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疑い深き国防長官を徹底的に監視せよ。

11月2日(水) 米ホワイトハウス


「そう言えば、ジャパンの新しい総理、ミスターヤマトとはどんな奴なんだ?」


 ベネフィット米大統領とセルフィッシュ国家安全保障問題担当大統領補佐官は、その日、在日米軍の撤退に関しての意見を交わしていた。


「豪胆なフェローだと聞いております。大統領」

「ミスターユラギは自分で決められない奴だったからな。ミスターヤマトはどうだ?」

「何でも、組閣人事はほとんど自身と東郷官房長官によって決めたとか」

「ほう。派閥がどうこう言っている場合ではなくなったと見える」

「仰る通りかと」


 セルフィッシュはベネフィットの側近中の側近であった。そもそも補佐官は大統領と毎日接する役職であり、また補佐官とはいえ、安全保障担当職としては、国務長官、国防長官に匹敵する地位である。


「そう言えば昨日新聞で見たんだが。ミスターヤマトが改憲すると」

「ええ。彼はやる気です。何せ国難です。国民の顔色を窺う必要は無い」

「党に足をすくわれる心配も無い、という事か…」


 ベネフィットは俯いて考え込んだ。


「羨ましいのですか」

「そんな事は無い。俺はUSA大統領だぞ。ジャパンなんぞを羨ましがるものか」

「それは、失礼しました。ですが、世界の警察を辞めるなら、アメリカと日本は同じ国同士。対等がどうとか由良木前首相に仰っていませんでしたか」

「それとこれとは話が違う」

「あらそうですか」


 セルフィッシュはベネフィットに対して、忖度なく物を言える関係にあった。閣僚らも同席する中で、何度もベネフィットに対して辛辣な言を投げかけてきた。そしてその度、場を凍らせたものだ。


 だがベネフィットは叱り付けるような事はしなかった。セルフィッシュに対する、他とは一線を画する、一定の信頼があったものと思われる。


「ところで、組閣にミスタートーゴ―も絡んでいたと言ったな」

「ええ。大和と東郷でほとんど内閣を組み上げたものと」

「あいつは官房長官を続投したのか。中々老獪な男だから厄介だ」

「それだけではありませんよ。大統領」

「ほう?」


 セルフィッシュは、一ノ瀬という副総理が日米首脳会談前に在日米軍の撤退の情報を掴んでいた事を伝えた。


「ミスターイチノセ?聞かぬ名前だ。第一どこでそれを聞いた?」

「それは、私がですか。それとも一ノ瀬がどこでこの話を掴んだか…」

「両方だ」

「はい。そういう事でしたら、まずこの話はDIA案件でして」


 DIAとはアメリカ国防情報局である。国防総省の下にある諜報機関だ。


 その都合上、在日米軍撤退についての進言はこのDIAから、セルフィッシュを通じてベネフィットに行われたものではないかとの指摘が数多くなされた。


 その指摘は当たっていたが、ベネフィットはこれまでノーコメントを貫いている。その辺りの事情が明かされるのはまだ先の話だ。


 例えば、米軍撤退の報について、日本の外務省当局が米国と局長級協議を行った際、グレグソン国務次官補が聞いたばかりで困惑していると発言したのはこの為である。


「DIAによると、DIAの内部で何者かが一ノ瀬に情報を漏洩したのではないかと内部調査を行ったとの事ですが」

「DIAは国家に忠誠を尽くすプロだ。そんな下衆な真似をする奴はおるまい」

「仰る通り。そのような事案は見当たらなかったと」

「となると可能性は2つだ」


 ベネフィットの言を聞き、セルフィッシュはベネフィットを衝撃を受けたような顔で、そして確信的な目で見やった。


「この情報を日米首脳会談前に知っていた誰かが裏切り者だ。DIA以外にこの情報を知っていたのは?」

「…私と大統領…という事は!」

「おやおや…クックック」

「…!!」


 セルフィッシュは驚きを隠せなかった。私の目の前にいる男は由良木に会う前に一ノ瀬に伝えていたというのか?USAの大統領はスパイだというのか?


「ですが、大統領、あなたは一ノ瀬を聞かない名前だと仰っていたではありませんか!」

「そうだ。君はまたしても短絡的な思考に陥っている。わかるか?」


 セルフィッシュ、少考。


「あ…」

「俺と、お前と、ビトレイヤー国防長官が知っていた訳だ」


 国防情報局の上には国防長官がいる。国防長官がこの件を知っていた可能性は高い。


「2つの可能性とは、私が漏洩したか、ビトレイヤーかと。そういう事ですか」

「気付いたな。それで、その感じだとお前では無さそうだ。お前は自分勝手ではあるが人を裏切る男ではない」

「面目ございません」


 セルフィッシュはベネフィットを疑った事を反省し、申し訳無さそうに言った。


「私から君に一つ指示する。ビトレイヤーを良く観察しろ。逐一私に動向を伝えよ」

「Yes, sir」


 ベネフィットは、セルフィッシュを退かせ、次の一手を考えるのだった。

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