私が第100代内閣総理大臣だ。
激動の10月26日は終わった。
10月27日の午前、自由党の両院議員総会が行われた。軍師やその他党の重役が調整に調整を重ねた結果、無投票で、形だけの選挙すら行わず「話し合い」によって、私が総裁に選出される運びとなった。
「ご異議ありませんか」
「異議なし」
「では、大和龍臣君を自由党総裁に選出致します」
矢内章平両院議員総会長(71)がそう言った。この瞬間、私は自由党の第28代総裁となった。
それは、奇跡に等しい事だった。なぜなら私は派閥制度自体を嫌っていて、今まで総裁選に取り沙汰された事など一度も無かったからである。
公選形式ではないこの特殊な事情、すなわち由良木が倒れた事と、安保体制の危機が私にとって追い風となった。
「投票の結果を事務総長から、報告させます」
「大和龍臣君 328(後略)」
「右の結果、大和龍臣君を衆議院規則第18条2項により本院において、内閣総理大臣に指名する事に決まりました」
午後に行われた国会の本会議における首班指名選挙では、両院とも賛成多数で私が無事選出され、第100代内閣総理大臣となる事が確定した。
組閣本部を直ちに開き、軍師と最終確認を行い、組閣を行った。認証式など諸々の事、就任記者会見等も一般的なスピードよりも何倍も早く終わらせた。
特に、就任にあたっての記者会見が一番億劫だったので、一言で終わらせてしまった。
「本日、内閣総理大臣を拝命致しました。命懸けで職務に取り組む所存でございます」
これは後から軍師に少々怒られた。何より記者に驚かれた。ただそんな事はどうだって良いのだ。
代表質問も行われた。当然、思った事を正直に回答するスタイルで臨んだ。
「総理はこの安全保障問題においてね。例えば憲法改正と言った事は考えているのですか」
「在日米軍が撤退する以上、必要であればやるしかない。積極的に国民に提案していくのが大切であると思う」
「自衛隊の規模、軍事予算を拡大する事は考えていますか」
「在日米軍がしていた役割を、自衛隊が果たすためには、当然そう言った事は起きるものだと理解している」
私は何も容赦せずズカズカ物を言うタイプであり、例えばこんな回答をした。私から見れば至極当然の回答なのだが、あろうことかメディアどもはこれをこう報じたのである。
『首相 「憲法改正」やるしかない』
『首相 軍事予算拡大は当然』
本文を見ると、大和首相は戦前の軍国主義に回帰を目論んでいるとか書いてあるではないか。
これだからメディアはと思ったが、同時に国民の信頼も勝ち得ていく事が必要だと思い至り、コウヤンにメディアの懐柔を頼んだ。
「お安い御用だ」
それ以降、メディアの露骨な政権叩きは無くなった。
「ヤマトンが言うなら、各紙全部を首相賛美の記事で埋め尽くすことも出来るが。どうする?」
「そこまでしなくていいから」
コウヤンはやはり私の盟友であり、冗談も言い合える仲である事を、首相に就いて改めて感じ、やはりスパイではあるまいと確信した。
しかし、軍師は納得しなかった。
「メディアを簡単に操れるとは、つまり何かあったらあなたを24時間叩き続けさせる事も出来るという事だ」
「またまた…ところで、岡本君から何か聞き出せましたか」
「あいつは…大臣病にかかっている」
大臣病とは、その名の通り大臣になりたくて仕方がなくなる病気だ。ただ岡本君はまだ若い。当然まだまだチャンスは巡って来るだろう。
そうして月日は目にも留まらぬ速さで流れていった。メディアをコントロールし、組閣後1週間は順調だった。
11月に入り、いよいよ私は正式に憲法改正を表明した。
「日本を守るためには、軍隊が必要です。それには改憲が必要なのです」
誰でもわかる理屈で説明をしておいた。メディアには舌戦に強い側近の鈴木康介首相補佐官(48)を送り込んだ。
だがしかし、事態はここから暗転していくのである。




