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大統領の言はあまりに挑戦的であります。

「なんと⁉ ベネフィット大統領がそんなことを…」


 一対一の会談での内容について、最初に詳細な共有が行われたのは、ワシントンから帰国中の政府専用機内であった。


 この時機内にいたのは、会談に同行した由良木恭輔首相(65)以下、成瀬耕司外務大臣(60)、嘉納恒寿官房副長官(51)、藤堂浩之国家安全保障局長(71)、斯波茂夫首相補佐官(52)の五名だった。


 なお、政府専用機たるボーイング777-300ERは2機運用されており、本来、政府専用機は主務機(要人搭乗)と副務機(随行者搭乗)に分かれて搭乗するものである。


 しかし、皇嗣殿下の英国訪問に日程が重なったため、特別運用とし、5名が1機に同乗するフライトとなった。3機目の購入はこれまで2度検討されたが、大蔵省(財務省)の査定によりハネられた過去がある。


 これに伴い、万が一の可能性があるとして警視庁警備部警護課は若干の難色を示し、全日本空輸の特別機への搭乗を上申したが、由良木の強い意向により押し切られたものである。


 驚きがある程度落ち着いた後、口火を切ったのは成瀬外務大臣だった。


「遂にイカれたか。ベネフィットの悪党…」


 成瀬外相の評価は辛辣を極めた。成瀬はよく喋る明るい性格の持ち主であって、このような事を言う男ではないが、外務省を束ねる身としていよいよ米国の要求への不満が爆発したようである。幸か不幸か、その声が可聴域限界の低さだったゆえに、誰の耳にも入らなかった。


「そうは言いますが総理、ベネフィット大統領の要望を実現する事はどう考えても困難です」


 嘉納官房副長官は由良木の側近中の側近だった。


「嘉納君はいい意味で枠にとらわれた常識的な考え方が出来る。由良木が重用するのも頷けるが、果たして非常時にあっても彼はそれが出来るのかな」


 とは、「人事の東郷」の異名を持つ、東郷龍太郎官房長官の評価である。


「私も同感です。国家安全保障局としては、米軍無しに国防は不可能だと申し上げたい」

「そんな事はわかっている」

「小手先の解釈改憲で再軍備を認めるのは難しい。本気で憲法を変えようにも、憲法改正には世論の反発も容易に予想されますし、マスコミもその総力を挙げ全力で政権を叩いてくるのは必至です」


 嘉納官房副長官は続けて次の提案をした。


「ともかくここは、正式な話し合いの場を米国と設けて、詳しく説明を求めるべきかと」

「求めるというか、こっちが教えてやらないといけない事が多そうだな」


 藤堂国家安全保障局長はそう呟いた。


「となると成瀬くん。君の出番だね」

「はい。帰国次第すぐに外務省の総力を挙げて、急ぎ行わせます。お任せください」

「ところで大臣、サンダース国務長官との会談では何もなかったのですか」


 そう聞いたのは斯波補佐官だった。斯波も由良木から信頼の厚い側近の一人だった。


「全く無かった。国務長官とは、北朝鮮と経済の問題しか主に話していないな。特に普段と違った雰囲気もなく終始和やかだった」

「米国の足並みは揃っているんでしょうか。事前の予備交渉では一言も、示唆さえされていなかった訳ですし」


 斯波はそう言った。ベネフィットの要望が、政権内でよく検討されたものだったのか疑問を抱いていたのだ。

 口から出まかせとまでは言わないが、突然が過ぎる。ベネフィットの独断専行だとすれば、そこを突けばワンチャンスあるかもしれない。最も、妄想の域を出ないのだが。


「想定外だ。良くある事だろう」


 良くあっては困る。斯波は言いかけたがやめておいた。恐らく成瀬大臣もその事は分かっての発言だろう。


「藤堂さん、この件は一旦NSSで良く検討してほしい。早く結論を出してほしい。また緊密に各省と連携して、特に防衛省から話をよく聞きながら進めてくれ。」


 由良木はそう言った。

 NSSとは国家安全保障局(National Security Secretariat)の事である。

 NSSは国家安全保障に関する外交・防衛政策の基本方針・重要事項に関する企画立案・総合調整に専従する機関であり、国家安全保障会議(略称:NSC)を恒常的にサポートする。

 国家安全保障局長は、国防以外の緊急事態の事態対処の実働を担う内閣危機管理監と同位の大臣政務官級であり、両者は常に連携しながら職務にあたる。


 ざっくり言うと、内閣官房の持つ安全保障担当の事務局で、局長はそれなりに偉い。


「承知しました」

「出来れば、いや必ず、今週中に報告をしてくれ」

「はい」


 藤堂は最低限の言しか喋らない、寡黙な人物だった。由良木はそんな藤堂を信頼していた。打って変わって、成瀬は明るく、よく喋る男だった。が、明るい事は決して悪いことではない。由良木はそう思っていた。


「お話し中に失礼致します」


 入ってきたのは伊端首相秘書官(政務担当)(54)だった。

「総理。そろそろお休みになられてはいかがでしょうか」

「そうだな。ではこれで、失礼する」


 政府専用機は日本時間同日夜、羽田空港に着陸した。

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