表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/33

「最低限の戦力」は台湾に及びません。

同年10月10日(月) 総理執務室 藤堂国家安全保障局長らと面会


「まず、ベネフィット大統領の発言を整理しますと、第一に、在日米軍の撤退。第二に、自衛隊の軍隊化。この二つです」


 藤堂はそう切り出した。由良木、それから同席する二階堂康生内閣情報官(62)、防衛省の桐生一成防衛政策局長(59)、大谷勇夫情報本部長(55)はその説明に耳を傾けていた。


「自衛隊の軍隊化にはハードルがあります。もしベネフィット大統領の言う通り来年一月から撤退を始めるとすると、これから約三か月後ですから、それまでに新たな体制を確立しなければ、国防体制の空白が生じてしまう訳です」

「間に合うのか」


 由良木はそう問うた。


「到底不可能と言わざるを得ません。総理には、現状の安全保障環境をご覧いただきたい」


 資料が配られた。由良木は眉をしかめた。日本周辺の脅威は多くあり、在日米軍なしに自衛隊だけでこれらに全て対応することは不可能だとあったからだ。


「北方領土問題、核・ミサイル問題、南北朝鮮統一問題、竹島問題、尖閣諸島問題、中国の戦力の近代化、中台問題、西沙・南沙問題など我が国は常に沢山の問題を抱えています。米国は、有事の際に、日米安保条約に基づき、米軍を即応展開し、自衛隊が保有しない能力・アセットをもって『抑止力』を構成・提供します。つまり…」

「つまり?」

「米国の軍事的プレゼンスは、不透明・不確実な要素が存在するアジア太平洋地域の平和と安定を維持するために不可欠です。在日米軍なしに今の自衛隊だけで対応することは不可能です」

「だがしかし、ベネフィットが撤退するというのだから仕方ないだろう」


 由良木は若干語気を強めた。藤堂は至って冷静に応じた。


「総理は、自衛隊の戦力をご存知ですか?」

「最低限の戦力を保有しているんだろ?」

「自衛隊の陸上兵力は14万人、艦艇は134隻、作戦機は400機です」

「それは多いのか少ないのかわからんな」

「資料の次のページをご覧ください」


 次のページには表があり、各国の陸上兵力、艦艇、作戦機が並べられていた。この数値は、陸海空の戦力の概観をよく表す物として、防衛白書などで良く用いられる。


「こんなに貧弱なのか…」


 由良木は仰天した。以下にそのデータを示す(陸上兵力(海兵隊があればその兵力)、艦艇、作戦機の順)。

極東露:8万人、260隻(63万t)、390機

韓国:50万人(2.9万人)、240隻(21.3万t)、620機

北朝鮮:102万人、780隻(10.4万t)、560機

中国:115万人(1万人)、740隻(163.0万t)、2720機

台湾:13万人(1万人)、390隻(20.5万t)、510機

日本:14万人、134隻(47.9万t)、400機

米第7艦隊:30隻(40万t)、50艦載機

在日米軍:1.6万人、150機

在韓米軍:1.5万人、80機


「数値だけ見れば、台湾並みです」

「おい、これじゃ完全に戦力外通告じゃないか」

「もちろん最新兵器を米国から購入しているので決して数値が全てという訳ではありません。ただ、尖閣周辺には毎日のように中国艦がうろついているんです」

「なるほど」

「今の状態で、在日米軍の存在が無くなるのは非常にまずい。もちろん撤退後も米国が後ろ盾にいることには変わりないですが」

「これは…」

「ベネフィット大統領はそういう事で、自衛隊の軍隊化と憲法改正が必要になると、こういう事だろうと考えられます。ですが、どう見積もっても、戦力の増強と憲法改正等の、『国防体制の刷新』を三か月で行うのは不可能です」

「うーむ…」


 由良木は俯いてしまった。この戦力データを見てはぐうの音も出ない。


「わたくしからもよろしいでしょうか」


 発言を求めたのは桐生防衛政策局長だった。防衛政策局とは日本の防衛や安全保障に係る基本方針や政策の企画や立案、調整などの役割を担う防衛省の内部部局である。


「防衛政策局から一点追加させていただきますと、近い将来米国が中国に本格的に戦争を起こした場合のシナリオですが、日本も参戦する事になろうかと思います」

「まぁそうなるだろうな」

「戦力の増強とは、他国に攻撃が可能なレベルでの増強であって、防衛に徹する上で必要な戦力には、全く留まらないということになります」

「それを野党が聞いたらと思うとゾッとするね」


 そう二階堂内閣情報官は漏らした。由良木も、このことを国会でいずれ説明する日が来た時、国民は納得してくれるのだろうかとか、そんなことを考えていた。


「必要が、君らの国民を動かす。か…」


 由良木は日本国の総理というプレッシャーを意識するようになっていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ