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私は絶対暗殺されない。

 ベネフィット米大統領がまだその候補者であった頃、彼の連呼したフレーズがある。


「USAの国益、ただそれだけのために!」


 これは、ライバルの候補者が外国との融和とかを訴えていた事に対する強烈な皮肉でもあったのだが、ともかく彼はたった一つ、自国の利益を追求する事だけを公約にして、結局当選してしまったのである。


「もちろん利害の視点を持つ事は大切だ。だが外交や内政の調整の結果、時には一面的ではない基準から決断するのも大統領である。一切他の要素を無視して、自国の利益だけを考えるのであれば、別にベネフィットでなくてもロボットで務まるではないか」


 と、よく政治評論家を自称する論客に批判されたものだが、ベネフィットはこれに痛烈な切り返しを撃ち込んでいる。


「私がもし暗殺されたとしても、私の行動パターンが明確過ぎるゆえに、副大統領は私のコピーのように振る舞う事が可能だろう。暗殺という手段に訴えて私を殺すことは出来るが、私の政策は変わらず続くのである。となるとそもそも暗殺の目的は暗殺を脅しとして、政局を混乱させる事や、政策や決断を翻意させる事にあるのだから、その目的が果たせない以上、私は絶対に暗殺されえないのだ」


 ベネフィットはロボット説に対して、自らの一貫性が決して断絶され得ないという利点を強調した事になる。


 そういった米国の動きを、当時防研勤務であった若衆も当然傍観していた。


「板垣死すとも自由は死せずって事かね」

「それよりも巨人軍は永遠に不滅ですの方が近いだろう」


 という無駄な会話を春日飛雄と鳥羽光希は繰り広げていたが、まさか自分がそこに乗り込むことになろうとは思ってもいなかっただろう。



 12月10日、八神の命を受け、アメリカはワシントンに乗り込んだ鳥羽は、その足で真っすぐ国防総省本庁舎(ペンタゴン)へ向かった。


「お初にお目にかかります。ビトレイヤー国防長官」


 マイケル・T・ビトレイヤー。第30代合衆国国防長官である。50代前半、これはまさに人間として最も脂ののった時期と言えるだろうが、ビトレイヤーもまたそうだった。ビトレイヤーは陸軍士官学校(ウェストポイント)から陸軍に入り、湾岸戦争に従事したのち佐官となったが退役。その後政界に転出した歴を持つ。


「一ノ瀬副総理から話は聞いている。鳥羽君。君はつまるところ一ノ瀬の名代という事だね」

「いえ、私は八神海斗の名代として参ったのであります。国防長官」

「Yagami?…Who is he?」

「He is Japanese National Security Advisor」

「What?」


 アメリカの国家安全保障担当補佐官は[National Security Advisor]と呼称され、その任に就くはセルフィッシュであるが、鳥羽はそこに一語付して、日本における国防について助言を行う補佐官だと八神を形容したことになる。日本本国における9人の若衆、及び八神海斗の正式な役職はこの時点では定まっていなかった。


「役職なんてどうでもいいじゃないか。安保対特別顧問とかで良いだろう」


 大和龍臣首相は9人の若衆に対する行政上の呼称について興味関心を示さなかった。しかし、先のビトレイヤーの困惑からわかるように、「お前は誰だ」という外交上の問題が発生するのは必然である。大和首相はそもそも若衆らが、核ブラフ工作の中で対外交渉を行うなど全く想定していなかったのだった。


「は?鳥羽君がアメリカに渡った?コウヤン、それは先に一言言ってくれよ」

「ヤマトンは聞いていなかったのか。知ってると思ってたんだが」


 鳥羽がビトレイヤーに面会したのと時同じくして、一ノ瀬は総理執務室で大和に面会していた。一ノ瀬はもし難色を示されると面倒だと感じ、わざと事後報告で大和に伝えてすっとぼけたが、大和はそれに気付いて不満を表した。


「俺とお前の仲じゃないか。そういう事は教えてくれよ、コウヤン。第一私は八神を100%信頼しているんだ。彼の言う事には反対しないよ。むしろ良い助言が与えられたかもしれないのに」

「わかったよヤマトン。なら今俺が思っている事を正直に言うが、彼らにいい加減役職名を与えてやらないと、自己紹介のできない外交官が生まれる事になるぞ」

「あぁ。それはそうだな。では9人の若衆を安全保障対策本部特別顧問とし、八神を特別顧問筆頭としよう」

「センスは無いが実体との整合性は取れてるだろう。まあいいんじゃないか」


 煽られた大和は目を細めて一ノ瀬を一瞥したが、一ノ瀬は冷静に満面の笑みで応対した。


「コウヤン、万が一鳥羽君が上手くいかなかったときの為にこちらも一手打っておこう。事前に作戦内容を打診する事で、救われる例がある事を特別顧問筆頭に教えておきたい」


 一ノ瀬は大和の意を即座に汲み取り、実務協議に入った。

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