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停滞でなくて後退。

 2022年12月13日、ルドルフ・W・ベネフィット米大統領は国家安全保障会議(NSC)において、2点を決議した。


 一つは、極秘裏に検討されている、自衛隊の北朝鮮からの拉致被害者奪還作戦に共同する事、もう一つは在日米軍撤退の一年間の延期であった。ほとんどこれはベネフィットの専制的な主導に基づく決議に思えたが、出席者から異を唱えられなかったのには、日本政府の根回しがあった。


 具体的には、会議に先立って、日本の大和龍臣首相の指示の下、一ノ瀬康世副総理兼財務大臣がオブザーバント米副大統領に、浜田昭彦外務大臣がホープ国務長官が急遽非公式で会談を持ち、席上での説得が行われたとの見方が有力である。


「つまり総理は、俺が鳥羽の訪米を事前に知らせなかったことを後悔させたいのだろうな。直接言えばいいものを、回りくどい事をする…」


 八神安保対特別顧問筆頭は、官邸地下のオペレーションルームでそんな感想を漏らした。


「政治は結果主義。そうだろう?」


 鳥羽光希特別顧問はそう応じた。鳥羽はビトレイヤー国防長官との面会から帰国した直後だった。彼は、婉曲に自らの成果を強調したのである。


 八神は目を細めて鳥羽を見つめ、それから席に着くと、


「みんな聞いてくれ」


 と、特別顧問会議を始めた。春夏秋冬花鳥風月はそれに従い着座した。


「ここまでの核ブラフ作戦の総括か」


 花山晴仁特別顧問はそう切り出した。司会とまでは行かないが、会議を会議らしく始めるのは兄貴分の彼の持つ一つの役割だった。


「そうだ。まず第一段階についてだが、ついては月詠が上手くやってくれた。むしろ上手く行き過ぎたくらいだが」

「褒め言葉と受け取ります」

「そして国内の目を一旦逸らした上でのこの第二段階だったが、作戦目的は十分に果たせた。ってことで良いだろう」、

「褒め言葉が無かったぞ」

「失礼。鳥羽君のおかげで、第二段階は成功した」

「賢明な思考でね」


 第二段階における目的とは、アメリカという大国を意のままに操る事と言っても過言でもない。すなわち米中戦争を引き起こしたいベネフィットの思惑を逆手にとって、拉致被害者の奪還という餌をぶら下げることにある。


「向こうのセルフィッシュ安全保障担当補佐官には相手にしてもらえない可能性があったからね」


 八神の目論見通りに事は運んだ。ビトレイヤー国防長官からベネフィット大統領に上申され、ベネフィットは間違いなく食いついて来る。彼は利益を与えさえすれば動かせると。


「今のところはよくやっているが、まだまだ先は長いな」


 夏川綾斗特別顧問の言う通りだ。八神は自分でもアホらしいとさえ思う。絵空事を現実に描く超能力まがいの事が、自らに要求されている事への嘲笑の心があったのだろう。


「総括はこのくらいにしよう。総理に報告に行ってくる」


 八神は席を立った。



 官邸5階の、総理執務室に入った八神は、大和首相に作戦経過を報告した。一ノ瀬副総理も同席した。


「ご苦労」

「では、次の第三段階の説明に移りたいと思いますが」

「その前に、気になることがあるんだ」


 話を折ったのは一ノ瀬だった。


「ホワイトハウスで不穏な動きがある。詳細は不明だが、聞くところによると、誰かが機密情報を垂れ流しているのではないかと調査が行われていて、何でもベネフィット大統領腹心のセルフィッシュが主導しているらしい」

「誰が疑われているんですか」

「知りたいか」

「ええもちろん」


 八神は身を乗り出した。大和も同様に身を乗り出した。一ノ瀬は若干もったいぶった。その長さが一ノ瀬の口からビックネームが飛び出してくるのではないかという悪い期待を高めた。


「マイケル・ビトレイヤー国防長官!!!」

「何と!」


 八神は戦慄した。彼の今孔明とも呼ばれる極めて優秀な頭脳が、ほとんど反射的に、自らの作戦プランにひびが入る可能性を感じたからである。


「そこで一つ提起したい。我々の官邸の中にも、悪い奴が潜んでいるのではないかってね」

「調査が必要という事ですか。確かに、アメリカでの事案が収まるまでは彼らも軍を動かしにくいかもしれないな。八神君。ここは一旦立ち止まろう」

「承知しました」


 思わぬ横槍は、事態の停滞ではなく後退を招くのである。それは八神にとって、最も招かれざる客人であった…。

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