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未だ何も承知しておらず、事実関係を調査中。

「とんでもない。自衛隊は()()()()()()()()()でございまして」


 黒岩法制局長官の言に閣僚らはまた少し沸いた。


「結局のところ、憲法や法律は改正することができます。法律は簡単に改正できますが、憲法を改正するのには高いハードルがあるわけで。まず発議まで持っていくことができますか?」


 そう黒岩は続けた。憲法改正には、衆参両院で総議員の3分の2以上の賛成が必要である。そしてさらに国民投票にかけられ過半数の賛成をもって初めて改正できるのだ。日本国憲法は硬性憲法に属するとされ、改正は困難だ。


「この前の選挙で3分の2取れなかったからな」


 こうぼやいたのは、西野昂経済産業大臣(58)であった。同年夏の参議院選挙において、与党自由党は野党第一党の民政党に大勝を収めたものの、そのひとつ前、2019年の参議院選挙では自由党は辛勝であった。参議院では自由党及び連立を組む公益党で、議会の3分の2を占められなかった。なお、衆議院においては、自由党と公益党合わせた与党勢力は3分の2に達している。


「何議席足らないんですか?」


 そう声を上げたのは石田義武文部科学大臣(57)だった。石田は初入閣の議員であり、閣議ではいわば一兵卒であり、丁寧な物腰で知られていた。


「23議席足りません。57%しか持っていないのでむしろ過半数を手放す方が早い、そういったレベルです」


 そう答えたのは嘉納官房副長官だ。


「ありがとう」


 紳士は礼を欠かない。


「一つ大きな問題として、この情報をメディアが掴んだ時どうするかは考えておくべきでしょう。米国では厳重に情報管理を行っていて、11月初旬になるまでは撤退のての字も漏らさない覚悟だそうです」

「どうせどこからか漏れるよ」


 成瀬外相に東郷官房長官がそう呈した。


「まあでも、とりあえず誰にもこの件は話さないように。あくまで米国が発表するまでは絶対に他言無用でお願いします」


 そう東郷は続けたが、本心としては、この総理執務室には20人近くの人間がいる以上、情報が漏れないほうがおかしいと思っていた。


「総理、大丈夫ですか」


 浜田防衛大臣は由良木を気遣った。明らかに由良木の表情が優れない。それはこの場にいた全ての閣僚で見解が一致しただろう。


「あぁ…」


 由良木の声には力がこもっていなかった。由良木はこの頃から徐々に心身に異常をきたしていくのだった。



10月17日(月) 夕日新聞朝刊 一面見出し 『在日米軍撤退か 政府高官』


「おいおい、困ったことになったぞ」


 東郷は長官に目を通すや否やそう言った。彼は、私邸で朝食の食パンに手を付けるところだったが、中断せざるを得ない事態となった。


「どっから漏れた。クソ!」


そして、一目散に首相官邸の総理執務室へ急行した。東郷の脳裏には思い当たる閣僚が思い浮かんではしぼんでを繰り返していた。あの場にいたのは大臣だけじゃない官房副長官か?いや嘉納はそんな事をするはずもあるまいて。



 総理執務室に入るや否や、東郷官房長官は部屋の主に理不尽な罵声を浴びせられた。


「おい東郷!これどういうことだ!」

「総理、私に言われても困ります!」

「先生方、一度落ち着いてください」


 そういったのは斯波首相補佐官だった。斯波は仲裁に長けた人物であり、かつて政調会長であった頃の由良木を調整が得意な能力を生かして支えていた。


「ともかく、東郷さん、記者会見があるでしょう。追及されること間違いないよ」

「それは何とかして見せますよ。官房長官何年やってるとお思いですか。せいぜい華麗にかわします」

「ハハハそうか…まぁ良い。米国に詫びを入れといた方が良いかな」

「そういった事は駆け引きの上手い男に任せましょう」


 駆け引きの上手い男とは、成瀬外相のことである。拉致問題交渉において北朝鮮に拉致を認めさせたのは彼の手腕によるものだったと言っても過言ではない。実際、他の人間の手柄と言うことにはなったが、彼の能力を東郷は見逃さずに見抜き、由良木内閣では外務大臣に抜擢された。


 そしてまた東郷は人を見る目があった。彼に限らず由良木内閣が組閣された際、抜擢人事やサプライズ人事と呼ばれる類のものは、この東郷が一枚噛んでいるものがほとんどで、自由党内では、「人事の東郷」として通っている。


「長官、そろそろお時間です」


 家村直人内閣官房長官秘書官(56)の声がした。記者会見に向けての準備を急がねばならない。


「では、総理、失礼します」


 人事の東郷は颯爽と総理執務室を後にした。一つ東郷には心残りがあった。総理の具合は芳しくないのではないか?いやそんな事は今気にしている余裕はないか…。そして彼は一日二回の定例記者会見に向けての原稿に執務室で目を通した。そして…。


同日 官房長官定例記者会見(午前) 首相官邸記者会見室


「西京新聞の瀬川です。本日、各社から報道のあるように(中略)、こうした在日米軍の撤退、またはこうした事を検討しているといった事はありますでしょうか」


「まず、現時点では何も承知しておらず、事実関係を調査中であり、米国側もそう発表していると、これしか承知していない。また日米同盟は強固であり、在日米軍の必要性を両国が深く理解し、あらゆる分野において、緊密に連携をしていく事が望ましい、と、こういう事であろうかと思います」

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