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窮鼠は猫をも噛むのだ!

「拉致被害者の奪還にご協力頂きたいのだ」


 鳥羽光希に向かってビトレイヤー国防長官は怪訝な顔をした。


「米軍の撤退期限の延長を申し込みに来たのかとばかり思い込んでいたが、なぜこの時期にそんな事を?」


 ビトレイヤーは交渉者に対して極めて妥当な返答をしたと言えよう。と同時に、身構えもした。この自分の半分ほどしか年を重ねていない人間が何を考えているかが掴めない以上、迂闊な返答は出来ない。


「これは極めて機密度の高い情報ですが、貴官は我が国が核武装を検討しているという言説を耳にしたことがございますか」

「在日米軍経由でそちらに何度か既に問い合わせているが、全くそのようなことは意図していない、はっきり言って『何か悪意を感じるデマ』だと聞いている」

「そうですか。それはさておき、在日米軍という後ろ盾を失うと、ますます我が国は北の持つ核の脅威にさらされるのです。となると拉致被害者の奪還は絶望的となるとは思われませんか」

「だからこそ、撤退の前に一仕事やってくれと言いたいのか?だが、悪いがそれは貴国の問題だろう」


 ビトレイヤーは若干の怒気を含ませている風を装った。米軍を何かおもちゃのように勘違いしているのではないだろうな。という、圧力である。


「時に、自衛隊の再軍備をベネフィット大統領は望んでいるようですが」

「君の話は随分と要領を得ないな。話題が定まっていないぞ」


 鳥羽は、思ったことをすぐ口にしてしまうような性格であったから、込み入った話となると話題が二転三転してしまって要領を得ないという短所があった。ゆえにこれは、若衆のように親交の深い連中からすれば「鳥羽」だから仕方ないという話なのだが、ビトレイヤーからすれば返って鳥羽に対する猜疑心を深める結果となってしまったのである。


「申し訳ない。こういう性分なものですから。つまり、こうです。我々は改憲をして再軍備したいのですが、世論と野党が同意しないのです。ですから軍隊を持つ必要性を彼らにわからせるために、未解決問題である拉致被害者の奪還を軍事力で完遂出来る事を示したい。そのために在日米軍には協力を求めたいのです」

「……」

「ベネフィット大統領は日本を再軍備させて戦力としたいのでしょう?あなたは否定されるかもしれないが、八神海斗は見抜いておられる。であれば利害は一致しているのではありませんか」


 冗談じゃない。そう両者は考えていたに違いない。発言者からすれば、核を持っているフリだけで、自分がちょうど今発言した内容の事を含めた、森羅万象の日本の国防を成そうとは、核の狂信者そのものではないかと皮肉の一つも八神に言いたいところではある。


 一方拝聴者からすれば、いくら利害の一致が見られるとしても、日米が合同で、北朝鮮から拉致被害者を奪還せんと武力行使すればどうなるかわかっているのかとそう思うのだ。


「失礼だが、鳥羽君。君は『中朝友好協力相互援助条約』を存じておられるのか」


 同条約は中国と北朝鮮の軍事同盟であって、重要な内容は以下である。


 第二条  両締約国は,共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて,それによって戦争状態に陥ったときは他方の締約国は,直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える。


「わかっています。北朝鮮を攻撃した場合、中国が全力を挙げて援助を与えるということでしょう?」


 鳥羽は運の良さを自覚した。八神のPDF中でこの条約について触れられており、幸運にも鳥羽は面会までのわずかな時間の間にそこに目を通していたからである。


「ほう。知っていたならば君は先程こうのたもうた訳だ。米中を戦火に巻き込まんと!」

「!!!」


 ビトレイヤーのまさに鋭い洞察力であった。しかし極東の奇術師はそれより一枚上手であったのだから驚きである。


「もしビトレイヤー国防長官が、米中を戦争状態に巻き込もうとする意図に感付けば、君が米軍を弄ぶかのように思えて、憤るに違いない。であればこちらは核の脅威で恫喝するのが得策である」


 26ページの辺りにそう記述されていた事を、鳥羽ははっきりと記憶していた。


「協力してくださらないのならば、改憲は叶わず、再軍備も夢と消えますな。仕方なしに北のように核武装さえも検討せざるを得なくなりますが。よろしいのか!?」

「非核三原則があるだろう!」

「悪いが窮鼠は猫をも噛むのだ!」


 ビトレイヤーはあまりの鳥羽の剣幕に驚愕した。この男は本気である。そう思わせる万物をも捻じ伏せる強烈な圧力をビトレイヤーは感じた。そして他者の大きな感情のうねりを飲み込んで、自身の冷静さを取り戻すことに成功した。


「非礼は詫びるが、承諾の是非は私には判断できぬ。すなわち大統領の判断を仰がねばならない」

「いえ、私も国防長官ともあろう方に数々の無礼を働きました。では、何卒よろしくお願いします」


 二人は強い握手を交わした。そして事案は米国大統領、ベネフィットの下に移送されるのである。

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