ACT.12 「自分たちの幸せな時間は誰かの不幸な時間の上に成り立っている。逆もまた然り。みんな幸せ? あるわけない」
杏子と梓。
そして陣。
3人の幸せな時間。
完全勝利の美少女狂犬コンビ。
逃げてゆくモブス女子たち。
その背中に梓が追い打ちの罵声を投げ掛ける。
梓 「温室育ちの促成栽培がっ!! みなし児、なめんじゃねぇぞ、ゴルァアア!! 」
具体的にどの辺りを罵れているのか?
甚だ疑問ではあるが、とにかくモブスたちはその罵声に「うわあぁぁぁん」と泣き声をあげながら走り去っていった。
安全圏から一部始終を眺めていた陣が、先ほど無理矢理手渡されたゴミ系プレゼントを持て余しながら、近付いてくる。
陣 「……いつもの事ながら、ホント、負けないよね。2人は」
杏子 「当たり前でしょ」
梓 「あんなん余裕だよぉ」
杏子 「陣にすり寄ってくるメスブタ共は、アタシらが徹底的に殺処分するから」
梓 「ソーセージだよね!! 」
勝ち誇った笑顔でさらりと物騒なことを言いながら、陣の両サイド、それぞれの定位置に収まる2人。
そんな2人の顔を交互に見て、小さい溜息をつきながら陣がたしなめる。
陣 「でもケンカはだめだよ。2人は女の子なんだから、ケガしたら危ないよ」
むしろ危なかったのは、やり過ぎないかどうか、である。
陣からの小言に、大丈夫大丈夫いつものことよ、とばかりに2人がハシャいで答える。
梓 「キャハッ♪ 怒られちった。陣くんに、怒られちった」
杏子 「だぁーいじょーぶ。あんなのは、ケンカじゃないもーーん」
さっきまでの阿修羅のごとき闘志はどこへやら。
ポールに巧みにからみつくポールダンサーよろしく、2人は陣の腕に自分の腕をからませ、クルクル回りながら甘えた声を出した。
陣 「もーー。ケンカじゃなかったら、じゃ、アレはなに?」
杏子 「あれはね、専守防衛」
梓 「お国を、貴方を守ったのであります!! 」
ビシッ!! と、右手左足を素早く揃えた見事なユニゾンで敬礼する2人。
陣 「自衛隊かぁ~~」
「やられた~~」みたいなトーンで応える陣。
狂犬美少女コンビのヒャッハーぶりもさることながら、少年は少年でどうにも危機感が薄すぎると言うか、のほほんとし過ぎているというか。
とかく、陣は他の同年代男子たちとはまるで違っていた。
思考回路の処理速度が段違いに速い。あまりに速すぎて、だいたいの事柄を目にしたとしても、3周回って、うんOK。受け流しちゃうね、みたいな感じにだいたい落ち着く。
それが傍目には「大人」というか「落ち着いてる」とか「出来た人」みたいに見えるわけで。
そりゃぁ、日々、エロとニキビと髪型を悩むくらいにしか、その思考回路を使っていない他男子たちとは随分な差も生まれようというものである。
なにゆえに陣は、このような「諦念」一歩手前くらいの考え方をするようになったのか……それは、また、おいおいに。
はい戻って。
イケメンと美少女2人のキャッキャウフフ。
杏子 「迷惑? 」
杏子が上目遣いで、陣の顔を下からのぞき込む。
忘れているだろうから改めて言うが、ボブカット色白美肌の超絶美少女(おっぱい付き)の、上目遣いである。
3周先行思考回路の陣も、これは素直に可愛いと思う。
だから笑って。愛想笑いでなく、優しい笑みで。
陣 「だと思ったら、一緒にいない」
そう答える。
それを受けて、梓も負けじと陣の横に顔を近付けて囁く。
梓 「嫌いになっちゃう? 」
これも忘れているだろうから再掲しておくが、梓もスタイル抜群のスポーティ長身美少女(さらなるおっぱい付き)である。フツーに雑誌でモデルをやれるビジュアルだ。
耳にかかる梓の吐息を、くすぐったく感じ、陣はクスリと笑いながら答える。
陣 「くらいだったら、いま笑ってない。んん~~~~……申し訳、ナッシング!! 」
先程から持て余していたゴミ系プレゼントを、陣は掛け声と同時に空中にパーンと投げ捨てた。
3メートルほどの高さまで上がり、やがてそれらは重力に引かれて落下を始める。
狙ったかのような正確さで、狂犬美少女の眼前へ。
ポエムは杏子の目の前に。
写真立ては梓の目の前に。
――スパンッ!!
全くの同時。
狂犬美少女らは、目の前のそれらを巧みな後ろ回し蹴りでもって、蹴り飛ばす。
カン、カン、ガガガッ!!
……ズボーン、ヌプリヌプリ……。
憐れポエムはドブの中へ。
……カラカラカラ、バキッ!! ブロロロロー……。
写真立ては通りかかった軽トラに轢かれて粉々に砕け散ったのであった。
杏子と梓、陣を挟んでハイタッチ。
と、同時に、陣も爆笑する。
狂犬美少女も大概だが、陣も陣である。
陣 「あははははっ!! とにかく今は、3人で一緒にいるのが1番テンションが上がるよ!! 」
梓 「イエース!! 」
杏子 「そうこなくっちゃ!! よぉし、じゃ陣、梓。いつもの駄菓子屋、行っとく? 」
梓 「もちろんっ!! 今日こそは、クジであのでっかいスーパーボールを当ててやるんだからっ!! 」
陣 「ホントにあの店好きだねぇ、2人は。ま、僕も好きなんだけど」
杏子と梓、満面の笑みでグフフと笑う。
そして左右から陣の手を取り、3人で小走りに駆け出す。
梓 「早くいこっ」
杏子 「ほら陣も走るっ」
陣 「わっ、危ないよ、2人とも。……あれ? でもそう言えば……」
手を引かれながら、陣がふとした疑問を口にする。
陣 「2人とも、今日って補習じゃなかった? 」
杏子 「もちろん逃げてきたっ!! 」
陣 「ええ? 」
梓 「窓から抜けて、塀、乗り越えて」
陣 「あ。だから塀の上から……」
先に口にした疑問に加え、もう1つの疑問も解消された陣は、これ以上のツッコミは野暮と考え、とにかく今を楽しむ方向に思考回路をチェンジした。
杏子と梓の、翳りのない眩しいくらいに明るい笑い声が、陣にそうさせたのであった。
3人にとって、とてもとても幸せな時間であったとさ。
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そんな過去の自分たちを見送って、18歳の梓が言う。
梓 「……幸せな時間には必ず終わりが来る。そんな当たり前のことにさえ、気付かないくらい、あのときの杏ちゃんと私は、まだ幼かった」
大きくため息。
苦虫を噛み潰し、その汁をべっ!!と吐き捨てるような表情で梓は語り続ける。
梓 「……それから一ヵ月後、学校中にあるウワサが広まっていた……」
再び、遠い目をする梓。
最後まで読んで下さってありがとうございました。
ここのところの3回はキャラの大暴れでしたが、次回はストーリーが動きます。
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