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9人の若衆は戦場を知る。

 官邸には、次々と計9台の車が横付けされた。世間的には「9人の若衆」と呼ばれることとなる面々である。その名には小さじ1杯の親しみと、大さじ1杯の嫌味が込められている。


 八神を前にしてその後ろ2列4行に続く9人の若衆は、記者団、ひいてはお茶の間から奇異の目で見られる事となった。特に一番前を歩く八神が和服に身を包んでいた事が大きな原因であった。


 秋月郁磨は記者団のカメラをこれでもかと睨みつけながら歩いた。彼は、八神に対する奇異な目に異常なまでの敵愾心を燃やしていた。


 秋月と冬城翔は幼馴染であって、幼年時代は手が付けられないヤンチャで、喧嘩がめっぽう強かった。まず秋月が啖呵を切って相手が手を出してきたところを、冬城が抜群の身体能力でもってこれを撃沈するのが彼らのやり方だった。


 いよいよ警察の世話になる寸前まで悪に染まった両氏は、ともに親からの絶縁を宣言されかけ、何とか回避すべく必死の和解の交渉を行い、条件を飲んだ。絶対条件として提示された防衛大学への入学は、不遜を是とする彼らにとっての屈辱だったが。そしてそこでひょんな事から八神に出会い、防衛研究所に所属する事となるのである。


 9人の若衆は総理執務室に入った。


「良く来たな。君たちの仕事場を案内しよう」


 出迎えた大和はあまりの付き添いの多さに驚愕したが、その狼狽は数瞬に留めた。彼らにベッドした以上、礼を欠いてはならない。


 官邸の危機管理センターのオペレーションルームは地下に存在する。若衆は入室して、現場の独特の臭気を感じた。


「戦場の何たるかを一目で理解した。二度と経験したくないね」


 後になって風見岳人はそう論評している。オペレーションルームは縦横共に数十メートルはあろうかという広さであり、前面には巨大スクリーンが存在し、様々な情報がリアルタイムで表示されていた。10人ほどが座れる長卓が2列6行の12個存在し、脇には巨大な印刷機があり、そのほとんどが絶え間なく稼働し続けていて、ガシャガシャと音を立て喧騒のベースを作り出す。200~300人ほどの人間が常に存在し各部署に分かれて業務に追われ、時には怒声が響くが、すぐに他の音にかき消されてしまう。


「彼らは安保対の根幹だ。そしてこの部屋がまさに安保対の真実だ。対策本部会議なんぞ虚像に過ぎない。報告を受け、時には指示を出すに過ぎない存在なのだ」


 大和は若衆にそう説明した。実像は君たちだというのが本音か。


「君らの卓はここだ。それから彼らが必要になったら好きに使ってもらって構わない」

「まずは組織の編成から取り掛かるか。いや、その前に喚起と掃除か…」


 合理主義者、冷徹な紳士の名で通る月詠はつぶやいた。ある種見たくないものを見てしまった時の自然の反応であり、人はそれを現実逃避と呼ぶ。


「総理、そろそろ次の予定がありますので」

「わかった。では、頼んだぞ。核を持ったフリ作戦の成功を祈る」


 河西秘書に要請された大和は、屈託のない笑顔を若衆に向けオペレーションルームを後にした。日本国首相が胸襟を開いて対話できる数少ない存在の一つを若衆は勝ち得たのである。しかしそんな名誉は彼らにとっては至極どうでも良く、いざ戦場に放たれた彼らを最初に襲ったのは、何から手を付けようかという心情であったに違いない。


「よし、じゃあまず座る席を決めようか」


 兄貴肌の花山はそういう時に打開できる漢だった。席次は防研の時と同じく、お誕生日席に八神が座り、八神から見て、左列手前から春夏秋冬、右列手前から花鳥風月と座ることが暗黙のうちに決まり着座する。彼らを束ねる八神が口を開いた。


「俺たちの仕事は、あんな風に無為無策の中で行き場のないフラストレーションを溜める事ではない。至極真っ当な事をしたり顔で取り組めば良い。所詮我らは国家レベルのハッタリをやるだけなんだ。どうせなら、伊達と酔狂で大真面目にやってのけて見せようではないか」


 一方、東郷官房長官に対して首相の大和龍臣はこう報告した。


「喜劇、『核ブラフ』に臨む若衆の怪演にご期待ください」

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