目視で確認できないほどにはずれている。哀れなほどの性能差だが、追跡ついせきしてきた方が悪い。

 フェザーバルカンを四発ずつぶち込んで、終わり。 

 デコイを戻し、ケーブルを取り付けて再射出さいしゃしゅつ。無事だった敵のコックピットに張り付けて牽引けんいんする。

「マックス~」

『ンだよ。この短時間で情報なんざ欠片も変わらんぞ』

「そんな事分かってるわよ。そーじゃなくて、あんた拷問得意だったわよね?」

『……頷きたくはないが、まぁ情報を聞き出すのも業務の一環だな』

「じゃ、襲撃してきた奴連れてくから、聞き出しお願い」

 その言葉にマックスからの返事はしばし止まり、唐突にスクリーンが開いた。

『お前何した』

 どアップのマックスに苦笑して、あたしは肩をすくめる。

「尾行されててね。一人生け捕りにしてるから、その辺りの理由とか調べて欲しいんだけど」

『……ポリじゃねぇだろうな』

「だとしても所属不明機で追跡してる時点でアウトでしょ」

『そりゃそうだが……宙賊ちゅうぞくがらみである事を祈るばかりだな。追跡されてた証拠となるデータはこっちに送っとけ。以上だ』

 一方的に通信を終えるマックス。

 ちょっとイライラして見えたのは、捕まえたのが宙賊ちゅうぞく以外だった場合の面倒事を考えてだろう。

 艦籍不明というのは、どこにも所属できない艦という証拠。この世界で最も力が強い宇宙警察が定める宇宙法において、全ての宇宙船は登録義務があり、惑星、あるいは組織に所属しているという登録がない限り法の適用外であると明記がある。

 つまり撃ち落としても何の問題も無いのだが、現実とは厄介やっかいなもので色々とあるのだ。

 普通は保険にぐらい入って保険会社に登録していると言う艦籍ぐらいは得るのだが、それすらしない金持ちの馬鹿息子が撃ち落とされて大問題になったりする事がままある。賞金稼ぎとしては法に問題ない以上どんな金持ちだろうと王子だろうと遠慮えんりょしに撃ち落とすのだが、その苦労を背負うのがハンターギルドと、それに加盟している職員だ。

 本来なら末端のマックスにその負担が向かう事は無いのだが、ギルド加盟店としてのランクがあり、マックスはかなり高い。だからこそロマロ絡みで大型艦が買えると豪語ごうごする程度にはマージンを取れるのだが、反面問題の対処たいしょにも駆り出されるというわけだ。

 ある意味自業自得なので、八つ当たりはやめて欲しいもんである。

「さて、こいつらがロマロ絡みの宙賊ちゅうぞくだとありがたいんだけど」 

 期待はしていないが、このタイミングであたしを襲ったって事は、そこらへんの繋がりを持った末端の可能性は高い。

 惑星警察だとしても、艦籍不明で尾行をしたって事でお金をしぼり取れそうだし、ちょっと楽しみだ。

 まるで宝くじを買った直後みたいなわくわくを抱えつつ、あたしはマックスの艦へと向かってアマガサを進めたのだった。

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