ACT.4 「家族経営の鉄工所っていうだけで、なんだかドラマがあると思うのは勝手な妄想」
靖恵子が叫ぶ!!
靖恵子「ご馳走と言えば…手巻き寿司!」
梓 「てーまきーずしー!」
靖恵子、買い物に出掛ける。
杏子 「そう。1年前、靖恵子さんは行く宛の無いアタシと梓を拾ってくれた。そして生まれて初めての『家族』ってやつを味わわせてくれた。そうだ、出かける前に少しだけ、この、シノヤマ鉄工所の人たちのことも話しておこう。…まず、靖恵子さんの夫で、代々受け継がれてきた鉄工所を守る、鉄男さん」
鉄男、ランニングシャツに皮手袋、ハンチングというイデタチで、鉄骨を担いで現れる。
鉄男 「溶接ってのはなぁ、あっつい、あっつい二つのものが溶けて一つになることさ…人の心さ!」
杏子 「その息子で、鉄工所を手伝いながら、ミュージシャンを目指す、アタシたちの2コしたの金太くん」
金髪頭の金太、父親と同じ格好だが、手にしているのはエレキ。動きも踊りっぽい。
金太 「エレキ、って、なんか鉄っぽいでしょ?個性すよ。そうすね、いま目指してんのは、やっぱり、米津玄氏、っすかね」
ギターをかき鳴らす。よく分からない踊りも踊る。
杏子 「先代からずっと勤めている逢坂さん、女手一つで子供を育てながら働いてる小宮姐さん、それからアタシたちと同じように、高校行かず働いてきた若者たち」
やはり鉄男と同じような格好をした者たちが、手に色んなモノを抱えながら現れ、口々に夢を語る。
小宮 「子供がね、大学行きたいって言うから」
逢坂 「俺が作った手すりが、ジジババ助ける、バリアフリー、つんだろ?」
若者1 「金ためて、世界一周するんだよ」
若者2 「ネイルの勉強したくて」
靖恵子、お盆いっぱいの、おはぎを持って来る。
靖恵子 「そら、皆!おはぎだよ!」
皆 「おはぎー!」
鉄工所の面々、おはぎを手に、杏子と梓を囲む。
杏子 「皆、前向きで、ひたむきで、タフで、そしていつも優しかった」
鉄男 「家族ってのは、血の繋がりじゃない。互いを思いやる心だ。だから、俺たちは家族だ!」
皆 「イエーイ!」
鉄男 「それとな、人生ウマくやるコツは、自分にとって『一番ステキなモノ』がなんなのかを知ることだ」
皆 「ヒュ~」
鉄男 「マジメすぎてかっこ悪いだろ?でもな、ホントのことは、けっこう、かっこ悪い。あと、おはぎは手づかみで食べるもんじゃない。ベタつく。コレ、ホント。…さ、今日もいい仕事だ!」
皆 「おいーす!」
鉄工所の面々、笑い合いながら消える。
杏子 「家族。そして『自分の一番ステキなモノ』…。陣がいなくなって、17歳で社会に飛び出したアタシたちに、もう一度あったかいものをくれた皆…本当に、最高の家族だった…」
一瞬、遠い目をする杏子。
梓 「さてさて、杏ちゃん。ボチボチ出撃しますかい?」
杏子 「そうね。でも出撃前に、善丸父さんトコに行かなきゃ」
梓 「善丸父さん!忘れるとこだった。さすが杏ちゃん」
杏子 「死ぬほどお世話になった、あの野郎に、アタシたちの立派な姿、つうやつを、見せてやらないとね」
梓 「だね!」
杏子 「じゃ、まずは善丸父さんに向けて…出撃!」
梓 「イエッサ!」
敬礼し、駆け出す二人。
梓だけ立ち止まり、語りだす。
梓 「(客に)さて。『ひまわりの家』の善丸父さん。その、いかにも牧歌的で善良そうなネーミングとは裏腹に、私と杏ちゃんには辛い記憶を呼び起こす名前だ。杏ちゃんに変わって、その辛い記憶について、話しておこう。私たちが17歳になるまでいた『ひまわりの家』。そこは、子供たちにとっての地獄だった」
けたたましい笛の音と共に、そろいのジャージを着たケア・スタッフらが現れ、周囲に散らばっている子供たちを集めようとしている。
それを遠い目で眺めている梓。
ケア1 「集合!集合!早く『集会室』に集まりなさい!」
ケア2 「グズグズするな、バカ!」
ケア・スタッフら、少しでも遅れそうな子供たちに、容赦なく手を上げる。そのたびに、肉を打つニブイ音、そして子供らの泣き声があがる。
ケア2 「うるせぇ、泣くな!殺すぞ!」
ケア・スタッフ、耳障りなほどに笛を吹き鳴らす。
梓 「…その笛の音は、恐怖の始まり。毎日のように私たちは、その『集会室』に
集められては、『指導』の名の下に虐待を受けていた」
ケア2 「言うことをきかない『悪い子』は、こうだ!(殴る)」
ケア1 「ルールを守れない『ダメな子』に、居場所なんてないの!(殴る)」
手当たりしだい、子供らを平手打つケア・スタッフ。
梓 「表向きは、みなし児や色んな事情で家族と暮らせなくなった子供たちを預かる児童養護施設。でもその実態はご覧の通り。そして、この『ひまわりの家』を支配するサディスト。それが、善丸父さん、相場善丸・48歳だった」
不気味な笑いを顔に無理矢理はりつけた男、相場善丸が現れる。