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自衛隊は戦力ではなく、実力であります。

同年10月11日(火) 閣僚懇談会 首相官邸閣議室


「それでは閣議を終了し、閣僚懇談会に移ります」


 閣議の司会進行を務める、東郷龍太郎官房長官(70)はそう言った。閣僚懇談会は閣議の後に続けて行われる慣例で、閣議で取り上げられなかった議題がこの席で了承されることもあり(例:災害等非常時の給料一部返納)、閣僚が自由に意見を述べたり、情報交換を行ったりすることができる。


「この前の訪米で…」


 由良木はそう切り出した。帰国直後の閣議では、まだ情報も少なくこの件には触れていなかったが、昨日の藤堂NSS局長らとの面会を受け、ある程度情報が集まった上で閣僚らに伝えた格好となった。


「大事ですな。関係閣僚は総理執務室へお願いします」


 官房長官の言により、閣僚らは総理執務室へ向かった。といっても、全員で列をなして一つ上の階に上がっただけである。



閣僚らと面会 総理執務室


「では改めて、話の続きだが(中略)、ということでかなり憂慮すべき事態となっている」


 既にこの件を知っている成瀬外相、嘉納副長官、また既に首相からこの件を知らされていた浜田昭彦防衛大臣(57)を除き、閣僚らは驚いた。だがただ一人異なる反応を示した人物がいた。


「いやぁ、ベネフィットさんも随分狂っておいでですな」


 そう述べたのは岡本明農林水産大臣(42)である。与党自由党の将来が有望視される若手議員で、若さにして異例の大臣起用となった男だ。遠い将来の総理大臣候補でもある。


「ただ東郷先生がゴリ押しただけで、本当に大臣の器なのか?」


 霞が関、取り分け農林水産省の官僚は時期尚早と囁いたが、人事権を握っているのは由良木であって、より影響力を行使でき得るのが東郷である事は明白である。


「岡本、そういうのは懐にしまっておけ」


 東郷がたしなめた。東郷は岡本農水大臣の所属する派閥の先輩であり、半ば岡本の後見人を務めていた。東郷は、岡本の暴走を止めるお目付け役とも言えただろう。


「すいません…」


 岡本は東郷に頭が上がらなかった。


「うちの若いのが失礼しました。にしても総理、昨日の藤堂さんとの面会でも大統領の要望は実現不可能と言われたとのことですが、どうするおつもりですか。一旦見なかったことにするおつもりですか」


 政治の世界において隠蔽とは何か聞かれた東郷はこう答えた事がある。

「表現の自由の中には、あえて表現しない事も含まれるのではないかな」


「いやそんなことは…」

「総理、一点よろしいですか」


 発言を求めたのは、成瀬外相だった。由良木は黙って頷いた。


「昨日、日米間の局長級協議をワシントンで行いました。先方のグレグソン国務次官補より、率直に以下3点伝えられました」


 そう言うと成瀬は手渡されたメモを読み上げた。


「1点目、米国は、先のパンデミックを踏まえて、対アジア戦略に留まらず根本的に安全保障戦略の再構築を行うことを最近検討していた。2点目、アメリカ国防情報局、以下DIAとしますが、このDIAから大統領に対して進言があった模様だが、我々も最近知らされた話でまさに寝耳に水であった。3点目、日本側の今後の安全保障体制においては、緊密に連携を続けることは変わらない。以上であります」

「いやだから変わってるだろう…」


 そうぼやいたのは浜田防衛相だった。浜田は、数日前に由良木から呼び出され、まさにここ総理執務室でこの件について聞かされてから、対策に追われ一段と忙しくなっていた。


「米国とはそういう国だ…一方的な要求ばかり、そして普段は優しいが、時に国益がぶつかると本当にやっかいで追い詰められる」


 そう述べたのは沢渡直哉副総理兼財務大臣(74)だった。沢渡はかつての貿易摩擦の事を思い出していた。


「そういや法制局長官、法律的な見地から何か見解は?」


 東郷が尋ねた。内閣法制局とは主に立法する法律が他の法律に矛盾したり、比べて表記揺れが無いかなどを審査する、いわば、法律のプロの集まりである。また内閣法制局長官は、官房副長官ら(政務担当2人、事務担当1人。また、官房副長官はこの3人しかいない)と共に閣議に陪席する。彼らは閣議室の円卓の外の長方形の卓に座っていて、意思決定には参加できない。


「総理が先に仰った通り、現行の法律での対応には無理があり、例えば自衛隊法などの改正は必須でしょう」


 黒岩秀仁内閣法制局長官(64)はそう述べ、続けた。


「軍隊を持つと言いますが、憲法にもやれ戦争の放棄だの、戦力の不保持とか交戦権の否認とか謳ってますでしょう?政府の憲法解釈は、自衛隊は軍隊ではない、ですからね。自衛隊は…」

「ああアレか…暴力装置」


 誰かがそう言うと、同席する閣僚らは嗤った。過去にそんな事を答弁した奴もいたなと。そして、黒岩も若干表情が緩み、少々ふざけるような調子で言った。


「とんでもない。自衛隊は、()()()()()()()()()でございまして」

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