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第二段階を始めたい。

 9日に入ると、9人の若衆にも火の粉が飛び始めた。


「5日に官邸に現れた若い奴らは一体何者なんだ?」

「連続投稿の件の追及も良いが、政府の真意はあの若衆にスポットが当たらぬように仕向けているのではないか」

「あの若衆は連続投稿が無関係とも限るまい。大和総理は説明責任を果たせ!」


 思わぬ火の粉に驚き、若衆の一人、花山晴仁は八神に問い正した。


「お前さんがあの夜に『椿』に行ったのがバレると面倒じゃないか?」

「一連の動きは想定内だ。スーツに着替えてから行ったし、伊達眼鏡もかけた」

「ならいいが、お前さんは二度と表でスーツを着ない方が良いな」


 八神海斗は結局、今後しばらく和服での行動を余儀なくされる事になる。本人からすればさほど不自由には思わなかったが、その風変りな風貌は後に八神が半ば神格視される要因となる。


「でも俺らが何者かってのは気になるよな。俺が記者さんたちに説明してきてやろうか」


 秋月郁磨は八神に許可を求めた。


「あまり喧嘩を売らないでくれよ」


 八神の言を承諾したものと受け取り、少年時代にありとあらゆる気に食わない人間に啖呵を切ってきた男は、意気揚々とオペレーションルームを出て行った。


 官邸3階のエントランスホールに姿を現した秋月は、たちまち記者に囲まれた。一般の政治家にとっては精神的な苦痛であるが、秋月にとっては返って精神を高揚させることになった。彼は心中にある怒りのブラスターに弾丸を込めた。


「―どうせならこいつらが逃げ出すまで徹底的にやってやろう」


 秋月はそう決心した。記者のぶら下がりというのは、しばしば拒否される事もあるし、大量のマイクが回答者を参らせる質問者有利の性質があるが、こと秋月のぶら下がりは立場の逆転が起こった。


「あなた方は何者なんですか?特にあの和服を着た方は一体誰なんですか?」


 最終的な引き金を引いたのは最初にされたこの質問だった。この記者は、不幸にも相手を見誤ってしまったのである。


「その前にまず自分が名乗ったらどうだ?君たちは名刺を貰う前に自分から出すことを教わらなかったのかね。それとも、自分より若そうな人間には礼儀はいらぬと教わったか」


 秋月は八神に心から敬服していた。ゆえに八神の事を悪く言うような人間に対する態度はその裏返しとなって熾烈を極めた。それは記者に対しても適用されたし、例えば、大和でさえ八神をバカにするような態度を取れば猛烈なしっぺ返しを食らっただろう。


 いずれにせよこの秋月の反応は記者にとっても想定外だったのだろう。数秒の沈黙が起きてしまった。呆気に取られたという言葉が最もふさわしいように思われた。


 しばらく押し問答の末、遂に記者は名を名乗ったが、秋月はとんでもない事を口にした。


「それで、どういう質問だったっけ」




「秋月、あれはやりすぎだろ」


 オペレーションルームに満足げに引き揚げてきた男を待っていたのは冷たい反応だった。


「連中に一泡吹かせたいのは分かるが、何と報道されるか…」

「でも、我々が連続投稿と関係ないという事は納得させられたんですから及第点は頂けませんと」

「あのなぁ…」


 和服の天才は結局秋月を完全にコントロールする事は出来ないのであった。


「私を神格視するのは御免被りたいね。だって私は3つ年下の若造1人手に負えないんだから」


 とは後に八神が述懐するところである。



「それより、そろそろ作戦の第二段階に移るべきではないか」


 鳥羽光希が八神に促した。秋月、いや若衆全員は大変に驚いた。


「お前がまともな口を利けるとはな。いやはや私は世界のこれっぽっちしかまだ知らないようだ」


 そう秋月はのたもうたが、これに関する記録家・風見岳人の論評は異なる。


「恐らく、彼は自分が担当する第二段階を早く実行に移したかっただけなのではないだろうか。彼の性格の誤解してはならないところは、彼は皮肉趣味のある嫌な男なのではなく、思った事をそのまま口にする正直者という事だ。しかし非常識な物言いの多さからわかるように、彼がひねくれ者である事に変わりはない」


 作戦の第二段階が始まろうとしている。

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