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震源が東海村の直上だ。

 2022年12月7日、Twitter上に投稿された匿名アカウントのツイートが波紋を呼んだ。


「地震の震源地が東海村の直上にある。まさか核実験をしているのではないか」


 先だった6日に起きた最大震度4、マグニチュード5.0の地震の震源地は確かに東海村の直上にあった。添付された図から容易にそれは読み取れた。


 しかし、あまりに露骨で稚拙な工作であった。気象庁が6日に発表した地震の震源地は茨城県南部であり、先のツイートは明らかに震源地を偽装した合成写真であったからである。すぐにリプライ欄は「合成写真ではないか」「つまらない冗談だな」といった雑言で埋め尽くされた。アカウント主はあまりに悪い反応を受け傷心したのだろうか。すぐにアカウントを消してしまった。


 だが事態はこれに留まらなかった。全く同じ内容をツイートするアカウントがほどなくして500ほど確認されたのである。そのどれもが、他のツイートを全くしておらず、アカウントが開設されたばかりのアカウントであった事が、疑念を生んだ。


「この集団投稿は、誰かが仕組んでいる事は間違いない」

「こういった事を扱う悪質な業者がいるらしい。そいつらの仕業だ」

「キープロダクトという会社が怪しいぞ。会社のHPに載っている見本画像の中に、集団投稿をしていたアカウントと全く同じIDのアカウントがある」


 だが、この話題はさして盛り上がりはしなかった。


「それがどうした」


 冷ややかな反応が圧倒的だった。その一方で、疑惑とは、加速度的に膨らんでいくものである。自称:正義の捜査班(他称:暇人の特定班)たちによる特定作業の末、一つの事実に突き当たる。


「大和首相が12月6日の夜に会食した料亭『椿』に、キープロダクトの遠藤康介社長がいたようだ。大和首相がこの件に絡んでいるのではないか」

「本当だ。キープロダクトの遠藤社長の6日のインスタグラムに『椿』のメニューが写りこんだ写真が載っている」

「首相動静には一人で食べに行った事になっているが、こっそり極秘で会談したに違いない!」


 この事実が広まった途端、事が大きく拡散された。Twitterではトレンドの上位が集団投稿に関する事案で独占された。翌8日の午前、東郷官房長官による定例記者会見では大和と集団投稿の関係についての質問が出たほどである。


「全くの憶測によるものであり、政府として明確に関与を否定しておく」


 東郷の発言とは裏腹に、返って事態は熱を帯びる結果となった。東郷が若干しどろもどろになったからである。無論、東郷、ひいては9人の若衆の狙い通りである事は言うまでもない。


「酒が旨いな。こうも上手く行くとはな。東郷長官も中々良い演技だったな」


 官邸の地下、オペレーションルームで冬城翔は好物のワインを何杯も口にした。作戦の始動が上々である事に冬城は満悦であった。一度背中を押しさえすれば、雪だるま式に事は大きくなっていくという八神の読み通りであった。


「しかし、上は今頃対応に追われてさぞ大変だろう」


 秋月郁磨は腐れ縁の冬城にそう応じた。官邸の上階では記者がうるさくぶら下がりをしている事だろう。


「もう十分だろう。月詠、全てのアカウントを削除してくれ。これ以上詮索されて、IPアドレスの探知とかを本気でやられると噂の震源地が官邸だと、つまりここからツイートしたという事がバレる」


 和服の天才は成功を見届けて作戦の第一幕を終わらせるように指示した。最初のツイートに付いたリプライの大半さえ、月詠による自作自演であった。


 事の次第はこうであった。12月6日に地震発生を受けて、思わぬ好機と八神は一ノ瀬副総理兼財務大臣の執務室を訪れた。


「君を総理に紹介してやったのは私だが、さらに恩を着せられたいのかね」

「何とかなりませんか」

「キープロダクトか。わかった。何とかしておこう。その料亭に手配すれば良いのだな」


 一ノ瀬康世とは一体何者であったのかという謎は、ついに完全な解明を見ない。それは、彼が徹底した秘密主義を生涯やり通したゆえである。彼はなぜ八神に知り合ったのか。なぜ日米首脳会談前に在日米軍撤退の情報を探知したのか。そして、なぜ彼はキープロダクトの社長と面識があったのか。一説にはスパイ説もある。が、一ノ瀬は相手にしなかった。


「そんな、私がそんなことする訳ないじゃないですか。困ったお人だなぁ」


 おちゃらけた性格、愛嬌の良さは一種のベールとなって、素性を暴かれるのを防いだのであった。



 続いて八神は大和首相の執務室へ赴いた。


「今日の夜、会食のご予定はありますか」

「いや、私邸に帰るつもりだが」

「よろしければ私が良い店を見付けましたので、一緒に行きませんか。『椿』という料亭なのですが」

「わかった」


 その後、高度な情報技術を持つ月詠蒼明に対して、八神は集団投稿の開始を指示した。


「承知しました」


 月詠はまず、元の種を作り、それにひとしきり別のアカウントを運用してリプライ欄を作り上げたのち、集団投稿を行った。月詠の実力を示したところは、500にも渡るアカウントの新規作成と、ツイートを自動化することにより、たった一人で成し遂げた所にあろう。


「規約には違反しているかもしれないが、法律には違反していない」


 とは月詠の見解であるが、自身の性質を如実に表した言葉と言えよう。


 結局のところ、キープロダクトですら、社長の遠藤が料亭に行き、一人で腹を満たしたのみで、何も加担していないのであった。


 2022年12月7日は「核ブラフ作戦」が始動した記念すべき日だろう。

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