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6/18

ACT.5 「サド。正式名称ドナチアン・アルフォンス・フランソワ・ド・サド。SかMか?でSって答えるならこれくらいは知ってるよな?」

読んでくださってありがとうございます!!


ブクマ&ポイント評価くださった方、ありがとうございます!!

励みになります。


ファンアートとか頂けたら泣いて喜びます。

 梓が過去の記憶をたどりながら語りだす。


 一見するとフツーの児童養護施設。

 建物はそれなりに古いが清潔。作りもしっかりしている。

 建物の横にある小さな広場では、子供たちが遊んでいる。


 その子供たちの中に、杏子と梓がいる。


 梓 「表向きは、みなし児や色んな事情で家族と暮らせなくなった子供たちを預かる児童養護施設。でも、その実態はご覧の通り。そして、この『ひまわりの家』を支配するサディスト。それが、善丸父さん、相場善丸・48歳だった」


 張り付いたような笑顔。

 痩せていて神経質そうな身体つき。 

 テカテカと光る、マッシュルームカットの髪質だけが異様に美しくキモイ。

 善丸、施設の一室に子供たちを集め、今日もサディスティックな「指導」が始まるのだった。


 善丸 「皆さん。おはよう。善丸父さんです。皆さんは、みなし児ですが、この『ひまわりの家』に入ったからには、私の子供です。皆が家族です。ケア・スタッフは、『お兄さん』『お姉さん』。私のことは善丸父さん、と呼んで下さい。愛し合いましょう!!」


 ケアスタッフが大仰な拍手をする。

 子供たちもそれにならい、拍手する。しかし明らかに表情が暗い。


 善丸 「遠慮はいりません。ここを自分の、本当の家だと思って、のびのび育ってください。…と、言っても、野比のび太くんみたく、なっちゃっちゃぁ、いけませんよ?ヒヒヒ…」


 ドン引きの子供たち。

 ザワザワと騒ぎ出す。

 子供の杏子&梓に至っては床に唾を吐いているっ!!

 善丸父さんの目がらんらんと輝く!!

 キモイッ!!


 その時、鋭い笛の音が鳴り響く。

 ケアスタッフの男が、首から提げていた笛を吹き鳴らしたのであった。


 ケア1 「ほら、注目!!ちゅうもぉーく!! 笑えないからって、ゴソゴソすんな!……あっ!!」


 善丸の不気味な笑顔。

 ビビッて固まるケアスタッフ男。

 そっとケアスタ男に近付き、素早く腹パンをかます善丸父さん。


 ケア1 「ぐひっ!?」


 うずくまるスタッフを尻目に、「指導」を再開する善丸。


 善丸 「ところで、皆さん。勘違いしないで欲しいんですが…皆さんは自分のことを人間だと思ってませんか?違いますよ。皆さんは、まぁ、ゴキブリです。道路の上で、グチャっと踏み潰された、ね」


 子供たち全員の顔色がサァーッっと青くなっていく。

 皆の頭の中では「ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ!!」という言葉だけが繰り返されている。

 ニヤニヤ……いや、ニィヌヤニィヌヤとした笑顔でもって善丸父さんは話し続ける。


 善丸 「出発点を考えて見ましょう。まず、マイナスでしょ?ね。皆さん、みなし児。マイナスですよ。人としてのスタートラインが。ぶっちゃけ、ね、人権、とかないわけですよ、リアルには。だって弱いんだもの。皆さん、大人がちょっと、本気出して殴ったら死ぬでしょ?死にますよ。あ、信じない?じゃ、ちょっと、やってみましょうか?」


 善丸が、ケア・スタッフに目配せする。

 するとケア・スタッフらは下卑た笑いを浮かべ、一番前に座っていた子供の胸倉を取って立たせ、殴ろうと拳を振り上げる。


 善丸  「…冗談です……よぉお」


 うすら笑う善丸。

 子供を突き飛ばすケア・スタッフ。

 恐怖のあまり泣くことも忘れて震える子供。


 善丸 「でーもーねっ!!コレがリアルなワケで、力無い者が生意気言っても、ひとひねりですから。『力』ね。コレ、残念ながら皆さんは一生、持ちようがありません。無理無理無理無理!!」


 善丸がものすごいスピードで頭をヘッドバキングさせながら「無理無理」を繰り返す。

 首がもげるんじゃないかと皆が思った頃、不意にその動きを止めた。

 そしてまた例のニィヌヤニィヌヤ笑いを浮かべながら言う。


 善丸 「ですので、ハイ!皆さんの進路、決定!『一生、従順』コレにつきます。わかるかな?私、いま、人生において、一番重要なこと言ってますから。子供だからって、分からない、とかナメてて大丈夫、とか、ホントありません。マイナスですから。…と、言うことで、いま、私が言ったこと、一言一句、間違えずに、復唱してもらいます。言えない人、間違った人、もちろん体罰です。それじゃ…あなたから」


 指さされた幼子。

 もう、訳が分からないくらいパニクル。泣いている。

 当然、ちゃんと言えるはずがない。

 

 その子の襟首を掴んで「ハイ、ダメェ!」と言いながら、次々と、子供たちを殴るケア・スタッフ。

 

 地獄。

 賽の河原で、鬼に積んだ石を突き崩される子供の魂のごとく。

 無慈悲で無惨な時間が流れる。


 杏子&梓は、そんな時間を、ただひたすら互いを支え合いながら耐えていたのだった。


 梓 「…毎日が、この繰り返し。私と杏ちゃんも、何度ぶたれたか分からない。…でも、自分がぶたれるより、もっと辛いことが、杏ちゃんにはあったんだ…」


 11歳の杏子、胸にドッジボールを抱え、善丸を睨みつけている。


 善丸 「じゃ、杏子ちゃん。アナタが、折った、と言うんですか?」

 

 杏子 「…はい」

 

 善丸 「私が丹精込めた、菊の花を」

 

 杏子 「はい」

 

 善丸 「そのボールで」

 

 杏子 「遊んでたら、ボールが跳ねて」

 

 善丸 「…10本とも全部?」

 

 杏子 「本当です。ポーンて」

 

 善丸 「…ウソですね」

 

 杏子 「本当です。ポーン、ポーンて!」

 

 善丸 「いいえ、ウソです」

 

 杏子 「本当です!ポーン、ポーン、ポーンて!」

 

 善丸 「……」

 

 杏子 「ポーン、ポーン!」

 

 善丸 「もういいです。…本当は、めぐみちゃん、が折ったんでしょう?」

 

 杏子 「いいえ。アタシが折りました。アタシ一人が折りました。ごめんなさい。罰を受けます」


 90度に腰を折って頭を下げる杏子。

 その姿を貼り付いたような微笑でみつめる善丸。


 善丸 「……見てたんですよね、私。めぐみちゃんが、花壇に入って、一本、一本、その小さな手で菊を折っていくのを」

 

 杏子 「…」

 

 善丸 「見てたんですよ、ええ」

 

 杏子 「…錯覚、だと思います」

 

 

 善丸 「錯覚ですか」

 

 杏子 「もしくは白昼夢」

 

 善丸 「寝てません。起きてますよ」

 

 杏子 「じゃ、妄想。または願望。変態。性倒錯者」

 

 善丸 「危ない人なんですね。杏子ちゃんの頭の中で、私は」

 

 杏子 「だって、めぐみちゃん花壇入んないし」

 

 善丸 「5歳児、覚悟の上での行為、だったんでしょう」

 

 杏子 「言ってること、分かんないし。めぐみちゃん関係ないし。とにかく、アタシ悪いんで。アタシ叩いてください」

 

 善丸 「杏子ちゃん、アナタ、Mですか?」

 

 杏子 「M、とかよく分かんないんで。11歳なんで」

 

 善丸 「…精一杯の仕返し、なんでしょうね。大嫌いな私が、大事にしているモノを壊すことで…。5歳児、大冒険ですよ」

 

 杏子 「だから、めぐみちゃん、関係ないから!」


 杏子、ボールを地面に投げつける。

 てん、てん、てん、と、転がってゆくボール。

 善丸、ゆっくりと杏子に近づき、肩に手を置き、目を覗き込む。


 善丸 「…許してあげましょうか?めぐみちゃん」

 

 杏子 「って言うか、やったのアタシなんで…」

 

 善丸 「うんうん。じゃぁ、ね。杏子ちゃん、アナタ、めぐみちゃんを、思いっきりビンタしてきて下さい」

 

 杏子 「は?」

 

 善丸 「そうですね…10回。10本ですから、10回でオッケイです」

 

 杏子 「意味が…分かりません」

 

 善丸 「分かりません?じゃ、ケア・スタッフに、めぐみちゃんを50回ビンタさせます」

 

 杏子 「だから、めぐみちゃんは…」


 服の裾をギュッと握り、涙を浮かべ、懇願するように善丸を見つめる杏子。耐え切れず、ついに涙を流してしまう。


 善丸 「杏子ちゃんの思いっきり、と、大人の思いっきり。どっちが、めぐみちゃんにはマシでしょうか?」


 杏子、唇を噛む。震える。息が止まる。意を決し、駆け去る。

 声をあげて笑う善丸。


 梓  「…杏ちゃんは、めぐみちゃんを10回ビンタした」


 梓、杏子を追って駆け出す。


 杏子の泣き声、絶叫が木霊する。

 

ここまで読んで下さってありがとうございますっ!!


よろしければブクマ&ポイント評価をっ(´;ω;`)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 6/6まで読みました! 会話形式で話が進むのはスラスラ読めて面白いです。主な展開がセリフで繰り広げられる中、想像しやすいのはスゴいことだと思います。今後が楽しみです! [気になる点] 全体…
2020/04/02 01:18 退会済み
管理
[良い点] まさに客席から舞台見てるようで、新鮮な気持ちで拝読しました! 役者さんの息遣いまで思い浮かぶようで、引き込まれました。 セリフも上手いですね。凄い…… [気になる点] もうね、子供が理不尽…
2020/04/01 21:47 退会済み
管理
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