東郷先生に官房長官を引き続き。
「うむ。全力で後押しさせてくれ。という事で、皆さんいかがか」
「異議なし!!」
私、大和は全身に力が、アドレナリンがみなぎって来るのを感じた。ようやく、総理大臣になる時が来た。
政治家にとって、総理の座は長年の目標、夢、憧れ、様々であるが、私は違う。私にとっての総理の座は通過点でしかない。
やりたい政策は今まで数多くあったが、出来る事より、出来ない事の方がはるかに多かった。
だが、総理の座に就けば話は変わる。自らが主導してこの日本を変えて見せる。取り分け安保問題という大きな国の岐路に直面している最中、手腕を存分に発揮して必ず成功させて見せるのだ。
「ありがとうございます。精一杯務めさせて頂きます」
状況が状況であり、党内の有力者からの全力の支援と、支持を勝ち得た私に怖いものはもう無い。派閥に囚われ、無駄な足の引っ張り合いに巻き込まれることも無いだろう。
そういう意味ではベネフィットに感謝せねばならないだろう。彼が居なければ、自由党が一つになる事は起き得なかっただろうから。
「明日、両院議員総会を開くとなると、総辞職は今日にでも行わないといかんな」
「はい。東郷先生よろしくお願い致します」
「では、これにて解散とする。伊端君、臨時閣議を開く。準備してくれ。それから臨時代理殿は閣議の後に、緊急記者会見を。まだ容体とか公式発表してないので」
「わかった。最後の仕事だな」
部屋を出たところでコウヤンが話しかけてきた。
「ヤマトン。月並みだが、応援してるからがんばれよ」
「何他人事みたいに言ってるんだ?もちろんお前は入閣してたっぷり働いてもらうよ」
「そう言われるとは思っていたよ。組閣はどこでやるんだ?」
「そうだな。どっかホテル…河西、今日の夜ホテルニューショータニ予約しといてくれ」
「了解しました」
その後の閣議で内閣総辞職が決まり、沢渡先生が会見を開いた。そこで由良木の容体が悪く、明日の両院議員総会で私を選出して次期首相とする事も発表された。
その日の夜の事、私は秘書の河西が予約したホテルニューショータニで組閣を行っていた。
この非常時だ。あまり凝らずにほとんどを留任する事も検討したが、自分一人で決めるのも良くないだろうと考え、東郷先生とコウヤンを呼んだ。
「いや、ここは大胆に取り換えてしまっていいと思うぞ」
東郷先生は官房長官の地位を手放したくないだろうから、留任すべきだと言うと思ったが、そうではなかった。
「とにかく、ベネフィットのせいで党はまとまらざるを得ない。だから派閥を気にするよりは、信頼出来る人とか、能力重視で良いだろう」
「私も同感です」
コウヤンもそう言ったので、大胆な組閣を行う事にした。
「では、人事に強い東郷先生の考えですからそう致しましょう」
「ただの老いぼれだよ。私は」
「いえいえ。むしろ私は東郷先生に官房長官を引き続き担当して頂きたいのです」
「私か…そうだな。それを決めるのは君だ。君の判断に従う。好きに使ってくれ」
「ではそうさせて頂きます」
「ヤマトン。俺はどうするんだ?」
「お前はクビだ」
「え?」
「冗談だよ。幹事長で良いか」
「いや、幹事長はもっと適任がいるんじゃないか。友利くんとか」
なるほど。友利は秀才肌で、65にしてはフレッシュな印象を受ける。それを幹事長に充てることで党が引き締まるという事か。
にしても東郷先生は最適解がどうしてこうも簡単に見い出せるのだろうか。
「財務大臣はどうでしょうか」
「良いんじゃないか。沢渡さんはどうするつもりかね」
「官房副長官起用を考えております」
官房副長官は重要性から閣僚経験者が就くこともあり、また沢渡先生は高齢を理由に首相を拒否した事を踏まえての提案だった。
「なるほどな。内閣官房参与で内閣顧問を私は考えていたんだが。そっちの方が良さそうだ」
「わかりました」
「先生はまるで軍師のようですな」
「ハッハッハ。とんでもない。人事について少し詳しいだけだよ」
いやそんな事は無い。東郷先生は、コウヤンの言うように、私にとって軍師のような存在かもしれない。きっとそうだ。




