余話:手紙
ローゼへ
あんたってどっかその辺の子たちと違うところあるから、最初に聖剣の主なんて話を聞いた時から「あ、これは行くな」って思ったわ。
嬉しくないけど予想通りだったわね。まったく。
そうそう、あんたの家族が妙なこと言ってたでしょ。
あれの種明かしするわね。
全員に「ローゼはアナタのために王都で売ってる〇〇を買いたいって言ってました。だから大神官に頼んで王都へ同行させてもらうそうです。これは他の家族の人には内緒ですよ」って話したわけ。
例えば、あんたのおじいちゃんね。これはフローラに
「ローゼのおじいちゃん! おじいちゃんはいいね、ローゼに愛されてて! あのね、ローゼってばおじいちゃんが腰痛に困ってるから、王都に行って、とっても効く腰痛の薬買いたいんだって!」
って言ってもらったわけよ。
「だからね、今来てる大神官様に一生懸命お願いして、一緒に連れて行ってもらえることになったんだって、さっき内緒で教えてもらったの。
でも家族に心配かけちゃうでしょ? だからこっそり出かけるつもりみたいなんだけど、どうやってこっそり出かければいいか悩んでるみたいだから、おじいちゃん味方になってあげて!」ってね。
それを他の5人の子にも頼んで、あんたの家族全員にやったわけ。
イレーネは除いてね。あの子は聡いからこういうのに絶対引っかからないじゃない?
そもそも全部を知っててカギになってくれる子がいた方が嘘も落ち着くし、いい具合に嘘の手助けをしてくれるはずだから、あえて本当のことを言っておいたわ。
それにしても、他の家族は全員あっさりと了解したみたいよ。あんたの家族って、たんじゅ……じゃない、あんた信用あるわねぇ。あら、これは皮肉じゃないわよ。
正直なとこ、あんたってどっかフワフワしたところあるから、多分家族も「ローゼはこの村でずっと落ち着いて暮らす」なんて思ってなかったんじゃないかと思うのよね。
心のどこかで、いつかどっか行っちゃう子だ、それが今来たんだ、って思ったんだと思うのよ。
なんでそう思うかって?
私も、乙女の会の子たちもそう思ってたからよ。
あんたが大神官様と一緒に行くって聞いた時、私はびっくりしたわよ。
今回あんたがいなくなっちゃう話の詳細は、他の子にはしてないわ。フローラたち5人にもね。
でもあの子たちはあんたと仲良かったし、何も聞かずに協力してくれたわよ。
意外とみんな、いなくなったことはあっさり納得してたわよ。
それから、絶対に戻ってくること。いい?
村の外では何があるか分からないんだから、気を付けるのよ。
正直言えば、あんたが聖剣の主様になるとかならないとか、王都に行くとか行かないとか、どうでもいいのよ私は。
とにかく、ちゃんと帰ってきてよね。
これだけは何があっても守って。
守らなかったときは、ただじゃおかないからね!
――ディアナ・ランセル――
追記:一応書いておくわね。
あんたのお祖父ちゃんには『腰痛の薬』
お祖母ちゃんには『高級な毛糸』
お父さんには『希少な種』
お母さんには『高価な香水』
マルクには『帽子』
テオには……あらこっちも『帽子』
を買ってくるって言ってあるから、それ覚えておいて。
もちろんイレーネのことも忘れないわよね?
私たちには、そうねぇ、あんたの『気持ち』でいいわよ!